四角士様2
四角町の図書館に来た僕達は、四つ角村の歴史、文化などを調べている。特に四つ角村に変わった、独自の宗教がないかを詳しく調べている最中だ。
「翠、ありましたか?」
「今のところ見当たらないっす。それより、あれを見て欲しいっす」
そう言って翠は、にやけた顔で僕達の後ろを指さす。指さす先を見ると、そこには厳丈先生が。相変わらず僕達とは比べものにならないぐらい早いスピードで、資料を読んでいる。
何がそんなにおかしいのだろうか?
「桜先輩は鈍いっすね。LOVEっすよLOVE」
「あの愛妻家に限ってそれはないでしょ」
「わかんないっすよ。あの2人、昔なにかあった雰囲気しないっすか?」
「なにかあったって、心霊関係でしょうに」
「吊り橋効果ってやつっすよ。怖い経験を男女で経験して・・・きゃー」
恋愛脳の翠が、1人で勝手に盛り上がっているが、僕としてはそうは見えない。男女の友情肯定派の僕としては、友のピンチに駆けつけただけだと思っている。
「もしも翠の言う通りのLOVEだったとしても、大人で既婚者なんですから」
「大人の恋愛・・・なんかエロい感じがするっす」
「まぁ確かに。そこは否定できないですね」
大人の恋愛っていう単語が、高校生の僕らにはぐっとくるなにかがあることは確かだ。
なんていうか、その・・・翠の言った通りエロい。
ここで翠の小芝居が入る。
「今は奥さんがいないんだから、俺は自由だぜ。なぁ、俺と熱い夜を過ごさねぇか?」
翠が厳丈先生役。僕が紅緒さんということになるのか?
こんなところでふざけている場合ではないが、後輩とのコミュニケーションも先輩としての義務なわけで、ここはのってみることにしよう。
「でも、あなたには可愛い可愛い奥さんが・・・ダメです」
僕はできるかぎりの高い声を出して応える。
「今いねぇやつは気にするなよ。HOTでCOOLな夜を俺っちとどうよ?」
厳丈先生のキャラがブレブレだが、これはこれで面白い。
「あぁ、おやめください厳丈君」
「よいではないか、よいではないか」
熱が入り始めた僕達の演技だったが、本の角が僕達を襲う。
「「いたっ」」
言わずもがな、厳丈先生の渾身の一撃である。後ろを振り返ると、とんでもない圧と眼力で、僕達を睨みつけていた。生徒を見る目ではなかった。
「図書館ではお静かに」
「すいません」
「ごめんなさいっす」
「ったく、手を動かせ。手を」
厳丈先生に言われた通り、目の前の資料を黙々と漁り続ける僕。資料を探し始めて2時間。ようやくそれっぽい資料を見つけることができた。見つけた資料は四つ角村の文化と歴史という本。その最後の方に書かれていた。
四角士様というのは、四つ角村に伝わる神様の名で、比較的穏やかで優しい神様らしい。特にお年寄りに優しい神様で、お年寄りに幸福と長寿をもたらすみたいだ。そんな神様が何故、失踪事件と関わるようになったのか。そのあたりを解明していきたいのだが、なにせ資料が少ない。ここでの調査はこれが限界かもしれない。僕は厳丈先生に調査の中断を提案すべく、先生を探すことにした。図書館の広さはそこまで広くないので、簡単に先生を探し出すことには成功した。そこには翠もいて、2人で展示されている巻物を見ていた。僕も気になったので、声をかけずに巻物を見る。
巻物に描かれていたのは、四角士様と思われる神様と、紅緒さんに見せてもらったお札に描かれていた社。そして社に群がる人々の絵だった。
「これは、いつの時代のものなんでしょうか?」
「平安時代みたいだな」
「それはそれは、なかなかの骨董品ですね」
僕と先生は目を合わせずに、巻物に視線を送りながら、会話を続ける。
「なにかわかったか?」
「はい。随分と優しい神様みたいですね、四角士様というのは。それ以上はなにも」
「お優しい神様ねぇ。今回の失踪事件、神様の優しさからきているものかもしれんな」
「神様にとっての優しさ、慈しみは、必ずしも僕ら人間にとっていいこととは限りませんよ。現に、紅緒さんはこの件で頭を悩ませているんですから」
神様なんてそんなもの。人間に生贄を要求して、その代わり幸福をもたらすといった感じで、価値観が違うものなのだ。人間同士ですら幸福の価値観が違うのに、神様と人間なら、その違いは‘優しさ’と感じられない程違うものになるだろう。
「2人共、いつまで巻物見てるっすか?」
「すまん。そろそろ紅緒の家に戻るか」
「そういえば、翠達が今日泊まるところって」
「紅緒の家だ。さっき見た通り、無駄にでかい家に1人で住んでいるからな。部屋はいっぱい余っているみたいだ」
ここで翠のセンサーがまたもピンときたらしい。にやけ顔のまま厳丈先生に問いかける。
「翠達がいなかったら、異性の旧友と2人同じ屋根の下ってことになってたっすよね?そこらへんどうなんすか?」
「確かに!そこらへんどうなんですか、厳丈先生?」
僕達2人はにやにやしながら、先生に詰め寄るが、その結果はげんこつというものだった。
「馬鹿言うな。さすがにおまえらがいなかったら、近くのホテルに泊まってたよ」
厳丈先生はげんこつを喰らわせた僕達の首根っこお掴み、図書館の出口へと向かう。




