降霊1
脾片目岬に着いた僕達は早速準備を始める。
「いや、準備を始めている所悪いっすけど、今から何やるんすか?翠、何も聞いてないっす」
「冴子さんを降霊させようとしています」
「降霊?翠も桜先輩も苦手な分野じゃないっすか」
確かに僕も翠も降霊は苦手だが、今回は奥の手がある。僕はカバンから1枚のお札を取り出す。
「それって」
「えぇ、清隆先輩のお札です」
東条清隆先輩。我が不研メンバーの1人で、降霊を得意とする人である。そんな人のお札は言わずもがな強力なものだ。これのサポートがあれば、特定の個人を呼び出せることも可能だろうという考えである。
「よくあの引きこもり先輩とコンタクト取れたっすね」
「非常に面倒でしたが、なんとかなりました」
そう。清隆先輩は引きこもりだ。半分不登校を決め込んでいる。何故半分なのかというと、出席日数ギリギリで学校に行っているので、ここでは半分不登校児という表現をしておこう。
そんな清隆先輩に会うのは至難の業なのだ。休み時間は確実にいなくなっているし、登校時間、下校時間に待ち伏せしても会えない。ならばと電話やメールをしてみたものの、折り返しは清隆先輩の気分次第になるので、会うことはおろか、出会うこともできないレアキャラなのだが、そんな清隆先輩に会えることになったのは、ひとえに先輩の気分が乗ったという理由だ。
つまり、僕がこの手にお札を携えている理由はたまたまなのだ。
「で、なんでわざわざこの場所で降霊やるんすか?」
「なんでも、負の呪力のエネルギーを僕が集めて、このお札は初めて機能するよう作られているみたいです。条件がある分、降霊が苦手な僕達でも成功率が高い優れものですよ」
「なるほど。負の呪力が電気で、桜先輩がコンセントってことっすね」
「そうなりますね」
「じゃあ翠は何すればいいんすか?」
「コンセントを挿して、機械を、お札を操る係です」
儀式を始めてしまったら、僕は呪力コントロールに全神経を注がなくてはいけないだろう。その間、お札という機械で冴子さんを検索する人が必要になる。
「さて、それでは始めましょうか」
「ラジャっす」
僕は翠にお札を渡し、所定の位置に着く。
「オン」
翠の声と共に儀式は始まる。翠の足元に五芒星が広がり、辺りの空気を飲み込む。そして現れる黒い人影。どうやら儀式は成功したようだ。
「ここは?私は死んだはずでは?」
「はじめまして比見冴子さん。風野坂桜というものです」
「翠っす」
「これはご丁寧にどうも。色々と聞きたいことはありますが、私は現世に降霊されたということでいいんですかね?」
さすがというか予想外というか、冴子さんは現状を正確に把握していた。
「こういうことに見識があるのでしょうか?」
「これでも伝統ある脾片目村の巫女ですから。そういう能力には長けていると自負しています」
「娘さん、静さんにはその能力がないように見受けられましたが」
「娘をご存知で!?あの子は元気にしていますか?」
「元気ですよ。ですが、あなたがやったことに関して心を痛めています」
「そう・・・ですか」
冴子さんは自分の娘が元気なのを安堵している様子だったが、心を痛めているとも伝えているのに、安堵だけというのは気になるところである。
「あなたに聞きたいことがあります。よろしいでしょうか?」
「なんでしょうか?」
「静さんが襲われた日、本当は何があったんのでしょう?」
「・・・」
僕のその質問に対し、冴子さんは沈黙を貫く。これでは檜山さんの時と同じだ。それほどまでに秘密にしておきたい秘密とはいったいなんなのだろう。
「質問を変えましょう。脾片目村の祭具である鎚と鎌には霊的な不思議な力が宿っていますか?」
「えぇ。あれらには力があります」
「どのような?」
「この村を支える、守る、大きな力です」
なんとも抽象的な言い方ではあったが、この村にとってどれ程大事なものなのかはわかった、そんな大事なものが盗まれたと知ったら、冴子さんはどのような反応をするのか。
「その、大変申し上げにくいのですが、祭具の片方が盗まれてしまって」
「なんですって!?」
「本当っす。祭具である鎌が盗まれてるっす」
「鎌!?大変じゃないですか。村長として檜山さんはどうするつもりか、聞いていませんか?」
あまりにも比見さんと・・・比見さんが2人いるのはややこしいのでここは静さんと言っておこう。静さんと穂村さんのリアクションとかけ離れていたので、僕は面食らってしまうが、村で大事な祭具を盗まれたとなると、冴子さんのこのリアクションこそ正解なのだろう。檜山さんは檜山さんでそんなに慌てた様子もなかったので、余計そう感じる。
僕は檜山さんが青年団を介しもう一つの祭具を警備していることを伝えたが、冴子さんは納得していないようだった。
「何故鎌を取り戻そうとしないのですか?何故警察を頼らないのでしょう?」
ぐいぐいとそう言って攻め寄ってくるが、その原因の1つはあなただ。そう伝えたところ、思わぬ反応を見せた。
「あぁ、そう・・・なっているんですね」
何かを悟ったような冴子さんは、言いよどむような言葉を吐き出し、黙ってしまった。
「冴子さん、警察に頼ればいいというのは僕も賛成ですが、その後の比見さん、静さんのことを考えると頼りにくいというのも事実です。あなたはそうは思っていないようですが」
でなければ、いの一番に警察に頼るという言葉は出ないだろう。
「あの子‘だけ’のことを考えれば、これをいい機会だと思ってこの村を出て行ってもいいとは個人的には思っています。ですが、この村のためを考えれば、あの子はここに残らなければならないのです」
「それは何故?」
「‘しきたり’だからです」
しきたり。昔からの習わし。独特なルール。
そんなものに縛られている静さんに、同情を覚えてしまうが、それはそれ。今は仕事に集中しよう。




