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人の事情と霊の事情  作者: ゆきまる
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即身仏4

状況を上手く飲み込めない静さんは、檜山さんに促されるまま、先ほどまでクリスさんの座っていた切株に腰を下ろしている。今日は間違いなく静さんにとって厄日だろう。そんなことを考えながら、僕はこの場を後にして、少し離れた大木の側に行く。


「あなたの計算通り、いえ、希望通りですか?」

「・・・そうですね。おおむね私の希望通りですね」


 僕の言葉にそう返事をしたのは、翠と一緒に現れた、翠の持っているお札、冴子さんだ。


「冴子さん、あなたは静さんにごうを背負わせたくなくて行動していたのですね」

「そう・・・ですね」


 冴子さんの体に、歴代の巫女に刻まれていた入れ墨は霊的なもので、比見家の子には生まれながら刻まれているものらしい。しかし、静さんの体にはそれがなかった。そして、静さんには霊的な力が全くといっていいほどない。それが意味することは、


「比見家の歴史は、脾片目村の巫女の役目は、終わりを迎えたのですね」

「えぇ。喜ばしいことに」


 静さんに脾片目村の巫女としての資質がないということは、それにともない、村の危機に即身仏になるという緊急手段も意味がないということだ。穂村さん辺りはこのことに感づいていたかもしれない。それでも静さんを殺害しようとしたのは、わらにもすがる思いというやつだったのだろう。


「冴子さん、正直に話してください。どこまで‘視えて’いたんですか?」

「私の未来視はそう強くありませんよ。恐らく、あなたの想像通りだと思いますが、風野坂さん、水樹さんが、霊力のある訳ありの2人組がこの村を訪れることと、静が生きている内に祭具が何かしらの形でなくなる、あるいは効力を失って、この村に災害の危機が訪れること。この2つです」

「そこまで視えてしまったあなたは、賭けに出たのですね」


 冴子さんはこのままだと自分の娘が殺される、あるいは即身仏になる道を選んでしまうと察し、僕達に自分の娘をたくしたのだ。

 それはとても分の悪い賭けだとは思うが、結果成功した。


「冴子さん、あなたは僕達が来るタイミングと、村に災害が訪れるタイミングを合わせた。違いますか?」

「その通りです」

「そんなことできるっすか?」


 ここで今まで沈黙を守ってきた翠が口を開く。


「それができたんです。翠、鍛冶かじの神様である天目一箇神が嫌っているものは何でしょうか?」

「・・・・・・女の血?」

「そうです。昔から天目一箇神は女性の血をけがれとして良しとしてきませんでした」

「それがどうして翠達がここに来るタイミングと・・・あっ!」

「そうです。まつっている神様と関係が深い祭具も、同じように女性の血を良しとするはずがありません。つちに付いている血痕は、冴子さん、あなたのものだったんですね」

「その通りです。あの夜、静が襲われた夜、私自身の血を使い、私は祭具を穢したのです。そうすることによって、‘祭具の寿命’をこの時期になるようにはかりました」

「何であのタイミングだったすか?」

「そこが一番祭具に血が付いてもおかしくないタイミングだったからです。あの頃には、静も神事を手伝っていましたし、穂村さんも祭具を見る機会が多い人でした。その2人に怪しまれずに祭具に私の血を付けるには、あの夜をおいてほかにはありませんでした」

「静さんが襲われていた時っすよ。いくら何でも冷静に行動しすぎじゃないっすか?」

「あの人の、博之さんの正体はあの夜以前に判明していたので、私も冷静に行動できたのです」

「正体?」

「博之さんは霊障対策課から送り込まれた人だったんですね?」

「その通りです。博之さんは霊障対策課の人間で、脾片目村の祭具を狙っていました。それと同時に、いつまで祭具が利用可能かを調べていたようです。静を襲ったのも、体に入れ墨があるか確認するためでしょう。祭具と巫女は一心同体。入れ墨が、巫女の証がないということは、祭具の霊的効果は長くは続かない。入れ墨を確認できなかった霊障対策課も、この結論に達したでしょう」

「何で霊障対策課はすぐ行動しなかったっすか?祭具の効果が薄れているなら、すぐにでも奪取っていうのが自然の流れじゃないっすか?」

「さすがの霊障対策課も、この村の人々を全員捨ててまでの奪取は躊躇ためらったのでしょう。それに、冴子さんという脾片目村の巫女が亡くなってすぐ、霊的効果が切れる程ちゃちな祭具ではありません。しばらくは村を守る効果は続くでしょう。その間に準備をして、万全の態勢で奪取する計画だったのだろうと思います」

「万全の準備ってなんすか?」

「隣村の都市開発ですよ。計画を見させてもらいましたが、特に力を入れているのは人口増加への対策でした。クリスさんは霊脈うんぬんと言っていましたが、それは霊障対策課のミスリードでしょう」

「人口増加対策っすか?」

「えぇ。脾片目村の村民全員を非難させるに足る計画でした」

「なるほど。この村の人達を隣村に移した後、祭具を奪う計画だったんすね。ん?話は戻るっすけど、この村に災害が起きるかもしれないタイミングと、翠達が来るタイミングを合わせて、冴子さんにどんな得があるっすか?」

「娘をあなた達に託したんです。分の悪い賭けだとは思いましたが」


 冴子さんには静さんが生きている時に災害が起きる、という曖昧な予知しかできなかった。ならば静さんが生きている内の、よそ者の霊能力者2人が、静さんを訪れるタイミングなら、その2人に助けをえる。あるいは、助けてもらえるかもしれないと考えたみたいだ。


「本当に分の悪い賭けでしたね。僕達が静さんや村人を見捨てる選択をしたらどうするんですか」

「それでも、それが最善の手だったんです」


 結果的には僕達は静さんを助けるということを選んだので、この賭けは冴子さんの勝利という結末になった。しかし、僕としてはサブプランを用意しておいたほうがよかったのでは?とも思ったが、時間のなかった冴子さんには無理な話だったのかもしれない。


「静さんにお会いしなくていいんですか?」

「いえ、やめておきます。これでも霊能力者のはしくれ。故人がそうやすやすと誰かに、ましてや霊能力のない子に会う、話すことがよくないことぐらいわかります。私に出来るのは、今後のあの子の幸多からんことを祈るばかりです。しかし、1つだけお願いが」

「承りましょう」

「あの子は私が人を殺したと思い、それが足かせになっています。それを外してあげてください」

「わかりました」


 それだけ言い残すと、翠の持っているお札から霊的な気配が消える。恐らく、無事成仏・・・いや、死後の世界に戻ったんだろう。

 僕はどう静さんに今回の件のあらましを話すかを考えながら、翠と共に静さん達の場所へと歩みを進める。


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