第十六話 進化後の能力とか
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霊樹・マナトレントに進化した翌日から、新たに得た能力などの検証を開始した。
まずは何といってもスキルだろうか。
色々と増えたスキルを「自己鑑定」――つまりはステータス画面で確認していく。
【スキル】『地脈改善』
【解説】マナトレントの種族固有の能力。地下深くを流れる地脈に干渉し、その支脈を引き寄せる効果がある。濃密な魔素の流れである地脈が地表近くへ引き寄せられる事により、周辺は魔素の豊富な地へと変化する。ただし、根を張る場所を変えると効果は途切れる。
【効果】周辺環境を魔素の多い地へと徐々に変化させる。
このスキルは意識して使うようなスキルではないようだ。
俺がただその場に在るだけで、本当に少しずつ地脈を引き寄せるというスキル。
魔素が豊富になれば、その地に住む生命は魔力を回復しやすくなり、また長く暮らす事で魔力量も増えていくだろう。
最終的には、根から直接地脈の魔素を吸い上げられるようになるかもしれない。
デメリットがあるとするなら、俺やエルフたちだけでなく、周辺に暮らす魔物も強化されてしまう事だろうが……まあ、そこら辺は何とかなるだろう。
【スキル】『変異』
【解説】自身の一部を変異させる。変異には魔力を使用し、自身の知識、想像力の範囲内で可能となるが、自身からかけ離れた変異となるほど魔力を消費し、また失敗しやすい。
【効果】自身の一部を変異させる。
俺の依り代となるウォーキングウィードを生み出す際にも使ったスキルだ。
だが、本来の使い方としてはマナトレントとしての自身の体を変異させるのが正しい(?)使い方なのだろう。
実際に試してみたところ、枝の一部を蔦へ変化させたり、葉を大きく変異させたり、樹皮を硬質化したりと、実に汎用性の高いスキルだった。
だがその分、使いこなすには時間がかかりそうだ。
【スキル】『憑依』
【解説】自身の意識を依り代へ憑依させ、操る。依り代は自我のない生命かつ敵対していない事が条件。自我がある場合も同意があれば可能となる。憑依中は依り代の能力しか使えない。
【効果】依り代へ憑依する。
スキルの効果は名前の通り。
もう少しだけ詳しく説明するならば、俺がウォーキングウィードに憑依している間、俺は依り代となったウォーキングウィードが持つ能力、スキルしか使う事ができない。例外は憑依の解除くらいであろうか。
だが、それにしても色々と有用なスキルだと思う。
『変異』と同じく応用の効くスキルであり、また本体が危険に晒されないところも具合が良い。
おまけに思わぬ効果もあった。このスキルで憑依している間、ステータスを確認すると依り代のステータスを確認する事ができるのだ。
鑑定のスキルを持たない俺にとっては、限定的とはいえ自分以外のステータスを見れるのは新鮮で面白く、新たな発見もあった。
まあ、それらについては追々説明していこう。
【スキル】『結界』
【解説】自身が知覚・認識した空間に結界を張ることができる。その効果は自由に変更可能だが、効果および範囲によって消費される魔力も変化する。
【効果】結界を張ることができる。
このスキルは今のところあまり使い道がない。
というのも、俺がいるエルフの里にはすでに結界が張られているからだ。しかもその範囲は俺が張れる結界よりも遥かに広い。今の俺では里すべてを覆うような広範囲の結界は展開することができなかった。
とはいえ、いつか使う日が来るかもしれないので、どのような結界が張れるかは確認している。
実際に展開できたのは――、
物体の通過を制限する「物理結界」
魔法の通過を制限する「魔法結界」
他者の認識に作用する「幻惑結界」
――の三種類であった。
だが今は、いつの日かこの里がある森中を俺の結界で覆えるように夢見て、研鑽に励むばかりである。
――と、スキルについてはこのくらいであろうか。
他に強化された点といえば、新たな属性を得たことだろう。
俺が新たに得たのは水属性で、この属性によって使えるようになる魔法は「水魔法」「氷雪魔法」「生命魔法」の三つだ。
とはいえ、地属性と同じくこの全てに適性があったわけではない。
俺に適性があったのは水、もしくは水を主な溶媒とする液体を操る「水魔法」
そして回復や一時的な能力強化や能力低下を付与することのできる「生命魔法」の二つだった。
一方で「氷雪魔法」とは相性が悪いらしく、まったく使える気がしない。まあ、俺ってば植物だし、基本的に寒いよりは暖かい方が快適に過ごせるからね。たぶんそこら辺の生態が影響しているのではなかろうか?
ともかく、地属性よりは使える魔法が多く、おまけに「生命魔法」と『種子生成』を組み合わせることによって、面白いものを作れるようになった。
なんと、俺が生み出した果実に「生命魔法」の効果を付与することに成功したのだ。
食べれば傷が癒える果実とか、身体能力が上昇する果実とか……里のエルフたちに食べさせてみたところ、評判はかなり良かった。特に傷が癒える果実などは、本来、希少な霊薬の材料になるとかで物凄く貴重なものらしい――と長老が言っていた。
どこかと交易があれば俺の生み出した果実を金銭に変えることができるのだろうが、このエルフの里は隠れ里であるらしく、どことも交流がないらしい。
いや、金なんかあっても使う場所がないんだけどね。
――とまあ、色々と強化された俺なのだが、基本的な暮らしぶりはウォーキングウィードであった頃と変わらない。
エルフたちから肥料を貰い、果実をあげたり、依り代とした雑草姿でセフィと一緒に暮らしながら、時おり長老から魔法を習ったり、あるいは新たなプラントゴーレムを生み出したり、ゴー君たちを強化したり……。
何しろエルフというのは寿命の長い種族である。
加えて森の中は変化に乏しく、けれどのんびりとした日々がずっと続いていくのも悪くはない。
そう思いながら日々は過ぎ、俺が進化してから1年と少し経った頃――この森に騒がしい侵入者たちがやって来たのである。




