降霊3
さすが清隆先輩印のお札。霊体の保存、移動もお手の物である。コックリさんの時も保存、移動はできたのだが、実はあれにはいろいろと制限があったのだ。移動距離などもろもろの。ところが、清隆先輩の用意したお札はそのような制限が全くない。しかも、僕達が値段の高い素材を使って作ったのにも関わらず、清隆先輩はそこらへんにころがっているボールペンとルーズリーフの切れ端でそれを成し遂げたのである。さすがと言う他ない。
さて、お札に冴子さんを入れながら向かったのは、先ほど訪れた本殿である。さっき訪れた際は鎚を見て霊力があるかどうかの確認だったのだが、今回は違う。鎌を取り返さないとこの村が危険ということが判明したのだから、鎌の奪取が最優先事項だろう。
「とはいえ、あの厳重警備の中で、式神使いの痕跡を探るなんて怪しい行為はさせてもらえそうにないですね。翠、遠隔で探りを入れることは可能ですか?」
「この距離ならギリギリいけるっすけど、時間がかかるっす」
「どのくらい?」
「30分くらいっす」
「なかなか長いですね」
今いる草陰で30分動かずにいるのは問題ないのだが、1つだけ問題がある。それは探りを入れるための術式、陣が光るというものだ。その光は結構眩しいもので、この距離なら警護をしている青年団に見つかってしまう可能性があるのだ。一般人にこういうのを見られるのは僕達の業界ではタブーとされているので、それだけは避けたいところである。
「避けるっていっても、どうするっすか?」
「どちらかが青年団の注意をひいて、その隙に術式を発動して敵を探るって感じですかね」
「翠は30分も青年団の注意をひくなんて無理っす」
「僕も無理です」
どうしたものかと行き詰っていると、ふとお札の方から声が聞こえた。
「私がしましょうか?」
「出来るのですか?」
「出来そうな気がします」
これは本当に驚いた。普通霊体になった後、細かな霊的な能力は使えないはずなのだが、冴子さんにはそれが当てはまらないみたいだ。いや、これは冴子さんの力ではなく、清隆先輩のおかげなのかもしれない。相変わらず、規格外の降霊術だ。
「ではいきます」
そう言うと同時に、僕達の下に陣が描かれる。陣は青白く光るが、そこまで大きな光量ではないので、目立つことはないだろう。
ここでこれから始まる儀式、呪術について説明しておこう。簡単に言えば、相手の使った術式の断片を探る術式だ。術者によってそれがイメージや単語といった感じで頭の中に流れ込む。最初にやった時はゲロを吐きそうになったくらい、情報がいっきにくる。
自分で立候補しただけあって、冴子さんの術式は淀みなく単語、あるいはイメージを拾い上げている。
「できました」
「おつかれさまです。それで、成果はどうでしたか?」
「白い鹿、鎚と鎌、それとこれは・・・」
「これは・・・何すか?」
「いえ、恐らく日本の術式ではありません。外国の術式ですね」
「外国?どこの国か絞ることは可能ですか?」
「私が知っているのは日本、中国、アメリカの一部の術式のみですが、そのどれにも当てはまりません。すいません。あまりお役に立てなくて」
「いえいえ、だいぶありがたい情報っすよ。あの短時間でよくぞって感じっす」
「えぇ、これで犯人は外国の方、あるいはそれに縁遠くない方に絞られました。早速ですが行動に移しましょう」
この村の宿泊施設はそう多くはない。ここは手当たり次第に旅館あるいは民宿を訪れて確かめるしかないだろう。
あれから夜の遅くまで民宿と旅館を渡り歩いた僕達だったが、有力な手掛かりは見つけられず、自分達の寝泊りしている民宿へと戻って来た次第である。
宿泊場所まで行き、そこに泊まっている外国人観光客を‘見て’きたが、霊力を持っている人は見かけなかった。宿泊客の中にそういった人種がいないのか、はたまた霊力を隠すのが上手いのか、後者だとしたらお手上げだ。
しかし気になることもわかった。祭の時の外国人観光客の人数と、宿泊客の数がどうしたって合わないのだ。数人、数十人の誤差なら気にすることはないが、それ以上となると話は別だ。祭だけ見に来て、村に滞在しなかったというにも人数が多すぎる。本当は村付近の宿泊施設を片っ端から調べて確定させたいところだが、そんな離れ業を持っている厳丈先生は今いない。ここは予想を立てて、絞って捜査すべきだろう。今の話で言えば、外国の方を容疑者とする。なおかつ、宿泊先に名前のない人間だ。
だが、この推理には穴がある。翠が感じ取っただけで10人近くもいたのだ。そんな人数が土地勘もないのに村で隠れているというのは現実的な推理ではない。もちろん協力者がいれば別だが、協力者の動機がわからない。
金?
脅されている?
どれも考えられるが、考えだしたらきりがない。そもそも、協力者なんていなくて、この窓から見える山々に隠れている可能性だってあるのだ。
「桜先輩、浮かない顔っすね」
「そういう翠こそ、疲れ切った顔してますよ」
「「はぁー」」
僕と翠は同時に溜息を漏らす。
「タイムリミットを設定しましょう」
「急になんすか?」
「いち学生が扱うには大きすぎる件になってきたので、ここは大人達の力を借りようと思います」
「大人っていうと、厳丈先生っすか?」
「いえ、先生とは連絡が取れないので、ここはクリスさんですかね」
「信用できるっすか?」
そこが一番の難点だ。正直に言えば信用できないし、助けてくれるとも限らない。他にも助けを求める先はあるにはあるのだが、霊障対策課とがっつり関わっている人物なので、助けを求めにくい。
「確かに信用はできませんが、他に頼るところがありませんからね」
「それに、クリスさんは祭具を手に入れたい派閥の人間っていう話っすよね」
「・・・それはそうですが、村人達の命が祭具によって維持されていることを知れば」
「甘いっすよ桜先輩。言っちゃ悪いっすけど、祭具の価値が小さな村より大きいと判断されたら、簡単に見捨てられると思うっす」
翠のまっすぐな視線と現実に、思わず顔を逸らしてしまう僕。
「とりあえず、今日は寝るっす。寝て起きてすっきりした頭でまた考えるっす」
「・・・2日です」
「え?」
「タイムリミットは明後日までです。それ以降はクリスさんに任せるということで」
「・・・翠の身を案じてくれるのは嬉しいっすけど、そんな無理やりタイムリミットを設けなくてもいいっすよ」
気にしなくていいなんて、そんなの無理だ。
僕は可愛い後輩とそんなに接点がないこの村の人達を秤にかければ、迷わず後輩をとってしまう、そんな人間なのだ。




