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人の事情と霊の事情  作者: ゆきまる
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枝探し2

 というわけで、くだんの枝があるという倉持さん宅に、いや倉持さんの所有する山に辿り着いた僕は、野宿セットのようなものを渡され、山に1人置いて行かれた。とてつもなくスムーズな行動だったので、僕は文句を言うこともできなかった。


「さて、どうしましょうか?」


 僕のスケジュールとしては、例の倉持さんとやらにお話しを伺ってからこの山を訪れる予定だったのだが、一足飛びにここまで来て放置されてしまった。普通に犯罪ではないだろうか?

 ここで持ち物を確認してみよう。冗談抜きで命に係わる。

 3日分の水と食料、ロープ、寝袋、懐中電灯、単三電池使用の携帯充電器、携帯、財布、そして例の写真。遠まわしに3日は帰ってくるなと言われている気がするが、先ほどからかぐやさんに連絡をしても出ないので、どっちにしろここで2泊は確定みたいだ。

 枝を見つけるのは最重要事項だが。最優先事項は寝床だ。今は6月とはいえ、夜の山の冷え込みは警戒すべきものだ。もうすぐ日暮れ、というかもう暗くなり始めている。


「とりあえずはあそこですかね」


 僕の視線の先には小さな小屋がある。あれがかぐやさんの僅かな善意なのだとしたら、大人しく甘えようと思う。私有地に1人置いて行かれたのだから、小屋を勝手に使うぐらいは許されるだろう。

 小屋は立派とは言えない大きさだったが、1人で宿泊するぶんには充分な大きさで、綺麗に掃除されていた。設備としては机があるだけの簡素なものなので、元から宿泊するための施設ではないことが伺われる。僕はとりあえず机をどかして寝るスペースを作り、小屋の散策を行うことにする。とりあえずは生活空間の把握。それとこの山に関する情報があればと思う次第である。

 小屋を散策、というより調査すること10分。トイレがあったことに安堵しつつ、僕は先ほど机の中から見つけた地図を広げる。もちろんこんな山の中の小屋に電気など通っているはずもなく、僕はかぐやさんから支給された懐中電灯で地図を見る羽目になる。


「・・・広い」


 想像通りこの山は広い。広いと言っても以前行った木斗目山よりは敷地は狭い。狭いとはいえ山なのだ。当然僕1人でなんとかできるものではない。物理的にも、精神的にも。

 僕はポケットから携帯を取り出し電話をする。

 

「・・・もしもし先生、今お暇ですか?」

「住職と呑んでる最中だ」

「もしかして、あれからずっと呑んでいるんですか?」

「まさか。あれから住職の仕事の手伝いさせられて、さっき呑み始めたばかりだ」

「よかった。まだアルコールが脳に回りきっていない内に話しておきたいことがあるんですが」

「なんだ?また厄介事か?」

「かぐやさん関連ですよ。少し調べて欲しいことがありまして」

「長くなるか?」

「少し」

「後でメール送ってくれ。起きたら調べる」

「明日の昼過ぎになりそうですね」

「それは住職次第だ」

「寺でそんなどんちゃん騒ぎしてもいいものなんでしょうか?ご近所迷惑なのでは?」

「神も見通すことができない、防音完備の隠し部屋でやってるからその心配はない」

「あの馬鹿住職、参拝客からのお賽銭をそんなことに使っているんですか」

「宝くじらしい」

「さいですか」


 徳川の世では寺で宝くじを販売して寺の収入源にしていたのだが、そんな寺の住職が今や他所から宝くじを買って、その賞金でワイワイ酒盛りときたものだ。時代が変わればこうまで変わるのかと、僕は純粋に寺の修繕費を稼ぐために宝くじを始めたであろう遥か昔の住職に謝罪したくなった。その謝罪の意思は届かぬ思いであることはわかっているが、そう思わずにはいられない。


「情報はいいとして、人手は足りるのか?」

「翠を呼ぼうと思っているのですが、いかんせん家からここまでは距離がありますからね。どうしましょうか」

「距離があるって、お前今どこにいるんだ?」

「山の中に放り出されてしまいまして」

「・・・は?」

「山の中です」

「どうしてそうなった?」


 僕は厳丈先生にこれまでのことを事細かく話す。特に僕がかぐやさんとのデートと勘違いしてしまったことを事細かく愚痴った。


「それはまた災難だったな。デートと勘違いしたのはお前の勝手だが」

「そんなことないでしょう」

「まだお前ら付き合ってないだろ」

「将来付き合うことは確定しているんですから、そんな勘違いをしてしまっても致し方ないことでしょう」

「たまにそのポジティブらしさが羨ましいよ」


 先生は笑いながらそう言う。普段はため息と共に僕にダメ出しをするのだが、今回は笑って羨ましがる。アルコールがいい感じに頭に回っている結果だろう。僕と先生はそこそこ付き合いが長いわけだが、アルコールが入っている先生と話すというのは貴重だ。今までで2,3度しか見たことが、聞いたことがない。


「今回の件ではないのですが、1つだけお聞きしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」

「なんだ?」


 ダメ住職から出された酒を生徒の悩み事をつまみに飲んでいるダメ先生がここにいる。

 録音してPTAに提出したい気持ちをぐっと抑え、僕は質問を切り出す。


「僕の呪いを解く方法についてです」

「・・・以前に伝えたはずだが?」

「‘卒業までに不研に来る依頼を66個こなす’でしたよね」

「わかっているじゃないか」

「本当にそれだけしか方法がないんですか?」

「・・・」

「いえ、質問を変えさせてもらいます。僕の呪いを解く方法は本当にそのやり方で正しいんでしょうか?」

「・・・」

「僕の呪いは本当に‘モテない’なんていうものなんでしょうか?」

「今は深く考えなくていい」

「そう言われましても」

「その内わかるさ」


 先生はそう誤魔化して電話を一方的に切る。

僕は自分でもわかる程険しい目線を携帯に向けるが、その視線が電波の向こう側にいる先生に伝わるはずがなく、僕はやむなく携帯を枕元に置いて寝袋に入る。入ってから気づく。翠にメールをしなければ。僕は気づいたように翠にメールを入れた。


「はやっ」


 送信してから10秒と経たずにメールの返信が来た。


From 翠

本文:めんどうくさいっす


 なんとも簡潔でわかりやすいメールが返ってきた。

 僕はふて寝した。


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