脾片目村4
「比見さん、いったい何があなた方をそこまで追いつめているのか教えて頂きたいのですが」
「・・・実は、これが先月届きまして」
そう言って胸元から手紙を1通取り出す。そう、胸元から。
比見さんの豊満なボディから取り出されたるそれは、いち高校男児としては魅惑的な物で、思わず受け止めるのを躊躇してしまう。しかし、ここで受け取らないのも不自然だろう。受け取る他あるまい。クールにいけ、風乃坂桜。ここでの対応次第では比見さんとのフラグが折れてしまうかもしれないのだから。
「童貞先輩、早く取って翠にも見せてくださいっす」
「風乃坂さん、顔が怖いです」
僕の動揺は彼女達にしっかりと伝わっていたようで、ドン引きされてしまう結果になった。
「おほん、では失礼して」
僕は比見さんから手紙を受け取り、翠と一緒に内容を見る。
火片目村の祭具はいただく。
ただ、それだけが書かれていた。
これで村長の檜山さんと地主の穂村さん、それに目の前の巫女、比見さんが僕達を警戒していた理由に腑に落ちた。こんな脅迫めいた手紙をもらった後、祭の日の近くになって、急に学生が祭に関して調べたいと言ってきたのだ。手紙の主、あるいは手紙の主の関係者だと思われても仕方ない。
しかし、それと同時に疑問点もある。
「これ、‘脾片目村’じゃなくて。‘火片目村’になっていますが」
「そうなんです。それも事態を余計にややこしくしていて。昔の村の名前を知っているのは村でも高齢な方や、私のように神事に関わる人間だけです。たまたま観光に来た方が知っているというのは、恐らく考えられません」
「となると、かの脅迫状を送ってきたのは村の内部の人間ということになりますね」
「そうっすか?観光客がたまたま村のご高齢の方に聞いて、いたずらでこんなことをしたって可能性もあるっすよ」
「失礼な話ですが、ここに観光に来る方は少ないです。その少数がたまたまご高齢の方に村の昔の名前を聞いて、脅迫状を出すに至った、その可能性は低いでしょう」
「そうなんです。それに、村のことを嗅ぎまわれば、自然とそれが噂になりますし」
「村社会ってやつっすね」
となると、自然に考えれば村の内部犯なのだろうが、それを認めたくなくて僕達に敵意を向けたということになる。
なんとも迷惑な話だ。
時間も時間なので、僕達は比見さんと別れ、自分達の本拠地である村はずれの民宿へと帰ってきた。帰って来た時に女将さんにいろいろと話しを振られた。確か隣村の開発がなんちゃらとか言っていたが、あまりに眠かったので、僕も翠も適当に会話を終わらせ、自分達の部屋へと戻る。
「翠は桜先輩を信じているっす」
翠はそう言った後、布団にすぐ入って静かに眠りについた。僕も是非そうしたいところだったが、経過報告というものがあったので、翠を起こさないように部屋を出て、廊下で電話をかける。かける相手はもちろん、今回の依頼主であるクリスさんだ。
「もしもし、今大丈夫ですか?」
「えぇ、入浴中ですが、大丈夫ですよ」
「入浴中!?」
「えぇ、それがどうかしました?」
いっきに目が覚めた。本当もう、どうしようもなく、僕が男子高校生だということを再認識した。
「で、そちらの様子はどうですか?」
「どうもこうも、今はガードが固くて祭具は未だお目にかかれていない状況です」
「それはまた、てっきりもう任務を終わらせていると思ったんですが、随分ゆっくりですね」
「焦る任務でもないでしょうに。祭りは2日後です。その時にはお目にかかれているかと」
「あら、私は焦っているものだと思っていました。なにせあなた達が見る前に祭具が盗まれるかもしれないんですから」
「・・・事前に情報は教えて欲しいものです」
やはりというか、クリスさんは祭具が狙われているという情報を知っているらしい。今日の帰り道、比見さんに最近外国の観光客が目立つと聞いた時から予想はしていたが、やはり下準備はしていたらしい。
