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人の事情と霊の事情  作者: ゆきまる
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グリグリ2

「はじめまして。急にすいません。私、七緒ななお 愛奈あいなって言います。」


 僕達の目の前にいるのは七緒愛奈さん。アイドルグループ‘キャンリー’のセンター、あややんさんでもある。


「風野坂桜といいます。現在彼女はいません。僕の心の中のセンターを務めてくれるアイドルを募集中です!」

「加藤清隆だ。よろしく。この馬鹿の言うことは気にしなくていいからな」

「はぁ」


 あややんさんは例に漏れず困った表情を浮かべる。


「で、俺達に何か用があってこの紙を渡したんだろ?」

「はいそうです。失礼ですが、呪いとか信じますか?信じていますよね?」

「どうしてそう思ったんですか?」

「ライブの最中、呪いがどうとか話されていましたよね?そういったことを話しているのが聞こえて」


 驚いた僕と清隆先輩は思わず顔を見合わせる。あの大音量が流れるステージで、僕達の話声が聞こえるなんて、明らかに普通じゃない。絶対音感・・・は少し違うか。それでも、何かしらの常軌じょうきいっした能力を七緒さんは持っているのだろう。


「私の周りはそういうの、信じない人ばかりで」

「確かに僕達は呪いというものを信じています。それ関係のことを仕事にもしています」

「え?じゃあ依頼とかすれば解決してくれるんですか?」

「もちろん!あなたのためならどんなことでも・・・」

「内容と報酬によるな」


 舞い上がっている僕とは対照的に、清隆先輩は冷静な態度をとる。

 ピエロばりに空回りする僕は、清隆先輩に詰め寄る。


「清隆先輩、先輩はキャンリーのファンなんでしょ?なら助けてあげなきゃいけませんよ」

「仕事とプライベートは分ける主義でね」

「けど、辛い時、苦しい時、あなたの側にいたのは何ですか?そうです。キャンリーです」

「俺のプライベートのなにを知っているんだ」


 清隆先輩は僕の口を無理やりふさぎ、あややんさんに話の続きを促す。


「これでも地下アイドルとして有名です。そこそこのお金はたぶん・・・用意できます」

「よし。じゃあ依頼内容を話してくれ、報酬はその内容次第だ」




 あややんさんの所属しているキャンリーは、本来6人組のグループだったが、今は5人で活動している。活動を休止している人物の名前は高橋たかはし 優理ゆうりさん。芸名はゆーやん。2か月前から連絡が取れていないらしい。

 3か月前から、ゆーやんさんに向けての誹謗中傷が明らかにエスカレートしていったという。殺害予告なんか当たり前、なんて状況が続いていたが、ゆーやんさんはめげずにアイドル活動に勤しんでいたという。しかし、遂に彼女は来なくなった。

 というのが、今回の件らしいが、これのどこに呪いが関わってくるのだろう?


「事務所に変な物が届いたんです」


 指輪が届いたらしい。

 それだけならファンのプレゼントかと思うのだが、問題は指にはめられた状態で送られてきたというところにある。

 人間の指と指輪、そのセットを見たゆーやんさんが腰を抜かすのも、無理はないというものだ。

 実際に本物の人間の指かは今の所定かではないらしい。何故なら、今その指は警察に預かってもらっているからである。さすがにあややんさんの所属する事務所も、この行き過ぎた嫌がらせ行為に対し、警察を頼った次第である。

