四角士様4
その日の夜、僕と厳丈先で情報を整理することにした。ちなみに翠は和尚様のいる寺で、見張りをしている
「犯人は十中八九和尚さんだな」
「それは同意ですが、動機と解決策が不明ですね」
お年寄りばかり攫う理由がわからないし、相手が神様を利用しているとなると、下手に行動するのは下策である。
「そうだな。それに恐らくだが、被害者家族もこの件に噛んでいる」
「あの様子からしたら、間違いではないでしょうね。そうなると、考えられのは・・・考えたくはないですが、口減らし的な感じなんでしょうか?」
「それが一番自然だろう。姨捨山みたいなものか」
面倒を見きれなくなったご老人達を、山に捨てていくという悪習。それがこの町で行われていると思うとゾッとする。姨捨山は読んで字のごとく山に捨てるが、今回の件では違う。異界にお年寄りを捨てているのだ。これはまだ推理ではあるが、恐ろしい話である。そうなると、失踪したお年寄りの方々の生死は・・・
「余計なことは考えるな。今は失踪者を探すことに集中しろ。例えどんな状態だろうがだ」
「わかってます」
僕はひと呼吸置いて、落ち着きを無理やり取り戻す。
「四角士様の札にはどのような意味があると思いますか?」
「三角の中に四角。その四角の中に社だったな。仏教では図形に意味を持たせることがある。丸は縁、三角は社会、四角は法とか不変だったはずだ」
「今回のお札でわかりやすく言うと?」
「不変的な法、社会って感じか」
不変的。なんとも神様らしい言葉が出てきたものだ。法にしたって社会にしたって、人間社会では変化するのが当然のものなのだ。それが成長か退化かは未来の評価を待つばかりになるが。
話は脱線したが、あのお札を使うことによって得られるのは、‘不変的’な何かなのだろう。そうなると僕みたいな平凡な人間は、真っ先に不老不死を思い浮かべるのだが、お年寄りを何人か集めただけでかなえられるものではない。不老不死、寿命の延長が目的とするなら、むしろ若い、生命力あふれる若者を狙うのが論理的だ。なので、不老不死という線は薄いだろう。
「少し迷走してしまいました。お風呂にでも入ってすっきりしてきます」
「待て。今は紅緒が入っている最中だ」
僕の自然な行動に対し、先生は僕の腕をがっちりと掴む。
「どうしたんですか?何か問題でも?」
「問題しかねぇだろ」
「なんですか?嫉妬ですか?男の嫉妬は見苦しいですよ」
「嫉妬じゃねぇ。常識を説いているんだ」
「閉鎖的な学校の中にしばらくいたので忘れていました。年上女性の包容力というやつを」
「色気ついた猿を相手にする暇、あいつにはねぇよ」
そう言う厳丈先生はいつになく真剣な目つきをしていた。
「紅緒さん、何かあったんですか?」
「あいつには80歳くらいになる母親がいるんだが、その母親も狙われているんじゃないかと、気が気でないんだよ。今は施設にいるみたいだが」
なるほど。さっきまで、今回は被害者家族が一枚かんでいるとは推理したが、そうでない可能性もある。和尚様の単独犯という可能性も、被害者家族は重要な秘密を知っているだけで、犯行には関わっていないという可能性も、無差別犯という可能性もあるのだ。そうなると、確かに紅緒さんは気が気じゃないだろう。自分の母親がその、失踪者の条件に当てはまっているのだから。お年寄りで、旧四つ角村出身。
「ですが、それこそ考えすぎても仕方ないように思えますが。2つの条件が当てはまるのは、この旧四つ角村に何人もいるのですから」
「それでも考えてしまうのが人間だ。身の回りにそえほどの不安があるなら、人は考えてしまう。そういう生き物だろ?それは否応なくってやつだ」
「確かにそうかもしれませんね。ならば、紅緒さんのためにも、早めの解決が望ましいですね」
「翠から連絡は?」
「ありません。ですが、定時連絡はきているので、問題はないでしょう」
と言ったそばから翠から連絡がきた。
「翠、何かありました?」
「寺が不穏な気配で包まれているっす。和尚様が何かしらの儀式をし始めたと考えていいっす」
「その寺に侵入することは可能ですか?」
「さっきまでお弟子さんみたいな人達の気配がいっぱいあったっすけど、今は全くないっす。侵入は可能っすよ」
「すぐ向かいます。翠はそこで待機を」
僕達は準備を手早く済ませ、危険なので紅緒さんを巻き込まないよう、声をかけずに例の寺へと急ぐ。




