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人の事情と霊の事情  作者: ゆきまる
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かぐや姫の難題

 かえるさの 行幸物憂く 思ほえて 背きてとまる かくや姫ゆゑ

 



 こと物語において、姫様というものは悲劇に陥りやすいものだ。人魚姫しかり、乙姫しかり、織姫しかり、かぐや姫しかり。これを試練と呼ぶ人達もいて、物語には欠かせない盛り上がり所の1つだが、読み手はさて置き、当事者としてはたまったものではないだろう。試練というのなら褒美や幸福もあるのがセオリーで、試練を乗り越えてハッピーエンドというものも数多いが、不幸のまま終わるというのもまた多いのも事実だ。

 これは何も物語だけではない。フィクションだけではない。現実もまた然りだろう。

 いや、実際には違う。不幸も幸運も普通は突然舞い降りるようなもので、そこに関係性があるなんてことはない。というのが僕の持論なのだが、人によっては全く考え方が違う。それが同じような環境で生きてきた人でもだ。

 僕の尊敬する恩人は、僕の憎むべきであろうあの人は違った。


「この世は流動するものだ。‘それは川の流れのように’ってな。ん?そんなことはないってか?いやいや、そうじゃないぜ。いや、そう考えるのはつまんねぇじゃねぇか。試練があって幸福を得る。試練の先に栄光あり。そう考えたほうがロマンチックで愉快痛快じゃねぇか。・・・おいおい、そんな気味の悪いものを見る目で俺を見るんじゃねぇよ。生き方っていうのは考え方だぜ。どうせつまらねぇ人生なら、愉快な考え持って馬鹿馬鹿しく生きようぜ」


 本当、人というのは様々だ。僕と同じ環境なのに、彼は笑ってそう言える


 今回僕に降り注いだ、幸福な形をした不幸。

 姫でも何もない、少し変わった僕に舞い降りた愉快痛快な試練を話そう。




 現在朝8時。僕の下駄箱に手紙が入っている。もう1度言おう。僕の下駄箱に手紙に入っている。

 前代未聞の一大事。

 青天の霹靂。

 驚天動地。

 そんな言葉が僕の頭に響く。

 自分で言っていてとても悲しい現実だが、それは仕方ないというものだ。僕の身にある‘呪い’。モテない呪いがあるのにも関わらず、僕のもとにこんなものが届くはずがない。にも関わらず・・・

 いや、待て。

これがラブレターだと決まったわけではない。どこぞの誰かのいたずらの可能性がある。そうだ。そうに違いない。

 いや、でも・・・いや・・・けど・・・・そう、この世界には様々な奇跡というものがある。そのほんの少しが自分に降り注いだとしても、何ら不思議なことはないだろう。不思議研究部の部長である僕、風乃坂桜が言うのだ、間違いない。

 僕はドラムのように鳴る心臓の鼓動を抑えつつ、意を決してその封筒を手に取る。以前は風紀委員からの招集願い、もとい自首勧告書だったが、今回は違うはず。あの時は血の涙を流しながら風紀委員の方々から逃げたが、今回は違うはず。

 沈まれ鼓動。

 落ち着け手足。

 息を整えつつ封筒を開ける。その中にはA4の用紙が折りたたんで入っており、ぱっと見た感じ綺麗な字で、手紙の相手の心が綺麗なことがわかる。さぞ綺麗な大和撫子なのだろう。そんな思いを噛みしめながら泣いている僕だが、当然回りからは奇人変人の類に見えているだろう。冷たい目線が刺さり続けるが、今の僕は無敵だ。何も怖くない。

 この手紙がラブレターの場合だが。


「桜先輩、何してるっすか?」


 僕の緊張の一瞬を邪魔する無邪気な声が飛んできた。体育会系のような~っすという語尾が特徴的で、小柄な学校の人気者。それと同時に僕と同じ不思議研究部の部員である水樹翠、その人の声である。普段なら爽やかな挨拶を何気なく返す僕だが、あいにくと今は取り込み中であり、それ以上に心の余裕がない。僕が素っ気ない態度をとるのは仕方のないことだろう。


