月蝕、その日 続
機先を制し剣撃を放ったのは、役神であった。
その場で大太刀を横薙ぐと、魔力の真空波となって月蝕の魔女に飛来する。
月蝕の魔女がごく僅か後、動く。
彼女もまた、周囲の魔力を吸い、突き出した両の手から球の魔導波を放つ。
放たれた魔導波は両者の間で衝突し爆発を生む。
過去神と月蝕の魔女は、先程の場所にはおらず、既に飛び出した後である。
円の軌道を描きながら徐々に間合いを詰めていく。
その間も、波動の応酬は止むことを知らず。
「かかか。楽しいな。月蝕の!」
「そうかしら?冥界じゃ喧嘩相手が2人もいたから、」
「もう少し、刺激が欲しいわ?」
月蝕な魔女が悪戯な笑みを浮かべて返すと、過去神もまたつられて綻ぶ。
この間、5発の空中爆発。
「そうよな、そうよな。そう言えば、あの夜の興奮は、この程度ではなかった。」
「...誤解される言い方はやめてくれる?」
「くくく、互いさま、よの」
月蝕の魔女は少しだけ語気を強めて返す。
だが笑みは崩れない。
この間、7発の空中爆発。
間合いはいよいよ、過去神の切っ先届く程度。
ここで月蝕の魔女は、間合いを詰めた。
無論、直に振り下ろされる刃。
背中、すんでの所を刀が通る。
ここは空中で無理やり姿勢をかえて、なんとか回避した。
さすれば月蝕の魔力の反撃だ。
指先から僅かに成型された魔力の刃を、過去神の眉間に向かわす。
今度は役神が、すんでのところで顔を、体を回り込ませて回避する。
両者それぞれの勢いのまま、対の方向に一飛びし、間合いを取る。
仕切り直しだ。
一息間の攻防。両者、手を誤った方が「死」に抱かれる。
「元神さまのお兄さん、もうちょっと本気でもいいのよ?」
挑発的な笑みを役神に向ける。
これには返さず俯き加減に、くく、と薄く笑う。
瞬時、濃度が高まる周囲の魔力。
月蝕の魔女は軽く身構える
「今の3倍。ついてこられよ?月蝕の」
刹那、割れる地面。
気づけば間合いは詰められている。
目では追えていない。魔力を感知し、ギリギリのところで摘んだ指先には、喉元に迫った刃があった。
「ほう。止めるか」
大太刀は弾かれる。再び間合いをとり、同じ構え。
「なんとか、ね。もうちょっと手加減してくれてもいいんじゃない?」
「わがままよのう」
過去神が天を仰いで、がはは、と笑うと周囲の魔力は更に、殺人的に高くなる。
同時に、月蝕の魔女の構えも強まる。
「次は10倍。これ以上はないぞ。」
「あらあら、手加減は?」
心なし余裕も薄らぎ、それでも笑う。
両者、次の交錯で決着がつくことを感じとっている。
「久方ぶりに楽しめたぞ、月蝕の」
「ふふ、夜はまだ、始まったばかりじゃない」
瞬時、極限まで高まる魔力。
音を置き去る過去神の突撃。
ぬかせ。と、彼の神の声が響いたのは、激突既に後の事であった。






