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人の事情と霊の事情  作者: ゆきまる
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かぐや姫という名の3

 そんなことが繰り返されること5年。私には数えられる程の短き時間ではあったが、彼はその短き時間で遂に見つけたのだ。

 私は自分のことのように喜んだものだが、それと同時に涙が出る程悲しかった。

 彼はもう、助からないのだから。




「~~~たてまつり、~~~であるからして~~~~~である。よって~~~~で~~~~で~~~」


 彼の、阿倍仲麻呂の罪状が読み上げられるのを上の空で聞いている私の目に、ボロ雑巾のようになってしまった彼の姿が朧気に映る。今で言うところの裁判に何故私が出席しているのか、出来たのかと言えば・・・いや、そんなことは些細なものだ。

 そんなことより、そんなことよりも・・・彼が殺されてしまう。

 あぁ、あぁ、あぁ。

 あぁ、あぁ、ぁぁぁあああああああああ。


「よって、このものを死罪とするが、異論のあるものは?」


 あるに決まっている。

 あるに決まっている。

 あるに決まっているのだが、私の手は膝の上で固まったままで、口も同様に固まったままで・・・


「いないですな。以上をもってこの場は終了とさせていただきます。罪人の処刑日は明日。それまで牢に入れておきなさい」


 彼が遠ざかる。

 私から遠ざかる。

 なんとも嬉しそうな顔で私から遠ざかる。

 まるでこの世に未練がないような、そんなスッキリとした顔で、私から遠ざかってしまう。



 彼が死んで数日後、私の部屋に客人が来た。


「嫦娥様、お目にかかれて幸栄です。数年ぶりと言っても、あなたには寝息を立てる程の時間でしょうが」


 この男の名前はグオ。日本の呼び方で言えばかく 子儀しぎと呼ばれる軍人兼政治家。この国を何度も救ってきた、まごうことなき真の英雄。もう60歳を超えているにも関わらず、未だに帝からその力を重用されている。

 そんな方が何故来たのか、私には全く見当もつかない。私は軍事にも政治にも手を出しておらず、子儀との関わりは皇帝主催の宴だけなのだ。そんな薄い関わりなのだから、当然この部屋に訪れることは今までなかった。

 そんな彼が来た理由は、私にとって想像外のものだった。


「先に処刑された阿倍仲麻呂様からの遺言をお持ちしました」


 私は客人が来ているのにも関わらずベットで寝転んでいたのだが、郭のその言葉を聞いて思わず飛び起きる。阿倍仲麻呂と郭との間に関係があるとは思わなかったし、彼らがどんな関係性なのか知らなかったが、そんなことよりも彼の言葉が聞けることが嬉しくて思わず涙が流れる。


「か、彼はなんと?」

「その前に経緯を話しましょうか。あなたは何も知らないとお見受けしますので」

「ある程度は・・・知っております」

「はて、それは本当ですかな?」


 私は首を傾げながら頷くが、彼は首を横に振る。そして口を開く。


「彼との冒険はとても楽しかったですな。この老骨めに、まだ見ぬ冒険と興奮を教えてくれましたから。それに彼の人柄にも惹かれましたね。私も、彼と一緒に冒険してきた私の部下も。実に・・・実に楽しい冒険でした。そんな冒険の終わりはあなた様の知っている通り、ここ最近のことです。終わりは・・・とても突然でしたね。見つからなければよかったと思っていたのですがね」


 残念そうな顔を見せる彼は、涙をこらえながら話を続ける。


「私は帝から命令されていたんです。阿倍仲麻呂が竜の掌を見つけたら、彼を殺して竜の掌を持って来いと」


 私は思わず彼を睨みつけるが、彼は首を横に振りながら私を止める。


「最後の最後に私は帝の命を、期待を裏切ってしまいました。最後の最後で私は、帝より阿倍仲麻呂を取ってしまったんです。天上の神よりも、私は彼の家族を取ったのです」


 家族。その言葉にどれ程の意味があるのかは私にはわからない。実際にその関係性を見たとしても、私には家族の重さというものがもうわからない。残酷な程の時間を生きた、これから生きる私にとって、家族の絆というものがどれ程むなしいか、それは当人である私以外わからないだろう。

