怨炎風飄 続
風神の斬撃は、白詰の身体を容赦なく刻む。
しかしそれに構うことなく彼女は魔炎を撃ち続けた。
次第、白詰の炎により周辺の温度が焼けるほどに上がる。
彼女の傷口から血の代わりに漏れ出る魔力は、炎となって周囲を焼いた。
そして傷の数に比例するかの如く、放つ魔弾は一層苛烈となる。
しかしどの攻撃も避けられるかいなされ、当たったとしても致命傷どころか決定打にも至らない。
白詰は思わず歯がみし、風神を睨みつける。
「確かに強いのは認めましょう。」
無論、妖狐ごときの睨圧なぞ意にも介していない。
小刀で払った炎弾から伝わる魔力。
これは並の魔物の熱量ではない。
過去、数々の魔物から悪神に至るまで討ってきた風神にとっても、驚異となりうるものである。
あたれば、だが。
「ただの力自慢ははいて捨てる程、相手をしてきました。」
そして斬撃波を放ち続ける。
連続して放った炎弾も、全て紙一重で躱された。
「ダメだ」
このままでは、
そしてつられたように、白詰の口角も吊り上がる。
「ねぇ、風神さま...だっけ。」
「あなたも...楽しい?」
また、殺し合いを楽しんでしまう。
白詰な笑顔におぞましさを感じ、風神は思わず間合いをとった。
奥の手を、隠している?
魔力の消費、ダメージの蓄積、なにより今の、肩で息をし膝に手をつき、立つ姿...
まだ何かあるようには見えんが...
風神は警戒を強める。
が、決して気圧された訳ではない。
あらゆる可能性を探り、あらゆる策を看破する。
それが、この【風と流れを司る神・ウィンディア】である。
これまで力押し一辺倒だった風神は実は、児戯ほど力も出していなかった。
「何をお考えかわかりませんが...よろしい、少しだけ本気を出しましょう」
そう言って、その場で手を振る。
するとその手には既に剣が握られていた。
脇差程の短めの物だが、風神の放つ魔力が重くなった。
そしてなにより、肌刺すような殺気が一層強まる。
「すぐに、殺られないで下さいね」
その言葉と共に、風神は姿を消した。
刹那、白詰を襲う斬撃。辛くも致命傷は回避するが、胸元から肩にかけて大きく切られる。
さらに一閃、二閃。身体を翻し、なんとかかわす。
しかし、斬撃止むことを知らず。
全てを避け切れるはずもなく数太刀、受けてしまう。
この時、風神は目にも止まらぬ高速移動で動き続け、攻撃を繰り出し続けていた。
瞬間的に、超高速で動く者は幾ばく存在れど、その速度で持続的に動き続ける事ができるのは、数える程もいない。
まさにその姿、風の如し。
白詰の傷は増え続け、吹き出る魔力はもはや致死量である。
白詰は遂に、膝を地につき視線を伏してしまった。
「...とんだ期待外れですね。」
この程度か
とばかりに白詰に歩み寄る。しかし、警戒は一切解かない。風神から溢れ出る殺気がそれを物語っている。
「最後に残す言葉はありますか?」
白詰の首筋に、刃を向ける。そして介錯せんと刀を振りかぶるその時であった。
「ねぇ、風神さま。」
「たのしい?」