脾片目村5
やはり仕事で忙しくて電話に出られなかったみたいだ。妙だとは思っていたが、仕事中なら仕方がない。そう自分に言い聞かすが、その思い込みは、次のクリスさんの言葉で壊れることになる。
「それはおかしいですね。私達は電話の1本も出られない程の束縛はしていませんよ。電話に出ないのはきっと、理由があるからじゃないですか?」
「理由・・・」
「例えば、‘隠していたことが生徒にばれて気まずくなった’とか、そういう理由ではないですか?」
「聖杯ですか」
「そうですね。ですが、人が隠し事をするのは必ずしもやましいことがあるからではありません。守るために隠すということもあるんですよ。特にあなたは子供です。子供は大人に守られるものでしょう」
「それはその通りかもしれませんが、事が大きすぎます。僕にも知る権利くらいあるように思えますが」
「自分の子供が」
「はい?」
「自分の子供が余命宣告を受けたとします。あなたはそれを我が子に伝えますか?」
「質問の意図がわかりかねますが」
「いいから、答えてください」
「難しい問題ですね。その子供がいくつかにもよりますが、僕は伝える方を選ぶでしょうね」
そう答えてはみたものの、実際問題、その立場になったことのない僕には答えられない・・・いや、もしも‘彼女’を子供に置き換えれば、話しは全くかわってくる。
僕にはそんな残酷なこと言わない。
言えない。
そんな度胸は、なかった。
「前言撤回です。僕にそんなことはできませんでした」
「あら、まるで‘経験がある’ような言い方ですわね」
「そこは掘り下げなくていいです」
「ふふっ、誰にでも触れられたくない過去くらいありますよね。失礼しました」
まるで子供をあやすように対応されたので、なんだかむずがゆくなった僕は、次の質問をすることにした。
「最後に、この仕事が無事終わったら答えて欲しいことがあるので、一度お会いしたいのですが」
「あら、デートのお誘いですか?」
「どう捉えてもらってもいいですよ」
「ふふっ、ではこの仕事が無事に達成できれば、あなたにお会いすることをお約束しましょう」
「それはどうも」
「では、おやすみなさい」
「おやすみなさい」
さて、いよいよ明日は祭りの日だ。気合を入れるためにここは早く寝て、英気を養おうではないか。そう意気込んで僕達の部屋を開けると、
「・・・翠さん?」
そこにいるのは、露わな姿の翠。目のやり場に困るというか・・・ごちそうさまです。
いや、違う。そうじゃないそうじゃない。気をしっかり持て僕。
僕は翠のはだけた浴衣姿を目に焼き付けないように気を使いながら、布団で翠の体を隠した。これで問題解決かと思われたが、実はそうではなかった。
「僕、どこで寝ればいいんでしょうか?」
翠は布団の真ん中で大の字になって、なおかつ服装はみだらなことになっている。そんな翠と一緒に寝るのはさすがに憚られる。
どうすれば・・・
どうすれば!?