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人の事情と霊の事情  作者: ゆきまる
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四角士様1

「だから、クリームシチューをご飯にかけるのは邪道ですよ」

「なに言ってるんすか。クリームシチューはご飯にかけることによって、至高のそれになるっす」

「厳丈先生はどう思います?」

「先生は翠の味方っすよね?」

「心底どうでもいい。それよりお前ら、もうすぐ着くんだから大人しく降りる準備しておけ」


 僕達のクリームシチュー談義に水を差す厳丈先生にそう言われ、僕達はバスから降りる準備をする。僕達が向かっているのは四角町よつかどまち。二口村と四つ角村が最近合併してできた、新しい町である。

 言わずもがな、仕事で来ているのだが、その内容は、老人が失踪しているというものだ。それも考えられない頻度、回数でだ。そこで調査依頼が入ったのだが、その相手はなんと、厳丈先生の学生時代の友人だというではないか。本当は事前に厳丈先生だけで調査をし、解決できるならそこで解決といった予定だったのだが、先生の過去に興味を持った下世話な2人が、野次馬根性で無理やりついて来た形だ。厳丈先生の機嫌が微妙に悪いのもわかる。

 さて、そんなこんなで四角町に着いた僕らが、最初に目指した場所は、葦原あしわら 紅緒べにおさんのお宅だ。


「紅緒、久々だな。元気そうでよかった」

「厳丈君も元気そうでなによりね。ちゃんと先生やってるの?」

「やってるよ。お前の方こそ、町長秘書ってやつをちゃんとやれているのか?」

「そりゃあもちろん、ばっちりよ!で、そこの2人が厳丈先生の可愛い教え子ちゃん達かしら?」


 そう言って紅緒さんは、僕達の方へ視線を送る。


「はいっす。可愛い可愛い生徒の1人、水樹翠っす」

「同じく、可愛い生徒代表、風野坂桜といいます」

「馬鹿生徒2人だ。しばらく厄介になる」

「はっはは、元気があってよろしい。よろしくね。この件で来たということは、2人共厳丈君みたいに‘見える人’なんだね」


 ‘見える’とはもちろん、幽霊のことだろう。

 僕と翠は同時に首を縦に振る。


「失礼ですが、紅緒さんも‘見える人’なんでしょうか?」

「え?いいえ、私は見えないわ。昔、厳丈君に巻き込まれて1回見たことが、経験したことはあるけど、それ以降はさっぱりよ」

「そうでしたか」


 こういうことは実は珍しくはない。霊感はないが、何かしらのきっかけで幽霊が見えてしまったという人はいる。そういう人は、普通の人よりも霊に関する事件に巻き込まれやすいという事例もあるのだが、紅緒さんはその例に当てはまらなかった、幸運な人みたいである。

 いや、今回の件が霊関係だとすると、そうとも言えないか。


「昔話に花を咲かせるのも悪くないが、本題に入りたい」

「四角士様って知ってる?」

「聞いたことねぇな」


 僕も翠も聞いたことのない名前に首を傾げる。

 この周辺にだけ伝わる妖怪かなにかだろうか?


「四角士様っていうのは、四つ角村に伝わっている土着の神様で、人をさらう神様・・・って言い方が悪かったわね。死に近い人を、お年寄りを迎えに来る。そういった言い伝えがあるものなの」

「死神みたいだな」


 人を誘拐する妖怪や逸話は確かに存在する。

 日本では神隠しや、青坊主、山姥やまんば、隠れ座頭など。海外でいうと、ハーメルンの笛吹男が有名だろうか。そのどれもが人を攫うものだ。しかし、子供のみを狙うというのは聞いた事があるが、お年寄りを狙う話は聞いたことがない。


「紅緒さん、それを拝見してもよろしいでしょうか?」


 僕は先ほどから気になっていたものを指さす。それはお札のようなものだ。三角形の内側に正方形が書かれており、その正方形の内側にやしろのようなものが書かれている。


「これ、行方不明になった人達の家にあったものなの。それが今回の件の唯一の共通点」

「見たことねぇな」

「ですね」

「翠も見たことないっす」


 誰も見たことのないお札ではあったが、これを見た僕達が共通して感じたことがある。


「見たことはないですが、嫌な気配はしますね。翠、封じの札を」

「はいっす」


 僕は翠から札を受け取り、それを紅緒さんのお札に重ねるように貼る。すると、先ほどから出ていた嫌な気配が霧散していくように消えていく。


「やっぱり、まずいものだったの?」

「はい。このお札を持っている時、何か異変はありませんでしたか?」

「特にはなかったわね」

「となると、何かトリガーのようなものが必要な術式なのかもしれませんね。お2人はどう思われますか?」

「翠も同意見っす」

「となるとあれだな。このお札がある家で、なにかしらのきっかけでトリガーが発動して、高齢者が消えるってことか。この札、どのくらいこの町にあるんだ?」


 紅緒さんは神妙な面持ちで答える。


「町の半分。旧四つ角村の住人は全員持っていると考えたほうがいいわ」


 その事実を聞いて思わず僕達は固まってしまう。

 何かしらのトリガー、きっかけが何なのかは今のところ不明だが、こんな危ないものがそこらじゅうにあるのは危険極まる事態だ。


「確認のために、失踪者が全員旧四つ角村出身の方か調べてみるわ」

「そうしてくれ」


 紅緒さんは急いで町役場に行く準備をし、僕達もここを後にする。


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