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人の事情と霊の事情  作者: ゆきまる
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コックリさんの告白

 翌日、僕と大野さんで3回目のこっくりさんをすることになった。翠は数学の追試。厳丈先生は追試の担当でここにはいない。なので、今回は僕と彼女の2人だ。


「本当に、これで最後にしたいね」

「そうですね。これで終わりにしたいものです」


 大野さんは祈るように10円玉に人差し指を乗せる。それを見た僕も続けて、10円玉に指を乗せる。

 そして、唱える。


「「コックリさん、コックリさん、おいでください」」


 僕達の呼びかけに応じ、いつも通り10円玉が動く。

 その瞬間を見計らい、僕はコインから指を離す。


「な、何してるの?」


 大野さんが大声で僕を怒鳴りつける。信じられないという風な表情で。


「禁止と言われるとつい」

「今更?まぁ、今回来てくるのが彼なら、指を離した程度で呪い殺すほど怒らないとは思うけど」

「本当にそうですか?」

「え?」

 

 僕と大野さんはその場でお互いを見つめ合う。このシュチュエーションは青く、甘い、青春の1ページのように見えるかもしれないが、間違ってもそういう類のものではない。

 不安と未知が混ざった沈黙が、数秒僕達の間を漂う。


「あなたは最近、学校で何をしていましたか?」

「何って・・」

「以前、下校時間ぎりぎりに職員室前でお会いしましたが、部活をしてないあなたが、あんな時間まで何をしていたのですか?」

「確かに部活動には入ってないけど」

「テスト期間中でもないのに放課後にこっくりさんをやる暇があるんですから、あなたは部活動に参加していないと予測しました」


 大野さんが疑問を含んだ表情を見せたので、僕は探偵さながらのドヤ顔で推理を披露するが、大野さんは困惑している顔を僕に見せるだけだった。期待していたリアクションではないが致し方ない。話を続けるとしよう。


「あなたの記憶はどこで巡っているのでしょうね」

「巡るって・・どういう」

「コックリさんを行ったのはいつですか?」

「それは、この部室に相談に来た日よ」

「本当ですか?」

「何を言って」

「思い出してみてください。あの日のことを」

「思い出すもなにも、つい最近のことなんだから」


 大野さんは心底訳が分からないといった感じでこちらを見る。しかし、その目には、表情には、焦りとも恐怖とも取れるものが見え隠れしている。10円玉に乗せた指が震えるほど動揺している。


「風乃坂君、あなたが何を言っているのか私」

「今は2024年です」

「・・・・え?」


 本当に、本当に、自分でも呆れるくらいの遠回りをしてしまった。

 この一言だけで彼女は気づけたのに。

 この一言だけで良かったのに。

 本当に、我ながら残酷だ。こんな傷をえぐるような行為を行うなんて。最低だ。


「じょう」

「冗談ではありません」


 この場でそれを完璧に証明するようなものはなかったが、僕の雰囲気から冗談ではないと察した大野さん。それでもなお、彼女は受け入れられない。その現実に。


「だって、今は2014年で。だから・・・えっと」

「それはあなたが‘亡くなった’年です」


 この言葉が彼女にとってどれほど衝撃的な言葉だったかどうかはわからない。わかるはずもない。

 僕は彼女が絶望に染まっていく様を見届けるほかなかった。2014年で時が止まってしまった彼女を。


「最近、あなたは誰かと会話をしましたか?」

「それはもちろん」

「僕達以外です。僕や翠、厳丈先生などの関係者以外です」


 関係者とはもちろん、幽霊やら神秘のだ。篠原先輩ももちろん含める。


「えっと、あれ、いるはずなのに。ちょっと待って。えっと」

「・・・」


 僕は大野さんの答えが返ってくるのを待つが、いっこうに返ってこない。

 当然だ。彼女と、幽霊と話せる人なんて僕ら以外にそうそういるはずがない。


「・・・・みんな、最初から気付いていたの?」


 理解はしたが納得はしていない様子の大野さん。

 そんな彼女は涙目で僕に尋ねる。


「ええ、その通りです。僕は、いえ、僕達は一目であなたがこの世ならざる者、故人だとわかっていました」


 僕も翠も厳丈先生も、夢魔と人間のハーフである篠原先輩も、霊的なものに通ずる者なら誰でも気づくことだった。わかることだった。

 それに、同学年の女子なら知っているはずだ。

 見ているはずだ。

 にも関わらず、僕は彼女を知らない。


「・・そう」

「はい」

「そっか」


 未だ受け入れていない大野さんだが、それは当然だ。こんな話をすんなり受け入れられるほうがどうかしている。むしろ、こんな短時間で理解してくれたのは驚きだ。前々から違和感は感じていたかもしれない。僕としては随分と助かる。

