脾片目村1
祭りというものは太古の昔より存在する儀式であり、今を生きる僕達にとっても身近なものである。多くは神様を奉らんとするもので、それは感謝であり、畏怖であり、はたまた今を生きる僕達らしく言えば行事である。
日本最古の祭りは、西暦600年くらいにあったとされる、灌仏会という祭りだ。灌仏会とはお釈迦様の誕生を祝うもので、草花で飾ってある花御堂に置かれてある仏像に、甘茶というものをかけてその誕生を祝うというものである。
そんな昔の話をしてみたものの、今の祭りの醍醐味と言えば、りんご飴と焼きそばというのが僕の持論だ。もちろん、職業上神様に感謝する機会は多く、神様の真言を使う僕としては、祭りで神様を奉るのはやぶさかでないのだが、いかんせん周りの雰囲気に呑まれて浮かれてしまうというのが正直なところだ。
だが、由緒ある祭だとそうもいかない。今時は地方の方でしか、いや、地方でもそのような風習は珍しいかもしれないが、真剣に、真面目に神様を奉ることがメインの祭りというものも存在している。仕事で何回かそういう風な場所に参加したことがあるが、そういう場所では決まって排他的で、神聖な雰囲気があった。気まずいことこの上ない。
そんな場所に今から向かうことになるなんて、そんなことは今の僕は考えもしなかった。
昼休み、「2年の風乃坂桜君、風乃坂桜君。至急不思議研究部の部室までお願いします。厳丈先生がお呼びです」そんな学内アナウンスが流れたので、僕は席を立って不研の部室へ向かう。それにしても珍しいこともあるものだ。学内アナウンスを使って僕を呼び出すなんて。
「失礼します」
その言葉と同時に不研の扉を開いた僕だったが、そこには衝撃的な光景が広がっていた。
「お久しぶりで・・・」
「眼帯ゴスロリメイドですって!」
そう、目の前にはゴスロリメイドを着た、前回の件で登場した眼帯さんが、モジモジとした様子で佇んでいた。様式美をこれほどまで詰め込んだ美というものがこの世に存在して、いや、この部室に降臨していいものか。これはあれか?最近ちょっとシリアスしていた僕へのご褒美なのかもしれない。ならばここは言わずもがな、直視と脳内メモリーへの保存を行うべきだろう。
「あの、風乃坂桜君。私を見て・・・」
眼福、眼福。
黒を基調としたゴスロリメイド服に、白いニーソがこれまた合って。
「あの、風乃坂桜君・・・」
胸元は微妙に開いちゃったりして、こりゃあもう。
「あの・・・」
恥ずかしがっている表情もまたそそられるというかなんというか。
「ふんっ!」
「痛いっ!」
渾身のげんこつが僕を襲った。この世の美を追求していた瞬間、目の前の見覚えのある女性から殴られた。
これはあれだ、例えるなら美術館で価値のある作品を見ている最中に後ろから知らない人に殴られた感じだ。イラっとしても誰が僕を責められようか。
「いえ、イラっとしているのは、おそらく私が相手だからではないかしら」
「お久しぶりですね、クリスさん」
そう、眼帯さんの側でソファーに座っている人物こそ、この前まで殺し合いをしていたクリスさんその人であった。側近に屈強な黒服が2人控えている。こんな怪しい人物達を学内に通すとは、ここのセキュリティーはどうなっているんだ。
「あなたの先生が快く通してくれましたわ。ありがとうございます」
僕はじっと厳丈先生を睨むが、先生は目を閉じ顔を伏せていた。まったく、何を考えているかわからない先生だ。
「で、クリスさん、ここには何の用で?」
「依頼がありまして」
「依頼?」
「はい。依頼ですわ」
普段なら美人の依頼は喜んで受ける僕だが、今回ばかりはそうはいかない。なにせ、つい先日まで僕を拉致しようとした人の依頼だ。簡単に首を縦に振ることはできない。依頼者が信用できるか否かを判断する厳丈先生さえ、今は失礼だが信頼できない状況だ。そんな中、簡単に決心するのは自殺行為だ。ここは1度話を持ち帰って・・・
そう考えている僕に対し、眼帯さんが目の前まで来て口を開く。
「ダメですか?・・・ご、ご主人様」
「・・・」
僕の中の何かが崩壊した。




