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人の事情と霊の事情  作者: ゆきまる
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祭りの後1

 祭りや神事は当然のように中止となり、僕達は民宿へと帰ってきた。


「にしても変な話っすね。大事な祭具が盗まれたのに‘よかった’なんて言葉が出るのは」

「そうですね。それよりも問題は僕達が祭具を見れなかったということです。このままじゃ依頼を達成できません」

「クリスさんに連絡はしたっすか?」

「しましたが、こちらに丸投げです。このまま仕事を失敗したということにしてもいいんですが、それだと僕がクリスさんに聞きたいことを聞けませんし」

「聞きたいこと?」

「内緒です」

「ケチ」

「ケチで結構。で、問題は2つ。1つは祭具である鎌を見て霊的な力が宿っているか確認したいですが、今回の件で表に出ることがなくなってしまったこと」

「忍び込んで見るってのはどうっすか?」

「今回の件で青年団を集めての厳重警備がかれています。忍び込むのは難しいでしょう。比見さんに見せてもらうように頼むのも・・・難しそうですね」


 比見さん達はまだ何か隠している。その隠し事を暴かない内は、祭具を見せてもらうのは難しいだろう。


「2つ目は盗まれたもう一つの祭具です。これは取り返して見るか、こっそりと見せていただくか、交渉して見せていただくか。どれかを実行しなければいけません」

「交渉の余地があるっすか?」

「相手の姿や目的も分からない内は、出来るとも出来ないとも判断できないですね。翠は相手の姿を見ましたか?」

「見てないっす。気配と式神の痕跡こんせきだけで追ってたっすから」

「正直2つ目が一番厄介ですね」

「あの、もう祭具と一緒にこの村から出たってことは考えられないっすか?」

「それはないでしょう。奪ったのは2つある祭具の1つ。脅迫状を見る限り、彼ら、もしくは彼女らはもう1つも奪いに来るでしょう」


 今民宿で会議しているこの時にも狙われているかもしれないが、窃盗犯せっとうはんは人目につくのを恐れているような動きをしている。誰もいない本殿を狙ったり、様子を見に来た穂村さんを襲って動けなくしたのにも関わらず、鎌だけ奪って逃げだした。しかし、ならば人が1年で最も集まる祭の日にわざわざ決行しなくてもいいものだが。そこらへんの矛盾がわからない。


「で、翠達はこの後どうするっすか?」

「とりあえず明日、比見さんのところにうかがってみましょう。祭具について聞きたいことが多々ありますので」


 慣れというのは恐ろしいもので、3日目には翠と同じ布団で寝ることに抵抗がなくなってしまった。未だ、いや、当然布団のはしと端で寝ているが。



 久しぶりにぐっすりと休眠を取れた僕達は、比見さん宅を訪れたが、どうやら留守らしい。こんなことになるなら、下心なしで連絡先を聞いておけばよかった。

 ここで引き返すのも時間の無駄なので、迷惑かもしれないが家の前で待たせてもらうことにした。


「にしても、田舎の一軒家はどこも大きいっすね」

「えぇ。こんな広い家なのに、比見さんは1人暮らしですからね」


 祭りの日、穂村さんを探している最中に聞いた。比見さんは父親を小さい頃に亡くし、母親も2年前に亡くしたらしい。なので、現在は村長である檜山さんの援助を受けつつ1人暮らしをしている。


「あら、桜さん、翠さん。こんなところで何をしているんですか?」


 待つこと30分。思ったよりも早く比見さんが帰ってきた。いつもの巫女服ではなく、今日は私服だ。まだ何回かしか会っていないのだが、それでも巫女の姿が印象的だったので、なんだか新鮮な感じがする。


「ここではなんですから、どうぞあがってください」


 そううながされた僕と翠は、遠慮なくあがらせてもらうことにした。いくら30分だけとはいえ今は夏だ。暑さでやられていたところなのだ。

 広い居間でお茶とお茶菓子を出してもらったので、それをいただきながら本題に入ることにした。

 部屋には歴代の巫女と思われる方々の写真が、何枚も飾られていた。比見さんと似た人が多い。先祖なんだから当たり前に似ているんだろうが、それにしても、遺伝子がいい仕事している。

 そんな似たような写真が多いなか、共通する部分が一つある。それは入れ墨だ。

 全ての写真の人物の右腕には入れ墨が彫られている。儀式的な何かなのかもしれない。

 まぁ、そんなことはさて置いて。


「学校の課題で祭のことを調べているのはご存知ですよね?」

「そのように村長からお聞きしています」

「神事は見られなかったので、せめて祭具であるつちを見せてもらうことは可能ですか?」

「・・・いいですよ」


 そう言った比見さんはこの居間から見える土蔵どぞうの中へと入っていった。それから5分程すると、比見さんは豪華そうなはこを持って居間へと帰ってきた。


「これが脾片目神社の祭具の片方である鎚です」

「偽物ですね」

「な、なにを!?」

「昨日本殿であなたは鎚を確認しています」

「その後私の家で保存することになって」

「青年団の方々が守っている本殿よりもここが安全だとは思えませんが」

「そ、それは・・・」

「教えてもらてもいいですか?何故祭具をかたくなに隠すのか」

「・・・」


 押し黙る比見さんに対し、僕はある推理を披露ひろうする。


「恐らく、その箱に入っている鎚はある意味本物の鎚なんでしょう」

「どういうことっすか?」

「神事に使うという意味では本物です。神事ではこの鎚と、恐らく偽物の、盗まれた方の鎌じゃないものをそなえるのでしょう」

「その根拠はなんすか?」

「神事の2,30分前に本殿に祭具があるというのはおかしいと思い、少し村人に話を聞かせていただきました。その方の話によると、1時間前には神事が行われる場所に祭具が置いてあったようですよ」

「あなた達は何者ですか?ただの学生ではないように思いますが」


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