 そしてここで疑問が残る。


「その顔は私が生きているのに疑問を持っている顔ですね。簡単に言えば彼が、阿倍仲麻呂様が私達の罪を背負ってくれたのです。‘竜の掌を見つけて勝手に願いごとをしたのは私で、他の者は出し抜かれただけだ’そう言ったのです。その結果がこれです。老骨が恥ずかしながら生き延び、未来ある異国の者が命を散らした。なんともやり切れませんな」


 郭は涙を抑えるように目を閉じ、うつむきながらため息を漏らす。


「それで、彼はどんな言葉を残したのでしょうか。教えてください」


 郭は細い目から涙を流しながら言う。


「私の勝手をお許しください」

「え?」

「私の勝手をお許しくださいと、ただそれだけでございます」

「それは・・・どのような意味なのでしょうか?」

「彼の願いは母の病を治すこと。そう自分も思っていたのですが、いや、彼も直前まではそう願っていたのでしょうが、彼が願ったのはそれと全く関係のないものでした」

「なんと・・・願ったのでしょうか?」

「あなたの不死を、呪いを消すことです」


 私は茫然とした。なんでそんなことを願ってしまったのかと。


「ですが私は今日、いつも通り実験を行い、自らの不死を確認しています。それに」

「偽物だったのです。あの龍の掌は。それに何故あなたの不死を消そうとしたかと問われれば、そこに愛があったのではないかと」

「愛?」

「彼はいつも楽しそうにあなたの話をしていましたよ。それは本当に、本当に楽しそうに、愛おしそうに」


 郭は涙を流しながらそう話した後、この部屋を後にした。



 私はこの国を出ることに決めた。突然だと思われるかもしれないですが、これは彼が死んだ後からずっと考えていたことだ。当然私がこの国から出ること、帝の手から離れることはとても難しいことだったが、郭が手を回してくれたことでなんとかなった。随分と迷惑をかけたとは思うが、私を国外に逃すことは、彼自身の罪滅ぼしなのだろうと思う。感謝をしているが、恩義を感じているわけではない。

 私が逃げた先は黄金の国と呼ばれたの国、今の日本だ。すぐには行けなかったのでしばらく時を経てから向かった。しばらくとは言っても私の時間間隔なので、すぐという訳ではない。

 1274年に行われた文永の役に乗り込んだ。戦自体はこちらの負けでしたが、日本の海域に入ればこちらのものです。私は溺れたところで死ぬわけではないので、全然苦にはなりませんでした。

 日本に着いた私がすぐに向かったのは彼と血の繋がった者達の所だった。当然のことながらこの土地の地理には詳しくはないが、私には時間というものが腐る程ある。しらみつぶしに歩いて探し、ようやく見つけることができた。彼の血縁者は5つの家に別れていて、この土地で成功している者達だった。

 私は彼らに取り入った。相談役としてだ。

 私には何百年も生きてきた経験、中国で学んだ知識があったので、彼らに取り入り、気に入られるのは難しくはなかった。その関係は現在まで続いている。続いているとは言っても、その性質は300年経てば違った形になってくる。

 奉るべき、信仰をもつべき存在になった。

 私としては恋を教てくれた愛しい人の子供達に、少しその恩を返す程度に考えていたのだが、どうやっても私みたいのは普通の恩返しなどできないみたいで、未練がましく彼らと繋がっているためには、神様にでもなるしかなかった。


 そして未だにわかっていない。


 許してくれの意味を。

 何を許して欲しかったのか。

 彼が私に何か許して欲しいことをしたのか。


 さっぱりわからないまま今の今まで生きてきた。

 もう、疲れてしまった。


 そんな時、待ちに待った情報が私の手に舞い降りた。‘竜の掌’がここ日本にあるという情報だ。万能で希少な願望器。それに祈ろうと思う。何を祈ろうかと考えたものだが、1つだけ絶対に願わないものならある。それは私が1番望むものだが、望んではいけないものなのだ。

 阿倍仲麻呂という死者の蘇生だ。

 これだけはできない。やってはいけない。彼を呼び戻したとしても、彼は人であり、当然のように寿命というものがある。彼が死んでは悲しみ、彼を生き返らせ、死んでは生き返らせ、死んでは生き返らせ、そして悲しむ。そんな地獄染みたループにはまることは目に見えている。ならば彼を私と同じ不老不死として蘇らすことも考えたのだが、不老不死の化け物なんてものを彼に背負わせるわけにはいかない。

 そうなると答えは1つ。


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