再会の宿夜
数々の神を討ち倒し、怨敵へと足を向ける天夜童子。
しかし神界、まっこと広し。
天夜の風の如き速さをもってしても依然、果ては見えず。
突如、進む天夜の視界が変わる。
先に討ち伏せた炎神フレンディアの統括区が終わり、次の神の区へと入ったことを理解する。
「...似ている」
真っ先に感じた違和感。
天夜が元いた世界にあまりにも似ていた。
遠くにそびえる山々、林をかき分ける風、そして漂う魔力が何より似通っていた。
「やれ久しいな、天夜の鬼子」
その声に、思考が停止する。
「...貴様も...ここに来ていたのか」
まるで停止した時間を無理やり進むように、なんとか言葉を繋いだ。
「...四条...清院」
天夜より一回り大きい程度、男神としてはそれほど大きくない。
華奢な体躯に黒の長髪。
陰陽を占う着物に、軽めの鎧を纏っていた。
いや、天夜には見慣れていた姿だった。
「なんなる因果やれ」
と四条。
「...あな夜にり、貴様をば伏せし以来やな」
つられて元世の訛りで返す天夜。
「今が、あの夜ぞ」
四条が言い放つ。途端、魔力が重くなる。否、のみならず空気が、言の葉が、視界が、音が、
全てが冥界に引きずり戻さんとするかの如く、天夜にのしかかる。
「...あの時は大将同士の一騎討ちだった」
「...恨みを買われる覚えは無い」
やめやめ、と手を顔の前で振り、【夜吸い】に手をかける。
珍しく、口角が上がり、さらには相手を睨みつけている。
「恨んでなどおらぬよ、天夜鬼子。あのような悦美な夜を…恨んでなどおらぬ」
「同じ様な世界を創って、女々しい奴」
「いやはや良き事なり。いつまでも事の世に縛られる。あの夜の、ひと時のままなり」
四条、調和と律令の神は刀を抜く。
戦刀とは違い、様々な宝飾を施された祭刀。
その刃は慟哭に光を吸っている。
「抜けや、鬼童」
「言われなくても」
同様に夜吸いを構える。
天夜童子の思考が冥界に落ちる前のあの夜と交差する。
人と妖、交わる筈の無かった二つの想いが重なりかけたあの夜、自らの思い人を手にかけたあの夜、妖魔が人を滅ぼしたあの夜。
交差する刀線。
走る火花。
尾を引く魔霧。
今、撃ち合う奴輩は現かひと夜の幻か。
それは一柱と一妖にも分からない。
甘美なり、と感ずる天夜童子の想いは彼女の如き闇へと呑まるるのみであった。