 そんな彼女に追い打ちをかけるのは忍びないが、そうしないと終わらない。


「それに、あなたは本当に殺されなかったのですか?例のコックリさんに」

「え?だ、だって、私はこうして」


 大野さんの言葉はそこで止まる。彼女はこう言いたかったのだろう。

 ‘だって、私はこうして生きている。死んでないんだから’と。

 大野さんは彼に危害は加えられてないと言ったが、彼女は死んでいる。ここから考えられる可能性は2つ。


 1 コックリさんを行った後に、彼女は事故か何かで死んでしまった。

 2 彼に呪われ殺されてしまった。


 だが、僕は調査を進めて行くにつれ、2つ目の、呪い殺された可能性が大きいと考える。僕はそれを主張する証拠を、とある記事を大野さんに渡す。


「これは今からちょうど10年前の記事。これはつい最近の記事です」


 ‘風乃坂高校の女子生徒4人が謎の失踪’

‘ 木斗目山きとめやまで複数の白骨死体発見’


「この記事を見る限り、あなた方は同じ時期に死んでしまったようです。事故のせいで4人同時に死ぬということはあり得ますが、それ程の事故が目撃されない、話題にされないというのは考えられません。しかし、事故ではなく、呪いという超常の類ならば、それを可能にします」


 渡された記事を何度も、何度も、何度も読み返す大野さん。被害者の顔と名前が載っているその記事に、自分の顔と名前があることに彼女は衝撃を受けているが、それだけではないだろう。


「みっちゃん・・かよちゃん・・・かれんちゃん・・」


 被害者は大野碧、坂本未央さかもとみお天野加代あまのかよ杉本香蓮すぎもとかれん。そこに書かれているのは、載っている写真は、まぎれもなく彼女の友人だろう。


「こんな・・・こんな・・・」


 彼女は頭を抱えてその場でうずくまる。

 彼女は今思い出しているのだろう。あの日の記憶を。

 巡る前の記憶を。


コックリさんの告白



 それはとある放課後の空き教室でのこと。


「許してください、許してください、許してください、・・」

「だから香蓮がこんな事やろうって言うのがいけないんだよ!」

「私のせい?言い出したのはあんたじゃない」


 私の目の前には、阿鼻叫喚と表現して差し支えない光景が見える。

 私の友人が互いを罵り合い、

 私の友人が責任をなすり付け合い、

 私の友人が怪我を負っていて、

 私の友人が泣き叫んで、

 私の友人が謝罪をしていて、

 私の友人はここから出ることができず、

 私の友人が、私の友人が、私の友人が、私の友人が、私の友人が、私の友人が、私の友人が、私の友人が、私の友人が、私の友人が、私の友人が、私の友人が、私の友人が、私の友人が、私の友人が、私の友人が、私の友人が、私の友人が、私の友人が、、私の友人が、私の友人が、私の友人が、私の友人が、私の友人が、私の友人が、私の友人が、私の友人が、私の友人が、私の友人が、私の友人が、私の友人が、私の友人が、私の友人が、私の友人が、私の友人が、私の友人が、私の友人が、私の友人が、私の友人が、私の友人が、私の友人が、私の友人が、私の友人が、私の友人が、私の友人が、私の友人が、私の友人が、私の友人が、私の友人が、私の友人が、私の友人が、私の友人が、私の友人が、私の友人が、私の友人が、私の友人が、私の友人が、私の友人が、私の友人が、私の友人が、私の友人が、私の友人が、私の友人が、私の友人が、私の友人が、私の友人が、私の友人が、私の友人が、私の友人が、私の友人が、私の友人が、私の友人が、私の友人が、私の友人が、私の友人が、


 私の友人が目の前の‘あれ’に食われていく。


 私はそれをただただ見ることしかできなかった。腰が抜けていて、怖くて、動くことができなかた。目を閉じることも、逸らすこともできなかった。

 コックリさんの紙から現れた‘あれ’が、私の友人を捕食する様を見ることしかできなかった。


─ボクノオヨメサンニナリマセンカ?─


 ‘あれ’が血に塗れた口で私に問いかける。

 私は口を動かそうとするが、上手く声がでない。口を動かせない。


─オヨメサン、ナラナイノ?─


 ‘あれ’が私に近づいてくる。


 ─オヨメサンニナッテクレナイノ?─

 あれ’が私の目の前に来た。


─ナラナイナラ─


 私の記憶はここまでだ。


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