それなのに僕達にそれを教えず、その任務を僕達に丸投げした理由がわからない。ただ単に僕達が今やっている任務以上の何かに力を入れているのかもしれないし、それ以外の理由があるかもしれない。相変わらず、掴めない人である。
「今回の件、本当に祭具に霊的な力があるか調べるだけでいいんでしょうか?」
「そうですよ。本当は祭具をお借りするところまでやっていただきたいのですが、それは別の人に任せます」
「お借りする?てっきり奪うものかと」
「我々はそんな野蛮ではありません」
「はっはは。つい先日、僕を拉致しようとした人のセリフとは思えませんね」
「ふふふ、時と場合によります」
お互い笑い合うが、恐らく僕も彼女も目が笑っていないだろう。
「それでは、今日はこの辺にします」
「えぇ、そうですね。では、2つの祭具の確認、宜しくお願いします」
「2つ?」
「えぇ、2つです」
祭具は鎚だけだと、1つだけだと思っていた僕は思わず面喰ってしまう。確かに祭具が1つだけとは聞いていないが、それならそうと最初に説明して欲しいものである。危うく1つだけ確認して終わらせてしまうところだった。
「そのぐらいの詮索、あなたの先代なら当然終わらせていたものですが・・・あなたを過大評価していたみたいで申し訳ありません」
「それはそれは、むかつく進言ありがとうございます」
この前もそうだったが、いちいち先代と比べられるのはあまりいい気がしない。確かに僕が先代より劣るのは事実で、それにむかついているわけではない。どこの馬の骨とも知らぬ輩が、彼のことを我が物顔で語っているのがむかつくのだ。
「ちなみに、先代のことを知っているような感じですが、面識がおありで?」
「昔・・・一緒に仕事をしたことがあります」
その声はどこか悲し気に聞こえ、僕のクリスさんへの印象が少し変わった。先代を馬鹿にしていると思っていたのだが、それはどうやら僕の勘違いなのかもしれない。
「とんでもなくいい加減な男でしたわ」
「・・・否定はしません」
悲しそうに振舞ったと思えば、次は語気を強めた怒りの感情を表すクリスさん。2人の関係性が把握できない。
「それで2つ目の祭具とはどのような物なのでしょうか?僕達は鎚しか知らないのですが」
「2つ目は鎌です」
「鎌・・・ですか?」
「そうです」
「てっきり製鉄に関する物だと思っていましたが」
「鎌だって鉄でできたものです。意外でもなんでもないでしょう」
確かに鎌は鉄でできているが、鎚に比べると製鉄、鍛冶からかけ離れているように感じる。この2つの祭具には鉄以外の共通点があるのかもしれない。あるいは、2つで1つの意味になる何かなのかもしれない。
僕は考えてみるが、思い当たる節はない。こういう時こそ厳丈先生の出番なのだが、仕事中なのか、連絡がつかない。
「クリスさんは心当たりがあるんじゃないですか?この2つの祭具の共通点、あるいは2つ合わせての意味を」
「ありますわね」
「あるんですか?」
あまりにあっさりとした自白に、思わず面食らってしまう僕。
「しかし、それをあなたに教える気はありませんわ」
「それは何故?」
「私はあなたを見定めている最中です。今回の件も、あなただけで、いえ、あなた達だけでどこまで出来るかを見せてもらいます」
「合格点をいただけなければ?」
「あなたの身柄をこちらで預かることを検討しなければいけません」
「それはそれは、恐ろしいテストもあったものですね」
自らの自由のため、今回の件、なおのこと力を入れて行うことが必要とされる。でなければ拉致・監禁の恐れがあるのだから。まったく、とんだ仕事になってきたものである。
「それでは、今日はこの辺りにします。健闘をお祈りしてますわ」
「少し待ってください。聞きたいことが2つほど」
「いいですよ」
「厳丈先生は仕事中ですか?」
「そうですが、なにか?」
「いえなに、連絡しても出てくれないので」




