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天夜神界威譚   作者: あまつや
7/15

月蝕、その日 続




機先を制し剣撃を放ったのは、役神であった。

その場で大太刀を横薙ぐと、魔力の真空波となって月蝕の魔女に飛来する。


月蝕の魔女がごく僅か後、動く。

彼女もまた、周囲の魔力を吸い、突き出した両の手から球の魔導波を放つ。


放たれた魔導波は両者の間で衝突し爆発を生む。

過去神と月蝕の魔女は、先程の場所にはおらず、既に飛び出した後である。

円の軌道を描きながら徐々に間合いを詰めていく。

その間も、波動の応酬は止むことを知らず。


「かかか。楽しいな。()()()!」



「そうかしら?冥界(あっちのほう)じゃ喧嘩相手が2人もいたから、」


「もう少し、刺激が欲しいわ?」


月蝕な魔女が悪戯な笑みを浮かべて返すと、過去神もまたつられて綻ぶ。

この間、5発の空中爆発。


「そうよな、そうよな。そう言えば、あの夜の興奮は、この程度ではなかった。」


「...誤解される言い方はやめてくれる?」


「くくく、互いさま、よの」


月蝕の魔女は少しだけ語気を強めて返す。

だが笑みは崩れない。

この間、7発の空中爆発。


間合いはいよいよ、過去神の切っ先届く程度。


ここで月蝕の魔女は、間合いを詰めた。

無論、直に振り下ろされる刃。

背中、すんでの所を刀が通る。

ここは空中で無理やり姿勢をかえて、なんとか回避した。

さすれば月蝕の魔力の反撃だ。


指先から僅かに成型された魔力の刃を、過去神の眉間に向かわす。

今度は役神が、すんでのところで顔を、体を回り込ませて回避する。


両者それぞれの勢いのまま、対の方向に一飛びし、間合いを取る。

仕切り直しだ。

一息間の攻防。両者、手を誤った方が「死」に抱かれる。


「元神さまのお兄さん、もうちょっと本気でもいいのよ?」


挑発的な笑みを役神に向ける。

これには返さず俯き加減に、くく、と薄く笑う。

瞬時、濃度が高まる周囲の魔力。

月蝕の魔女は軽く身構える


「今の3倍。ついてこられよ?()()()



刹那、割れる地面。

気づけば間合いは詰められている。


目では追えていない。魔力を感知し、ギリギリのところで摘んだ指先には、喉元に迫った刃があった。



「ほう。止めるか」


大太刀は弾かれる。再び間合いをとり、同じ構え。


「なんとか、ね。もうちょっと手加減してくれてもいいんじゃない?」


「わがままよのう」


過去神が天を仰いで、がはは、と笑うと周囲の魔力は更に、殺人的に高くなる。 

同時に、月蝕の魔女の構えも強まる。


「次は10倍。これ以上はないぞ。」


「あらあら、手加減は?」


心なし余裕も薄らぎ、それでも笑う。

両者、次の交錯で決着がつくことを感じとっている。


「久方ぶりに楽しめたぞ、月蝕の」


「ふふ、夜はまだ、始まったばかりじゃない」



瞬時、極限まで高まる魔力。

音を置き去る過去神の突撃。

ぬかせ。と、彼の神の声が響いたのは、激突既に後の事であった。




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