半月、その見えざる側
仄かな月明かりに照らされる神界。
二条の光が空中で交わり合い、直下の建造物が音を立てて崩れていく。
一線は神々しく白い尾を引き、対なる一線は禍々しい紫の光を放つ。
幾ばくかの交錯の後、二本の光線はこれから崩れる予定の宮殿の頂に留まる。
「ふふ、がっつく男はモテないわよ?」
内の紫線、月蝕の魔女は換装された鋭い指先を相手に向けて、笑う。
「まだ【神】を愚弄するか、魔女風情が!」
間合いをとって立つは、【暁と光を司る神・パーシウス】である。
切っ先を魔女に向け、剣持つその手は怒りに震えている。
「この魂の楽園に侵入し、剰え民草を殺し回るとは」
「悪辣非道めが!」
「【神剣・ガルダトラス】の錆としてくれる!」
パーシウスが一息に捲し立てると、
「んー、だから私じゃないんだけどね」
ふふ、と笑い月蝕の魔女が返す。
それに、
「黙れ!」
と、光の矢になって突撃する。
いくら真実を話そうと悪党の言葉には、耳を傾けては貰えない様だ。
何度と同じ様なやり取りをしただろうか。
彼女の言は全て挑発にしかなっていない。
無論、それが魔女の目的である。
彼の神の剣撃は痺れるほど重く、霞むほどに速い。
思考はまさに『正義に燃える若神』
生き死にの愉悦を感じるには持ってこいであった。
少し、からかい過ぎたかしら、
とも考えるが、光神の放つまさに一閃を受ける度に戦いの渦へとのまれていく。
放たれる薙ぎの一撃、
手先に魔力を集中し硬化させる。
剣撃に合わせることで軌道を微かに逸らし、なおかつ身をかがめ避ける。
防御した箇所が剣圧により痺れるが、次打が迫っている。
頭部に振り下ろされる一撃、
瞬く間に迫る剣、両手を交差させて受け止める。
刹那、判断する。
後ろ跳びで間合いをあける。
まともに受け続けていれば、両肘から先は無くなっていただろう。
整った艶やかな黒の長髪は、少しもっていかれた。
構ってはいられない、次打が迫る。
胴に射抜かんとする突きの一撃、
払いの手。
間に合わない?
距離感を測る。誤れば即、死。
ほぼ同時である。着刃地点を硬化させる。
加減を誤ればこれまた、死。
ガ、キィン
と、鈍い音が鳴り響く。
腹部に命中し抉られる。
傷口から漏れる魔力。
自ら、無理やり焼き塞ぐ。
光神は間合いを取り、次撃の用意をしている。
「魔女の忌々しい魔術とやらは口程にもないな」
言葉とは裏腹に一切の油断は感じられない。
その鋭い眼光で、今にも射殺さんとしているようである。
なんと甘美なことか、
「こんなに滾る戦の連続、なかなか冥界じゃ味わえないわ」
神に感謝したいくらい、
と、冗談めかして笑った真意は、光神には伝わっていないだろう。