祭りの後3
「その後、お母様である冴子さんが亡くなられた後、警察に連絡しようとは思わなかったのですか?」
「その件を知っているのは私と穂村さんと檜山さんだけです。無責任な言い方になるとは思いますが、お2人に警察に届け出る意思がない限り、私も届け出をださないつもりです」
本当に無責任であるが、関係者とはいえ比見さんはまだ高校1年生だ。大人2人の意見を尊重してしまう気持ちはわかる。わかるが、納得はできない。納得はいかないが、ここでその議論をしても仕方ない。
「冴子さんは何故お亡くなりに?」
「癌でした。私が中学2年生の時はもう取り返しのつかないところまで進行していたみたいです」
もう少し話を聞きたかったのだが、ここで比見さんの携帯が鳴る。
「すいません。今から穂村さんの病院に向かうバスに乗らなければならないので、これで失礼します」
そう言い残し、この場は強制的に解散となった。
比見さんとお互いの連絡先を交換したので、これから何かあれば、用があれば連絡を取り合える体制に出来たのが今回1番の収穫かもしれない。
「何をにやけてるっすか。そんなに比見さんの連絡先を手に入れたことが嬉しかったんすか?」
「巫女美人とお知り合いになれたうえ、連絡先まで交換したんですよ。これで喜ばない男子高校生はいないと断言できます」
「事件に関係あることだけ連絡して欲しいっす」
「僕もそこらへんの線引きはします。けど、事件が解決した後は僕の自由じゃないですか。ぐへへ」
「気持ち悪・・・この調子だとすぐブロックされて終わりの気がするっす」
後輩からのマジリアクションに若干傷つく僕だったが、そんなことでへこたれてたら一生出会いなんてない。ここは気にせず比見さんにアタックだ。
もちろん事件が終わってからだが。
「男子は本当にそういう属性付女子に弱いっすね」
「否定はしません」
「翠も深窓の令嬢っていう属性があるのに、何でモテないっすかね」
深窓の令嬢は~っすなんて言葉使いは使わないだろうというツッコミはここではあえてしないが、確かに水樹翠は深窓の令嬢である。水樹家で大事に育てられた、純血の、サラブレットのお嬢様なのだ。それが一体全体どういう経緯であんな言葉使いになったのかは、僕の中では7不思議の1つだ。
「翠はモテるでしょう」
「好きな人にモテなきゃ意味ないっす」
「おや?意中の人がいたとは知りませんでした。教えてくださいよ」
「嫌っす。そんなことより、今はどこに向かっているっすか?」
無理やりはぐらかされてしまった。こうなると梃子でも話さないので、僕は諦めて目的地を翠に伝える。
「脾片目神社です。少し調べておきたいことがあって」
「例の盗人の侵入経路っすか?」
「それも調べたいところですが、もう1つ。博之さんについて、冴子さんについての情報収集です」
「比見さんの話の中に何か変なところでもあったっすか?」
「本当に冴子さんは博之さんを殺害したんでしょうか?」
「え?だって、冴子さんは自分で自首しようとしてたんすよ。自首ってことは殺害した事を認めたってことじゃないっすか?」
翠の言っていることはごもっともだが、僕の中で1つだけ引っかかっていることがある。
「取り返しのつかない程がんが進行している人が、成人男性を追いかけても追いつけるでしょうか?それに、比見さんの話の中では遺体をどうしたかの話は出てきませんでした。遺体はどうしたのでしょう?」
「埋めたとか?」
「どこに?」
「それはその・・・どこっすかね?」
「確かにここは山が多く、遺体を遺棄しやすい環境ではあります。ですが、一切警察沙汰になっていないのはおかしな話だとは思いませんか?」
「警察沙汰になってないんすか?」
「脾片目村に来る前に、この村周辺の新聞はある程度チェックしましたが、そのような記事はなかったです」
「今回の依頼は気合入ってるっすね」
「厳丈先生に頼ることが難しいことは事前にわかっていましたからね。これくらいはします」
とはいえ、ここまで厳丈先生に頼れない環境だとは当時の僕は思っていなかった。
そこからしばらく、30分程歩くと、昨日も訪れた脾片目神社にたどり着く。本殿の周りは青年団らしき人達が固まっており、お邪魔できるような雰囲気ではなかった。僕達は本殿から少し離れた草陰で様子を伺う。
「これは調査どころじゃないっすね」
「ここまでガードが固いとは思いませんでした。どうしたものでしょう」
「なんだ君達、本殿に入りたいのかね?」
「「びっくりした!!」」
僕達ではない声がした後ろを振り向くと、そこには仁王立ちしている村長である檜山さんがいた。いきなり気配もなく現れたものだから、隠れている立場なのに思わず大声を出してしまった。
僕はともかく、翠にも気づかれないように後ろにまわるのは至難の技だと思うが、それを難なくやってのけるこの人は何者なのだろう。




