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第十五話 特殊進化


 ●○●



『進化が選択されました。

【種族】〈ウォーキングウィード〉は【種族】〈トレント〉へ進化します。


【称号】を確認しました。

 特殊進化条件を満たしました。

【称号】『賢者』の保有により〈トレントワイズマン〉へ進化可能です。


【称号】を確認しました。

 特殊進化条件を満たしました。

【称号】『ハイエルフの友』の保有により〈マナトレント〉へ進化可能です』



 選択した瞬間、画面を文字が流れていく。

 それによると薄々予想していた通り、俺は「トレント」なる種族へ進化可能らしい。

「トレント」って「樹人」とも呼ばれる動く樹のことだよね。動いていない普段は完全に樹木にしか見えないというやつ。


 ということはやはり、セフィの家で進化しなかったのは正解であったらしい。

 いきなり「トレント」になって体積重量が大増量したら、家が壊れるか床が抜けてしまう。


 しかしどうにも、ただの「トレント」へ進化するのではなさそうだ。

 おまけに、画面に流れる文字はまだ終わっていなかった。



『【称号】『ハイエルフの友』を確認しました。

 【神性値】の保有を確認しました。

 【神性値】「10」を消費することで、特殊進化〈マナトレント〉の位階上昇が可能です。


 【神性値】が不足しています。

  還元可能な【称号】を確認しました。

 【称号】『考える草』を還元し、【神性値】「5」を獲得可能です。


 【称号】『考える草』を還元しますか?


 はい/いいえ』



 正直なところ何がなんだか分からんが、『考える草』に特別な効果はなかったはず。ならば失っても問題ないだろう。

 俺は「はい」を選択した。



『【称号】『考える草』を【神性値】へ還元します。

 【神性値】「5」を獲得しました。

 【神性値】「10」を消費することで、特殊進化〈マナトレント〉の位階上昇が可能です。

 【神性値】を消費しますか?


 はい/いいえ』



 ここで「はい」を選択すれば、そのまま「マナトレント」とやらへの特殊進化と位階上昇が開始されるのだろう。

 もう一つの特殊進化先には「トレントワイズマン」とやらもあるが、どちらを選ぶべきか。


 何となくだが、どちらの進化でどのようになるのか、大まかだが理解できた。

「トレントワイズマン」は魔法特化。これも本能に刻まれた情報なのか、魔法による攻撃手段の拡充が図られるような気がする。

 対して。

「マナトレント」はより霊的な進化と言えば良いのか、エルフたちが崇める精霊、それが宿る御神木、その前段階のさらに前段階くらいの存在になりそうだ。順調に進化を重ねていけば、いずれ精霊にも成れる的な。


