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人の事情と霊の事情  作者: ゆきまる
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仮面をつけたもの3

「了解だ。しくじるなよ」

「わかっています」

「相談は終わりましたか?終わったのならこちらからいかせてもらいますわ」


 そう言ったクリスさんによる攻撃が僕達を襲う。聖骸布の連続攻撃に、僕は眼帯さんを守りながら前進する。とうの眼帯さんは捕縛による術式を展開し、術の発動に備える。


「いけるぞ風野坂!」

「お願いします!」


 眼帯さんの合図と同時に、僕は眼帯さんとクリスさんの間の道を開ける。


「オン」


 その言葉と同時に、呪縛による黒い術式がクリスさんを襲うが、


「単調ですわね」


 クリスさんは聖骸布による防御で呪縛をいとも簡単にはじく。はじくと同時に、僕という防御のなくなった眼帯さんを狙って聖骸布を放つ。


「チェックメイトですわね」

「てめぇがな」


 眼帯さんの不適な顔を見たクリスさんは、視界から消えているはずの僕を探すために後ろを振り向く。

その目に写るのは、


「オン」


 呪縛の術式を木刀に宿した僕の姿だった。

 忘れている方も多いかもしれないが、僕は負の性質を持つものに指向性を与えられる。負の術式である‘呪縛’も勿論それにあたるので、僕は木刀にまとわせて、クリスさんにそれを放つ。

 黒い呪縛術式は、クリスさんの聖骸布をすり抜けつつ、彼女に当たる。


「油断しましたわ。まさかこんなかくし芸があるとは」


 拘束された割にはあっけらかんとした表情のクリスさんは、あらあらと困ったような顔でその場にうずくまる。


「で、これからどうすんだ?」

「どうって、逃げますよ」

「なんだ、尋問とかしねぇんのかよ。お前、こいつに聞きたいことがあるつらしてたぜ」

「・・・」


 聞きたいことなら山積みだ。

 何故聖杯が僕の中にあると断定できるのか。

 その聖杯があるとしたら何が目的なのか。

 言い出したらきりがない。だが、


「自分は仲間達が心配なので、ここでおいとまさせていただきます。あなたは?」

「仮面を盗まれたのが1発入れたい・・・が、ここは俺も素直に退散しとく」

「いい考えです」


 ここでのキャットファイトなんて御免被ごめんこうむる。僕はそういうのにそそられる体質でもないし、下手に騒ぎにされても困る。

 僕達はこの場を後にしようとクリスさんに背を向けるが、それが間違いだったことはすぐにわかった。


「こりゃあ参った」

「・・・囲まれていますね。それに」


 入口は大勢の人影で埋め尽くされており、尚且つ呪縛で封じていたクリスさんの聖骸布が僕達の喉元数センチのところで止まっている。つまりは、


「チェックメイトだと言ったはずですが、聞こえていませんでしたか?」


 後ろを振り向くと、呪縛を難なく解呪し終えているクリスさんがそう言ってほほ笑む姿が見える。見た感じ、触った感じ、使った感じ、どれを取ってもすぐに解呪できるような術式ではなかったはず。しかし彼女はそれをやってのけた。解呪に特化したタイプの術者には見えなかった。ということは・・・あの聖骸布はまさか本物?


「こりゃやべぇぞ」

「お手上げですかね」


 僕達はお互いに目配せした後、降参の意味で各々の武器を床に落とす。


「さて、お2人方にはご同行していただきたいのですが・・・はぁ、少し肩透かしですね」

「なにがだよ?」

「なにがでしょう?」


 彼女は頬に手を当てながら答える。


「‘あの明石あかし 源治げんじ’の後継だとは思えない強さです。彼の目も曇りましたかね。あ、それとも、目が曇ったから死んだんですかね?」


 僕は、俺は、床に落ちている木刀を蹴り上げて広い、聖骸布を払いのけると同時に彼女の喉元にこれでもかと呪力と負の感情を乗せた木刀を押し当てる。

 当然、先ほどまで入口にいた人達は、彼女を守るために動くが、獲物を俺に向けるのが限界だったらしい。頭には銃口が、喉元には剣が、心臓にはやりが、その他俺を殺すための武器が、俺の命を奪うためにそこにある。

 その恐ろしいまでの現実が、懐かしくって、‘心地いい’。


「あの人の何を知っている?」

「それがあなたの、風乃坂桜という仮面の下ですか。大変魅力的で、とても危ういですわね」

「うぅ」


 後ろで眼帯の女が聖骸布で首を絞められている。人質ということらしいが、そんなの俺には関係ない。そういう決意表明を込めて、木刀に込める呪力と負の感情を強める。

 さっきまでやたらと高かった場の緊張感が、さらに強まる形になった。


「・・・やめましょう。こんな脅し合いきりがないですわ」

「ぐへぇ、げほっ、げほっ」


 後ろでは恐らく眼帯の女が解放されたであろう声が聞こえたが、これも俺には関係のないことだ。今はただ、この女の首を・・・


「こっちだ!」

「桜先輩、こっちっす」


 その瞬間、入口から車が急スピードで入ってきた。

 翠と厳丈先生の無事を確認してほっとするのも束の間だった。僕が作り出した状況とはいえ、これは容易く突破して、先生達の方へ向かうのは至難の技だろう。そう思っていたのだが、


「どうぞ、今回はここまでにしておきましょう」


 僕に向けられていた武器がその言葉で引いていく。見逃してくれるということだろうか。僕はありがたくその行為に乗っかり、先生の車に走って向かう。途中、眼帯さんの身柄を心配したが、彼女の姿は見当たらなかった。上手く逃げおおせたか、はたまた捕まったままなのか。


「出すぞ!捕まっておけ!」

「すぐ離脱っす」


 それを確認する間もなく、僕達はこの場から離れた。




 夜のドライブ・・・というようなしゃれた雰囲気ではない車内では、気まずい沈黙が支配していた。僕のただならぬ雰囲気を察し、翠は口を閉じている。先生の方は・・・わからない。

 何を考えているかが、わからない。


「厳丈先生、僕の中にあるのは呪いではなく聖杯なのですか?」

「あぁ・・・そうだ」

「何故今まで隠してきたのでしょう」

「お前に重荷を背負わせないため・・・って言っても、言い訳にしか聞こえないかもしれないが、それでも、俺はお前に変な責任を背負って欲しくなかっただけだ」

「責任?」


 厳丈先生はタバコの火をつけて、そのまま口を閉じた。


「責任というのなら、それは僕が背負うものではないのですか?知らなければいけないものじゃないのですか?」

「知らなかったのなら、それは‘ない’と同じだ。お前は知らなくていいんだ」

「ですが・・・」

「この話は終わりだ。知りたいなら自分で調べろ。それを止める権利は、俺にはない」


 車内はまた沈黙に支配される。どうしようもなく明るい月を見ながら、僕は溜息をつく。


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