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人の事情と霊の事情  作者: ゆきまる
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人食いオルガン2

 学園に着いた僕達は、風野坂学園の代表生徒として、毅然きぜんとした態度でこの交流会に挑まないといけないだろう。なにせ、僕達のこれからの行動で、このやんごとなき女学園とお近づきになれるかもしれないのだから。

 姉妹校になってから最もお近づきになるにはどうすればいいのだろうか?

 やはりイベント系の強い生徒会に入るとか?

 それともいっそ今この件を仕切っている風紀委員に入るとか?

 ・・・どちらも無理な話だとは思うが、夢を見たっていいじゃないか。

 話を戻して。

 僕達は前述したとおり、毅然とした態度で学園を歩いている。校門前で待っていたシスター・アリナことアリナ先生と、生徒会長の伊勢さん。この2人の案内を受け、校内を歩いている最中だ。目的地は生徒会室らしい。


「水樹様、何故風野坂様はあのような顔を、鼻の下を伸ばしているのでしょうか?」

「伊勢さん、あれはもともとあんな顔なんす。気にしないでくださいっす」


 ‘僕以外’はみんな毅然とした態度だったらしい。

 肝心な僕は、鼻の下を伸ばして、学園を見渡している。1人だったら確実に110番案件の顔をしていたらしい僕は、郷田先輩にげんこつを喰らい、物陰に連れていかれる。


「カタリーナの、妹の学校でなにかしてみろ。尋問室で行った事が可愛く思えるような・・・」

「脅さないでください。僕だって公私は分けて」

「風野坂様、どうなされたのですか?」

「な~んでもありませんよ。さぁ伊勢さん、エスコートしましょう」

「あの、案内するのは私なのですが」

「細かい事は気にしないでください。さぁ行きましょう。愛の逃避行へ!」

「は、はぁ」


 僕の舞い上がりすぎたテンションが見てられなかったのか、郷田先輩のげんこつがまたとんでくる。これ以上は僕の頭が変形してしまうので、ここらで真面目モードに、仕事モードになっておいたほうがいいだろう。


「最近、この学園でおかしなことはありませんか?」

「変わったことですか?」

「はい。風野坂高校の生徒代表として、ダーム学園のことは何でも知っておきたいんです」

「そうですねぇ・・・アリナ先生、何かあるでしょうか?」

「特にこれといっておかしなことはありませんね」

「そうですか。それにしてもアリナ先生、日本語がお上手ですね。日本に来て長いのですか?」

「20年になりますね。10歳の時に神父である父とこの国に渡り、以来、このダーム学園にお世話になっています」


 それにしても、生徒の行方不明を知っているだろうに、特におかしなことはないと言うのは奇妙な話だ。他校の生徒に知られたくないという気持ちはわかるが、僕達の側にはカタリーナさんがいる。事情を知っているはずのカタリーナさんがいるのだ。

 内情は知っていると思われてもおかしくないはずなのだが。

 それでもなお、知らんぷりを決め込む理由があるのだろうか?

 そんなこんなで、雑談をしながら歩いていた僕達は、目的の場所にたどり着いたが、


「すいません。お手洗いはどこでしょうか?」

「男性用のトイレは少ないので・・・ここからは少し遠いので案内しましょうか?」


 アリナ先生の申し出はありがたいが、僕の目的はもちろんトイレではないので、ここは遠慮させてもらった。アリナ先生に場所だけ教えてもらい、この場から離れようとした僕だったのだが、


