祭りの後2
僕と翠はお互いを見つめてアイコンタクトを取る。これ以上自身の身分を隠し続けても信用がなくなるだけだ。ならいっそ、ここで全てを話してしまったほうがいいのかもしれない。もちろん、霊的な話を除いてだ。それを話すとまたも信用問題になりかねない。
「僕達はある人の依頼を受け、この村の祭具について調べている者です」
「警察ですか?」
「いえ、違いますが」
何故いの一番に警察の関係者と疑われたのか。何か後ろ暗い事実が祭具にあることを如実に語っている。
「警察沙汰にしないことをお約束します。それに、祭具を取り戻すこと、今ある鎚の祭具を守り切ることもお約束します」
比見さんは目を閉じ、天を見上げた後に諦めた口調で口を開く。
「わかりました。全面的に信用するのは難しいですが、あなた方に敵意がないのはなんとなくわかります」
とりあえずは信用を勝ち取れてよかった。だが、これはあくまで第一段階。ここからが問題である。
「今日ここで話す内容は他言無用でお願いします」
「わかりました」
「わかったっす」
「・・・まず、桜さんが仰ったとおり、本物の祭具である鎚は本殿で今も厳重に保管されています。隠し場所を変え、青年団の皆様の協力で24時間体制で警備していますが、未だ安全とは言い切れません。本来なら警察と協力すべき案件なんでしょうが、それはできないのです」
僕は何故かを問い詰めようとしたが、ゆっくりと、整理するように、諦めたように話す彼女を見て、黙って聞くことを決めた。
「鎚には血が付いているんです。2年前からずっと。決して取れない、拭えぬ血が」
私、比見 静が中学2年の頃、母親である比見 冴子は再婚しました。小さい頃から女手一つで私を育ててくれた母です。祝福しないわけがありませんでした。父になった男の名は博之、比見 博之。昔の自慢話が多く、あまり好きになれませんでしたが、それでも母が幸せそうなら、私はそれでよかったんです。しかし、この男さえ来なければ、私達家族は壊れることがなかったはずです。
その日は突然やってきました。母が村内の集まりで家を空けた時、それは、事件は起こりました。
ここで色々あったことをつらつらと言っても仕方ありませんね。端的に言います。
襲われたんです。
レイプされそうになりました。
怖かった。恐ろしかった。その感情は今も残っています。
助けてくれたのは帰ってきた母と当時も村長だった檜山さんでした。檜山さんが無理矢理あの男を引きはがし、逃げて行った男を母は追いかけていきました。怯えきっている私を檜山さんは優しく抱きしめ、母が戻るまで一緒に居てくれました。
その母が戻ってきたのはそれから30分程です。血まみれの鎚を片手に、私に縋つくように肩を掴み、
「もう大丈夫だかたね。怖かったね。大丈夫だからね」
「冴子さん!あんた博之さんに何をしたんだ!」
「檜山さん、もう大丈夫。大丈夫なんです」
そう言う母の姿はまるで幽鬼のように暗く、闇の中に溶け込んでいて、とても、とても怖かったのを覚えています。
その後興奮した様子の檜山さんと、幽鬼のようにふらふらとしている母がなにやら話し込んでいましたが、私はもう脳内の処理が追いつかなかったのか、その場で意識を失ってしまいました。
翌日、目覚めた私は母の無事を確認するために急いで母の部屋に向かいました。扉を開けようとすると、話し声が聞こえてきたので、私は扉を開ける手を止めて聞き耳を立てました。
「私、自首しようと思うの」
「そうなったら静さんはどうするんだ!それに、君に残された時間はあまりにも短い」
「だからこそ自首しようと思ってるの。最後まで、あの子の誇れる母でありたい・・・もう遅いかもしれないけど」
「私は黙っている。黙っているから・・・そんなことは言わないでくれ」
2人の泣きそうな声を聞くと、何故だか私も泣きたくなってきました。
「失礼2人共。どうやら我ら3人の問題ではなさそうじゃ」
突然扉が開かれ、当然のように泣いている私は部屋に飛び込むような形で入室してしまいました。そこで見たのは、
「静・・・」
「お母さん・・・」
涙で目を泣きはらした母がそこにはいました。
「私、黙っているから・・・だから、いなくならないで」
これが私の罪。
犯罪を見逃し、余命いくばくの母との時間を欲した、私の、罪です。