「翠、今僕は人生の分岐路にいるんです」

「分岐路?じゃあそれは逮捕状っすか?」

「ふっ、何を隠そうラブレターですよ」

「中身の確認は?」

「・・・まだです」

「ぷっぷー。やっぱり、そんなところだと思ったっす」


 いきなり僕の後ろに現れた翠は、コロコロと笑いながら僕の背中を叩く。


「見ていてくださいよ翠。この文にはさぞ大きな愛情が」

「またまたぁー」


 ここまで爆笑されると傷つくものだが、正直僕も内心この手紙に期待していない。僕の内にある呪いはそれ程強力なものなのだ。

 僕はため息をつきながら手紙を見る。翠も遠慮なく僕への手紙を覗く。この後輩は僕に対して遠慮というものを本当にしない。元気で明るい大和撫子と評判がある翠だが、現実はこの様だ。月に1,2度翠に告白してくる男子連中にも知らせてあげたいものである。

 さて、話は逸れたので本題に戻ろう。僕はまじまじと手紙を見る。


「ラブレター・・・ですね」

「そうっすね」

「ハハハハッ」

「ハハハハッ」


 僕と翠はお互いを見ながら笑い、改めて手紙へ目線を送る。


「「えぇえええーーー!?」」


 僕と翠の叫び声が、校内中に響き渡った。




「厳丈先生、あれが桜先輩の現状っす」

「何がどうなってこうなった?」

「今朝桜先輩がラブレターを貰ったっす。それが原因っすね」

「いや、それを考慮したところで・・・」

「惚れたら負けっていうじゃないっすか」

「負けっていうか、あれじゃあ奴隷だ」

「そこ!愛の形は人それぞれでしょ!」


 不研の入り口の前でぶつくさという2人に、僕は愛の伝道師として物申す。


「うるさいわよ。静に椅子になってなさい」

「はい!喜んで!」


 僕は四つん這い。‘彼女’は僕の背中に座りながら優雅に読書をしている最中だ。この形のどこが奴隷なのか、今の僕にはさっぱりわからない。そもそも奴隷とは無理やり労働を強いられている人物であり、嬉々として、積極的に椅子になっている僕はそれに当てはまることはないはず。


「どこからどう見ても奴隷っすよ。かぐや先輩、そんなに奴隷が欲しかったんすか?」

「失礼ね。私は人道的な人間ですよ」

「そうですよ翠!彼女になんてことを」

「あなたは少し黙ってなさい」

「喜んで!」


 先生と翠の可哀そうな人を見る目など気にせず、僕は大人しく椅子役を続ける。

 そう、彼女、月宮つきみや 輝夜かぐやさん。この高校の3年生で綺麗な黒髪ロング、スレンダーながらも出るところは出ている。翠とは違って完璧な大和撫子。まぎれもないこの高校のマドンナである。そんな彼女が突然、僕とお付き合いを希望してきたのだ。僕がラーメン屋の新人店員みたいになるのは仕方ないだろう。

 とは言え、自分はまだかぐやさんの正式な彼氏ではないのだ。その理由とは・・・


「で、私の依頼を受ける気はあるのかしら?」

「はい喜んでーーー!」

「桜先輩・・・」

「桜・・・」


 僕の必死さに翠と先生はドン引きといった感じだったが、僕の知ったことではない。この千載一遇のチャンス、逃してなるものか。

 さて、そろそろこうなった経緯を説明しよう。今回の依頼を。


「私のお願いを5つ聞いて。それができたのなら、私はあなたとお付き合いしましょう」


 今朝の手紙に書かれていた内容は、ざっくばらんに言うとそんなところだ。かぐやさんの5つの願いを叶えれば、僕は彼女と正式にお付き合いができる。もちろん僕が今この場で椅子になっているのは5つの願いの内の1つではない。かぐやさんが望み、僕が自ら従っている形である。

 そんな彼女は、僕の背に座りながらこう言った。


「最初の依頼よ。私の知り合いに石川さんという方がいます。その人の蔵にある2つの茶器。どちらが本物か見極めてきて」



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