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人の事情と霊の事情  作者: ゆきまる
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降霊2

「1つお聞きしたいのですが、鎚や鎌には霊的な力が宿っているとお聞きしました。それは本当ですか?」

「本当です」


 僕の質問に対し、冴子さんはすぐさま反応してくれた。


「桜先輩、これで任務達成ってことでよくないっすか?」


 翠は僕にそう耳打ちするが、事はそう簡単にはいかない。いや、これでは任務達成したとは言えないのだ。何故なら、それは冴子さんからの言質げんちだけで、信憑性しんぴょうせいが薄い。確実に任務が達成したと言えるようになるには、僕達が直接祭具を確認したその時である。


「ちなみにですが、祭具の霊的な力とはどのようなものなのでしょうか?」

「それは翠も気になってたっす」

「村を守る力です。それはもう強力な。なければ村が滅びるほどの」

「村が滅びるっすか!?」

「それはまた、穏やかじゃないですね」


 それならば、静さんや檜山さん、穂村さんの3人辺りがもっと慌ててもいいものだと思うが。


「穂村さんや静には伝えていません」

「おや?村長である檜山さんは知っているのですか?」

「知っているはずですが。だから青年団を使って本殿を守っているのではないのでしょうか」

「知っているなら警察を頼りますよ」

「ですが、それだと私の件がばれると気を使って・・・」

「失礼ですが、冴子さんは故人です。村長をやっているような方が、故人の名誉と村の滅びを天秤にかけるようなことはしないと思うのですが」

「それもそうですね。では、何故?」


 その辺りは本当にわからない。

 静さんや穂村さんの反応は自然だ。だが、檜山さんの反応というか、行動が中途半端で不自然なのは何故だろう。祭具1つで村が危機だと警察に説明しても鼻で笑われるだけだとは思うが、盗難にあったのは事実なのだ。村の危機を伏せて通報すれば、何の疑いもなく警備と捜索そうさくをしてくれそうなものだが、檜山さんはそのような行動をとらなかった。

 予想の出来る範囲で言えば、警察などの行政機関に介入されて檜山さん自身に不利になるなにかがあるか、村の大事より優先すべき何かがあるか、この2つだろう。

 さすがに村より大事なものに静さんの名誉が当てはまるとは思えないので、これは考えないようにしよう。それとも、祭具ごときで村が危機におちいるとは本気で考えておらず、それなら静さんを優先しようと考えたのか。それなら辻褄つじつまが合うが、なんだかすっきりしない。


下種げすな質問で申し訳ないですが、檜山さんが静さんの本当の父親ということはありませんか?」

「ありません。檜山さんとは友人です」

「これは失礼しました」


 檜山さんが静さんを本当の娘のように思っているのではなく、本当に娘だったのなら、村より静さんを優先するというのもわかる話ではあるのだが。いや、もし檜山さんが冴子さんの話を信じているとしたら、滅ぶかもしれない村に静さんを置いておく理由がない、理由がないのに檜山さんは言った。


「彼女は、静さんはこの町から出てはいけない」


 あの時は身寄りもない彼女が他の場所に行っても困るだけだという親心だと思っていたのだが、冴子さんの話を聞いてますます檜山さんという人物がわからなくなってしまった。


「話は変わりますが、祭具を盗んだ犯人に心当たりはありませんか?」

「・・・あります」

「あるっすか?誰っすか?」

「霊障対策課」


 霊障対策課とは、日本の霊にまつわることを対処する警察のような機関である。一応、僕達も霊障対策課の下請けという立ち位置なので、非常に困った立場になってしまった。もちろん、このことは冴子さんに伝えない。面倒なことになるし、これ以上話を聞けなくなるかもしれないからだ。


「何故その霊障対策課とやらに狙われていると?」

「私が死ぬ2年前、霊障対策課と名乗る人達が私を訪ねて来て、祭具である鎚と鎌を渡して欲しいと頼まれました。もちろん断りましたが。あの祭具がないとこの村は」

「この村は・・・どうなるんですか?」

「崩壊します。恐らくは土砂災害でしょう」

「恐らくは?」

「昔、あの祭具が2つともこの地を離れたことがあります。その時には土砂災害が起き、村の半分が潰れたと記録されていますが、なにぶん古い情報なので、正確かどうかはわかりません」

「なるほどっす。冴子さんが祭具を大切にする理由はわかったっすけど、今の話を聞く限り、まだ盗まれていない鎚を守り切れば、災害は起こらないってことっすよね」

「そうとも限りません。‘バランス’はもう崩れています。いつ災害が起こってもおかしくない状況だと思います」

「なるほど、なかなか厄介なことになってきましたね」


 仕事にタイムリミットがついてしまった。なるべく急いで仕事を完遂させなければ、僕達もその災害とやらに巻き込まれてしまう。

 翠だけでも帰したいところだが、この後輩は変な所で義理固いので、1人で帰ってくれることはないだろう。僕も仕事をほっぽり出して帰れば、翠も黙ってついてくるかもしれないが、今回はなるべく仕事を、依頼を達成したいところである。

 しかし、僕は今回の報酬と僕と後輩の命を天秤にかけるという行為がどれ程最低かに気付き、撤退を考えることにするが、それがこの村を見捨てるという事実に直結するのにも気づいてしまう。

 どちらを選んでも、僕は最低な人間になってしまうじゃないか。

 そんな僕の考えを察知したように、翠は僕の服のそでを引っ張って言う。


「桜先輩、助けるっすよ」


 にかっと笑って、迷いなくそういう翠に、僕は困ったような顔でうなずき返す。

 さて、そうと決まれば情報収集だ。僕は覚悟を決める。


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