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人の事情と霊の事情  作者: ゆきまる
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即身仏3

「わしじゃよ」

「「穂村さん!?」」


 この村の大地主である穂村さんだ。彼は銃を片手に、大勢の武装した村人を連れてここに乗り込んで来た。


「比見ちゃんはこの村の人柱として、ここで死んでもらう。正式な手順を踏んだわけじゃないが、巫女が死ぬという点では、銃殺も即身仏も変わらんじゃろ。殺した後で仏として扱う」

「それは少し乱暴じゃないですか?」

「黙らっしゃい!」


 静さんに向かっていた銃口が僕へと向けられる。いつかの病院のようなことはできない‘場’なので、ここは大人しく手を挙げて降参の意思を示す僕。そんな僕とは対極的に、檜山さんは静さんを守る姿勢を取りながら、今にも襲い掛かりそうな視線を穂村さんと村人に向けている。

 それにしても乱暴な話である。即身仏を作るには、物事には何事も手順が大事なのにも関わらず、彼らはそれを無視している。このままでは静さんは無駄死にだ。村を守れず、ただただ死んでしまう。


「穂村さん、冷静になってもらおうか。このままではなんの罪もない比見さんが死ぬだけだ」


 檜山さんはそう穂村さん達に諭すように言うが、


「これしか方法がないんじゃ!」

「そうじゃそうじゃ!」

「わしらのために死んでくれ!」


 冷静さを失った穂村さんと村人には焼け石に水。むしろ火に油という感じだ。

 このままだとまずい。暴徒と化した彼らに、静さんは殺されてしまう。それにここは洞窟の奥、行き止まりだ。静さんを連れて逃げるのは現実的ではない。

 とうの静さんは急展開についていけず、震えて、黙って、その場に立ち尽くしている。

 そんな僕の窮地を救うのは、いつだってあの人だ。


「桜、だいぶ困ったことになっているみたいだな」


 穂村さん達の後ろの方から聞こえたその声は、僕に無精ひげのとある先生を思い出させる。


「えぇ、困っています。助けてください」


 あんなにも疑っていたのに、このピンチに聞く先生の声は頼もしく聞こえた。


「捕獲しろ!」


 厳丈先生のその声と同時に、村人と先生が連れてきた、正体不明の勢力が取っ組み合いを始めた。

 僕はこの混乱に乗じ、静さんと檜山さんの手を取って正面からの脱出を試みる。一番厄介な、銃を持っている穂村さんは、事態を把握できずに混乱している。あの様子じゃ銃を使うという選択肢も思い浮かんでいないだろう。

 それにしても、あの銃はどこで手に入れたのだろう?

 猟銃りょうじゅうならわかるが、あの銃はどこからどうみても軍用だ。田舎の一個人が持っていいものではない。

 そんな考えを巡らせながらも、なんとか村人を避けて洞窟の入り口へと向かう。道中、先生の横を通ったが、僕は困惑した顔をしただけで、何故だか「ありがとうございます」の声を出せずにいたが、先生は笑って僕の背中を押してくれた。




 洞窟から走って出た僕達は、その場から少し離れた場所に移動した。


「とりあえず、助かりましたね」

「あの者たちはいったい?」

「さぁ?僕もまだ全てを把握できていません」

「だが、あの者たちの中の1人とは確実に知り合いだと見えたが」

「先生です。学校の」

「相変わらず、頼れる学校の先生ですね」


 木陰からの突然の声に、僕と檜山さんは思わず身構える。静さんはというと、肩で息をしながら地面を見ていた。心ここにあらずといった感じだ。


「そう警戒しないでください。思わず襲ってしまいそうになります」


 木陰から出て来たのは、純白の服に身をまとったクリスさんと、メイド姿の眼帯さん。それと背後には大量の黒服。当然のように武装している。


「こんな風にこの件を解決するなんて、予想していませんでした」

「なんの話しですか?」

「この件はもうあの男の手で幕を閉じたということですよ」


 あの男とは厳丈先生のことだとは思うが、先生はいったい何をやってのけたのか、今の僕にはまったく理解が追いつかない。


「どういうことか詳しく説明してもらってもよろしいでしょうか?」

「はぁ、まぁいいでしょう。私のシナリオ通りとはいかなくても、目的は達成したんですから」


 そう言ってクリスさんは切株に座り、語り始める。


「まずはあなた達が洞窟で見た厳丈さんの取り巻きの正体ですが、あの方達は霊障対策課の人間です。彼らはとある理由で祭具を狙っていました」

「とある理由?」

「隣の村で都市開発があるのはご存知ですか?そこに霊脈を引く手筈だったんですが、それにはこの村にある大きな霊脈が邪魔だったんです。上の方々、政治家の方々は、そのためにこの村を潰すように霊障対策課に依頼していました」

「いくらなんでも非道が過ぎるのではないでしょうか?ただの都市開発のために村1つ犠牲にするなんて」

「‘必要‘だからですよ」


 そう言ったクリスさんは僕の目をじっと見つめる。まるで、その原因が僕にあるかのように。


「さて、霊障対策課が味方になった理由はわかりましたね。比見静が即身仏になると、霊障対策課は困る。だからそれを阻止しようとしたあなた達に手を貸したということです。そしてソビエトの魔法使い達ですが、私の部隊と霊障対策課の人達で確保済みです。鎌も無事確保できました。それにつちも確保しています」

「それを村に返すという選択肢は?」

「あると思います?」


 そう言って妖艶にほほ笑むクリスさんを見て、僕の背中ぞわっとする。目の前の人物への最大級の警戒だ。


「ふざけないでください!それはこの村のもの、返してもらいます!」


 そんな末恐ろしいクリスさんに食って掛かったのは、意外にも静さんだった。先ほどまで意気消沈していたのが嘘のように、言葉に怒気をまとわせる。


「あら、あなたを犠牲に平穏をむさぼろうとする、愚かな村人の味方をするのですか?」

「それは・・・」

「それに、あなた1人で私達から祭具を奪う算段がおありで?」


 クリスさんのその言葉を合図に、後の部隊が一斉に銃を静さんに向ける。僕はすかさず静さんの前に出てかばう姿勢を見せるが、


「冗談ですよ。祭具はお返しします。最初に言いましたよね。目的は達成したと」

「あなたの目的はこの村から祭具を奪うことでは?」

「そうだったんですが、あなたの頼れる先生によって、その必要はなくなりました」

「というと?」

「私達は祭具を使ってある刀を、神具をつくろうとしていました。それが創れる刀鍛冶かたなかじは頑固で、出張仕事はしない主義なのですが、厳丈さんが説得して、この日本に、脾片目村まで連れて来ています。その刀鍛冶は今、神社で神具を創っている最中でしょう。神具を創ってしまえば、私達は祭具を手放します。後は好きにしてください」


 クリスさんは切株から立ち上がると、部下を引き連れこの場から去っていった。


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