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人の事情と霊の事情  作者: ゆきまる
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大石フーズ盗難事件2

 我が愛しのマイハニーことかぐやさんの依頼もこれでもう4つ目だ。付き合うまでのカウントダウンが始まっていると言っても過言ではないだろう。僕がスキップしながら、好きっぷしながら公道を練り歩くのもなんらおかしなことではないだろう。


「いや、恥ずかしいからやめろ。周りの人達の目に毒だ」

「厳丈先生、いくらもうすぐ美人の彼女ができる予定の僕に嫉妬しているからといって、そんな力のない注意でどうするんですか?」

「嫉妬してねぇ。それに俺の説教に力がないのは、たまの休日がどこかの馬鹿に奪われたせいだ」

「いいじゃないですか。僕がかぐやさんと付き合うことになったらもう厳丈先生に構ってられなくなるんですから」

「捕らぬ狸の皮算用って言葉知ってるか?」

「捕ってもいない狸の皮を売る計算をする愚か者のことですよね。僕みたいな超一流の恋の狩人には縁遠い言葉です」

「・・・お前のポジティブさが社会人の俺には羨ましいよ」

「社会人って関係あるんですか?」

「社会人になる歳になると、いろいろな現実にがんじがらめになって、空元気も出ないようになるんだよ。覚えておけ」

「将来ある若人にそんなこと言わないでくださいよ」

「お前の将来が危ないことはわかっているけどな」

「おや、ただの冗談ですか?それとも本気の方でしょうか?」


 僕の言葉にバツが悪くなった先生は、頭の後ろをきむしる。


「・・・悪い。最近寝不足でイライラしていてな」

「いえいえ、将来僕の惚気のろけに付き合ってくれるんですから、これぐらいは全然」

「そんな約束してねぇよ」

「先生はいつもしているじゃないですか」


 しかも授業中に。

 僕や翠だけでもなく、他の生徒も巻き込んで。


「俺はいいんだよ」

「なんですかその特別制度」

「しがない高校教師の癒しの時間を奪い取るな」

「勝手に授業時間を私物化しないでください。社会人ならきちんと働いてください」

「給料分は働いてるつもりだ」

「給料以上働くっていう気概はないんですか?」

「社会人1年目でそんな情熱切り捨ててるんだよ」

「だから将来ある若者にそんなこと言わないでください」

「よく見ろ若人。今お前の目の前にいる気合のない中年の姿が、お前の10年後の姿だ」

「嫌だ!こんな無精ひげのやる気のないおっさんになんかなりません!」

「着いたぞ」


 僕と先生が着いたのはこの学校の近くにある喫茶店だ。篠原先輩の件で訪れたことのある所で、篠原先輩のスペシャルパフェが存在する例の店だ。

 篠原先輩が最近訪ねてこないことで、店主のやる気が著しく落ちているという風の噂を聞いたが、味が落ちていないことを祈るばかりである。


「先輩、先生、こっちっす」

「翠、早かったですね」

「1人スイーツバイキング中っすから」

「おや、最近は店主が落ち込んで味が落ちているって聞いたんですが」

「翠秘蔵の篠原先輩写真集で、店長の気合をドーピングしたっす」

「その話詳しく聞かせてください」

「どこかの馬鹿には愛しのハニーとやらがいるんじゃなかったのか?」

「それとこれとは話が別です。是非お聞きしたい」

「篠原先輩のプライベート㊙写真から、グラビアまでなんでもござれっす」


 翠がちらっと㊙写真を見せる。表紙には巻頭グラビアと書かれてあり、私服が眩しい篠原先輩が僕に向けてウインクをしている(気のせい)。そんなものを目の当たりにしてしまったら、僕の取る行動は1つだけだ。


「言い値で買いましょう」

「まいどありっす」


 僕の財布が大分軽くなりはしたものの、欠片も後悔のない本の内容に涙と鼻血が止まらない。先ほどからキッチンのほうで奇声が聞こえていたのは、同志の感動の声だったとここで初めて気づいた。


「スイーツバイキング代が浮いたっす」

「お前はなんでも器用にこなすやつだとは思ってはいたが、商売もできるやつだったんだな」

「いえいえ、この人ほどではないっすよ」


 翠はそう言って僕達に㊙とは別の雑誌を見せてきた。書かれている内容は‘地元で頑張る若手社長特集’というもので、翠が指差す先には大石フーズの大石社長の写真が写っていた。

 大石フーズと言えば僕でも知っている地元の有名企業だ。地域に根差した販売経営をしつつ、その客は日本各地にいる。昔からも大手で、なかなかやり手の社長が経営しているとは小耳にはさんでいたが、今の社長もなかなかのやり手みたいだ。


「今回の件に関係しているんですか?」


 今回の件というのは勿論かぐやさんの依頼である。今回の依頼内容はかぐやさんが事前に翠に伝えておいたみたいだ。張本人の僕はかぐやさんの依頼の合間を縫って他の仕事を先生とこなす関係上、かぐやさんと直接のコンタクトを取れずにいた。

 いや、普段から用もなくラブコールを送り続けて着信拒否になっているというのも理由の1つかもしれない。


「そっちの仕事はひと段落したっすか?」

「あぁ、こっちは大丈夫・・・桜はそろそろ席に戻れ。鼻血を吹いてからな」

「あい」


 僕は先生からいただいたポケットティッシュを鼻に詰め、お宝を大事にカバンに詰めてから先生達のいる席に座る。


「さて、本題に入りましょうか」

「鼻にティッシュ詰めながら言われても締まらないっす」

「あの馬鹿は放っておいて話を進めるぞ。そろそろこの件を終わらせたいのが本音だ」

「そうっすね・・・」

「なんだ?浮かない顔じゃねぇか」

「別に・・・」


 翠はふくれっ面のままカバンから一通の手紙を取り出す。見たことのある封筒なので僕は一目でわかった。


「これがかぐや先輩からの依頼書っす」

「直接お会いになったのではないのですか?」

「会ったっすよ。お話も聞かせてもらったっす。けど、書面にしたほうがいいこともあるって言って、お話が終わった後にこれを渡されたんすよ」


 翠から手紙を受け取った僕だったが、ここはまず翠の話を聞かせてもらうとしよう。この後輩ならばその意図も把握して話すはずなのだから。


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