 そして、指輪が届いた7日後、ゆーやんさんが消えた。


「私は詳しくないですけど、これって指輪の呪いのせいじゃないかって、そう思ったんです。これがその指輪と指なんですが」


 そういって、あややんさんは携帯の画面を僕達に見せる。

 指輪というからには金属でできたものを想像していたのだが、実際にゆーやんさんに届いた指輪は、糸か何かでできたものに見える。


「清隆先輩、これに見覚えは?呪物ということはなんとなくわかるのですが、何かは全くわかりません」

「これは‘グリグリ’じゃないか?」

「「グリグリ?」」


 僕とあややんさんは、その聞き覚えのない単語に、同時に首を傾げる。

 グリグリとはなんとも可愛らしい名前だ。ゆるキャラでそんなのがいそうである。


「ブードューのお守りみたいなものだ。基本的には魔除けの役目があるものだが、ものによっては、作り方によっては、使用者を呪う出来損ないのお守りに変化しちまう」

「それはもうお守りと言える品物ではないのでは?」

「いや、グリグリは御守りだ。普通なら不幸から守るが、この出来損ないは幸運を弾き飛ばして、不幸を吸い寄せる」

「やっぱりお守りじゃないですよ、それ」

「それでもやっぱり、お守りはお守りなんだよ」


 お前にもいずれわかる。そう言って清隆先輩はトイレに立った。

 僕はあややんさんから見せてもらった画像を見直す。指輪を先立って見て話してしまったが、それをめている指にも注目しなければならないだろう。


「この指、ミイラみたいですよね?」


 そう言うあややんさんの身体は震えていた。当然だろう。こんなものを見てしまっては。この画像を自分の携帯に入れ続けているのも、相当の勇気がいるものだろう。いや、こんなものすぐに消してしまえば、そもそも、撮る必要はあったのだろうか?


「しかし、この指自体は嫌な気配を感じません。恐らく人間の指とか呪いの類ではないと思うのですが」

「さすがです。そんなことまでわかるんですね!」


 心霊関係のことで、霊的な能力に関して褒められることが少ない僕は、その誉め言葉に思わず照れ臭くなり、ほほをかく。


「他にも何かわかることはあるんですか?例えば、この写真からゆーやんの場所がわかるとか」

「すいません。そこまではわからないです」


 そういう能力は、霊視に関しては、僕の分野でも清隆先輩の分野でもない。どちらかというと翠の分野なのだが、翠のほうも本領というわけではなく、そこまで強い霊視というものはできない。

 となると、どうやってゆーやんさんを探し出すか、それが問題になってくる。探偵みたいに、刑事みたいに足で探すというのも手だが、今回に限ってはその必要はなさそうだ。

 何故かというと、清隆先輩がいるからだ。

 強力な霊視ができないからといって、霊視に頼らなくたって、人を探すすべはある。

 無駄にパソコンスキルが高い清隆先輩にかかれば、この辺りの監視カメラの情報を漁るなんてことは、ちょちょいのちょいである。

 何故そんな高いパソコンスキルを持っているか、以前聞いたことがあるのだが、


「今は心霊関係の仕事も、デジタル化が進んでいるんだよ。だってそうだろ?式神で誰かに伝言を頼むくらいなら、電話やSNSのほうが簡単だし、効率的だ。霊障対策課でもいろんなデジタル化が進んでいるぐらいだ。将来こっち側の公務員を目指している俺も、その分野に力を入れるのは当然だろ」


 とのことだ。

 大学は出たいと言っていたのにも関わらず、今から就活のためにスキルを磨くとはたいしたものだ。将来のしの字も考えていない僕からしたら、まばゆい限りである。

 僕も将来のことを考えておきたい、考えておかなければならない時期なのかもしれないが、呪いがそれを邪魔する。呪いの正体が完全に判明できていない今、僕の中では不安が常に付きまとっている状況なのである。

 僕に将来はあるのだろうか?

 ふと、そんな不吉なことを考えてしまい、眠れぬ夜が続いている。こうなったきっかけは、僕の中に聖杯があると知った時からだろうか。あんな未知の願望器が僕の中で眠っていると考えただけで、とても恐ろしく、それが僕の呪いと関係しているのだと思うとさらに恐怖を覚えるというものだ。


「風野坂さん、大丈夫ですか?」


 そんな暗い考えが表情に出たのか、あややんさんが心配そうな表情で僕の顔を覗き込む。


「えぇ、大丈夫です。元気だけが取り柄ですから!」


 僕は力こぶをつくって無理やり笑顔を顔に貼り付ける。

 その時、清隆先輩がトイレから帰ってきた。と、思ったら、僕達のいる席を通り過ぎ、店の出入り口に向かう。

 何事だと思った僕達は、2人揃そろって出入口を見つめる。

 それと同時だった。けたたましい音とともに人が車にかれるのを目撃したのは。僕は轢かれた人の救助をしようと、席を急いで立つが、あややんさんの発した言葉のせいで、思わず立ち止まってしまった。


「ゆーやん。なんで、どうして!?」


 轢かれた人物は、ゆーやんさんその人だった。


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