「風野坂、妙なことをしてくれるなよ」

「桜先輩、更衣室とか入ったらダメっすからね」


 余計なクギをさされてしまう。

 僕の日頃の行いが悪いのは確実なのだが、ここまで信用がないのも悲しい。いや、いっそ清々しいまである。

 そんな2人の忠告を軽くいなし、僕はこの場から離れる。




 僕は学園内の案内図を頼りに、この講堂まで来た。普段はここでミサや学校集会が行われているのだろう。

 僕は歩みを進め、目的のものの前に立つ。


「で、これが例の人食いオルガンですか」


 荘厳という名が似合うそれは、講堂の壇上付近に鎮座しており、その存在感は凄まじいものであった。なにせ、


「呪われてますね」


 それは呪いの雰囲気に満ちていた。およそ神を信仰する学園に置いてあるとは信じられない程に。

 似つかわしくない。

 これは・・・どうしたものか。解呪はそこそこ得意な方だとは自負しているが、それでもこれは僕の手に余る。厳丈先生ならなんとかならないことはないと思うが、生憎とそれは出来ない。厳丈先生は今、学校関連の集まりで県外に出張中で、帰ってくるのは3日後だ。急を要するこの件では頼れない。次に翠に頼る手もあるのだが、あの後輩は魂のあるもののコントロールと、悪霊を払う力に特化しており、今回の件ではあまり力にならないだろう。悪霊を払うことと、呪いを解くのは似たようなものに聞こえるかもしれないが、その本質は全く違うものなのだから。

 僕がどうしたものかと頭を悩ませていると、後から声をかけられた。


「風野坂さん、トイレではなかったのですか?」


 僕は振り返らず、オルガンに目を向けたまま口を開く。


「アリナ先生こそ、何故ここに?」

「あまりにも風野坂さん帰ってくるのが遅かったので、探しにきた次第です」

「それはそれは、わざわざすいません」

「郷田さんと水樹さんから更衣室から探すように言われていたのですが、なぜでしょう?」

「さぁ、なぜでしょう?」


 郷田先輩は純粋に僕のことを信用していないからくる発言だろうが、翠の場合違うかもしれない。僕の調査時間を稼ぐために、そういう発言をしたのだろう。

 頼むからそうであってくれ


「それにしても、更衣室から探していたにしては、ここにたどり着くのが早い気がしますが」

「神のお導きです」

「アリナ先生には大変親身になってくれる神様がいるんですね。羨ましいです」

「あなたも神に祈りをささげ続ければ、きっと神の恩寵おんちょうを得られますよ」


 アリナ先生はそう言って目の前で十字を切る。


「それにしても、立派なオルガンですね」

「立派ですが、それ程年代物という訳ではありませんよ。このオルガンが来たのは10年くらい前ですかね」

「おや、もっと年代物かと思っていました」

「そういうデザインなんですよ。それよりも、用事の方は終わったのですか?」


 僕がトイレに行きたがっていたのが嘘だと、もうとっくにわかっているようだったので、ここは大胆に聞いてみてもいいのかもしれない。


「これが人食いオルガンと噂されているのはご存知ですか?」

「・・・‘また’そういう噂が流れていることは知っています」

「また?」

「4,5年前にもそういう噂はありました」

「その時も行方不明者が?」

「カタリーナさんから現状をお聞きなのですね。ならば話は早いです。この件から手を引いて下さい。学生の出る幕ではありません」


 これは学園の教師としての、大人としての注意か、はたまた・・・


「桜先輩、こんな所にいたっすか」

「翠、こんな所で何をしているんですか?会議の方は?」

「郷田先輩がつつがなく進行しているっす。翠は初めから部外者っすからね。いてもいなくても大差ないっす」

「まぁ、確かに」

「会議開始5分後には抜け出してきたっす」

「さすがにそれは早くないですか・・・ん?にしてはここにたどり着くのが遅かったですね」


 翠ならば僕がくだんのオルガンのもとへ行っていると、容易に想像がつくはずなのだが。


「更衣室から探してたっす」

「・・・」


 僕の信頼が地の底にあるということを再認識させられた。


「はぁ。‘また’ですか」


 アリナ先生は溜息をつきながらこの場を去ろうとする。


「アリナ先生、‘また’とはどういう意味でしょうか?」

「4,5年前も、人食いオルガンの噂が流れていた時も、若い男女がここに訪れて、私の前で漫才のような掛け合いをしながらオルガンについて調査していたんです」

「その方たちの名前は?」

「男性の方は覚えていませんが、女性のほうはクリス・レッドクレイヴです。この学園の在校生でした」


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