 進化の先を考えるならば「マナトレント」の方が最終的には強力な存在へ至るだろう。

 けれど、単体としての戦闘能力を求めるならば「トレントワイズマン」の方が圧倒的に上だ。

 おまけに順調に進化していけるという確証もないのだから、「トレントワイズマン」を選んだ方が生存戦略的には正解な気もする。

 しかし――、ここでの選択は決まっているだろう。


 特殊進化。

 そのさらに位階上昇とやらが出来るのだ。

 詳細は分からないとはいえ、弱くなる事はないはずであるし、どのような能力を得るのか、「トレントワイズマン」が魔法特化だと分かったように、朧気ながら理解できたのだ。

 そして、「マナトレント」を位階上昇させることによって得られる能力が、俺の選択を決定付けた。


 俺は【神性値】を消費するかという問いに、「はい」を選んだ。

 瞬間――、


『お、ぉおおっ!?』


 進化が始まる。


『ユグ!? どーしたのっ!?』


『大丈夫だ! 進化が始まるから、セフィは少し離れてろ!』


 俺の叫び声にセフィが心配そうに声をあげる。

 それに心配しないよう説明しながら、少しだけ距離を取ってもらった。


 そのタイミングを見計らったかのように、俺の体が一気に成長していく。

 根は深くさらに広範囲に張り巡らされ、一本一本が太くなっていく。

 茎は長く長く上へ伸びていき、その太さはもはや茎などとは呼べない。茶色の樹皮に包まれたそれは、幹だ。

 太く立派な幹からは何本もの枝が伸び、その先で青々とした葉を大量に茂らせている。


『ふおおおおお~!!』


 セフィが急速に成長していく俺を、歓声をあげながら見上げていた。

 そこにあるのは、見た目には一本の樹木だ。

 それもエルフの里にあるどの木々よりも低く、まだまだ若木とでも呼ぶべき小ささ。

 だが十分に「樹」と呼べるほどの大きさはあるだろう。普通の森ならば、どこにでもありそうな木々の一本。

 しかし、俺やセフィ、エルフたちのように魔力を捉える事ができる感覚を有しているならば、評価はまったく違うものになるはずだ。

 根は大地から大量の魔素を吸い上げ、幹の中には魔力と生命力が循環する。広がった枝の先では青々とした葉の一枚一枚が、効率的にエネルギーを生産していく。

 纏う雰囲気は、どこか神性なものを感じさせる、そんな樹だ。


 明らかに以前とは比べ物にならない力を感じる。

 俺としては、いきなり何段階も存在の格が上昇したようにも思えた。

 それほどの変化だ。

 そしてそれは、自身のステータスを確認したことで確信に変わった。



【固有名称】『ユグ』

【種族】霊樹・マナトレント

【レベル】1/50

【生命力】150/150

【魔力】230/230

【スキル】『光合成』『魔力感知』『エナジードレイン』『地下茎生成』『種子生成』『地脈改善』『変異』『憑依』『結界』

【属性】地 水

【称号】『賢者』『ハイエルフの友』

【神性値】3



 色々と数値が上昇した事以上に、新たなスキルが有能そうだ。

 おまけに水属性を新たに獲得していて、植物魔法だけではなく、別な魔法も習得できそうな予感。

「マナトレント」の位階上昇とやらは、おそらく種族名のところに「霊樹」と付いていることだろうか。

 詳細はこれから色々と確認していくべきだが、ともかく――ウォーキングウィードであった頃よりも随分と強化されたことだけは間違いなさそうだ。


 だが、問題もある。


『ユグがりっぱになった』


『ふふん、だろ? マナトレントに進化したんだぜ? しかも霊樹だ』


 驚きに目を丸くしながら、親戚のおばちゃんみたいなセリフを言うセフィに、少しばかり得意気に応じる。

 それも当然だと思ってほしい。

 何しろ普通ならトレントに進化するところ、特殊進化で位階上昇の特異な進化を遂げたのだ。我ながらなかなかのものだと思う。

 しかし、セフィは驚きつつも喜んでいる様子はない。

 コテン、と首を傾げて、


『ユグ、ちっちゃくなれたり、する?』


 そんな事を聞いてきた。


『いや、それは無理だな』


 いまや立派な木になった俺だが、この新たな体を小さくすることは出来そうにない。

 ということは、だ。


『そっか~……じゃあ、もう、セフィのおうちには、はいれない?』


 セフィは寂しそうに問う。

 この巨体では、今までのようにセフィの家で一緒に暮らすことはできないだろう。それは確かだ。

 だが――、


『いや? 俺はこれからもセフィと一緒に暮らすぞ?』


『ふえ? どうやってー?』


 当然のように言う俺に、セフィは目を丸くして問う。

 その答えは、進化前に確認できたとある能力――つまり、俺がマナトレントになる事を決意したスキルにあった。


『ふっふっふっ、まあ、見てろ』


 そう言って俺は『種子生成』のスキルを発動した。

 同時に新たに獲得した『変異』のスキルも発動する。

 ただ『種子生成』を発動させただけでは、おそらく「トレント」か「マナトレント」になる種しか生成できないだろう。そこで『変異』を使用する事により、俺は「ウォーキングウィード」になる種子を生成したのである。


 そうして枝の先に生成した林檎を地面に落とし、「グロウ・プラント」の魔法で発芽、成長させる。

 すると生まれたのは、進化前の俺とほとんど変わりない姿のウォーキングウィードであった。

 あとは『憑依』のスキルを発動させ、対象となる依り代を生み出したばかりのウォーキングウィードに指定すれば――、


『これなら今まで通りに、一緒に暮らせるだろ?』


『ふおお~っ! ユグがぶんれつした!?』


 ウォーキングウィードの体で念話を発すれば、こっちの体に俺の意識があることが理解できたのだろう。驚きながら見つめてくる。

 とはいえ、セフィの言う分裂とは違うのだが。


『分裂したんじゃなくて、こっちの体に憑依したんだよ』


『へー……そっかぁー』


 頷くセフィだが、たぶん理解してないな、これは。


『まあ、今まで通りに暮らせるって事だけ理解すれば大丈夫だ』


『おー! それならわかる! やったぁー!』


 理解したセフィがぴょんぴょんと跳ねて喜んでくれた。

 俺も一安心である。今さら外で一人で暮らすっていうのも、なんか寂しいのだ。




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