蠢くものたち
お金が欲しいです。
鬼が鬼と呼ばれるにはそれなりの理由がある。
「ちくしょう……ミトラ様が亡くなったからか……。」
俺は片手剣を右手に構え、左手にナイフを握る。
ここに来て鬼はきついな─!!
「血を……捧げろォ……!!」
ヴァルナの口から牙が見える。
鬼の使う神性は言うなれば借金だ。
信仰心を使って神性を使うのに対し、鬼は信仰心をくれる人間がもう居ない。
だから神性を使えば後払い、借金の返済。
その返済方法は人を殺し、血を吸うこと─!
「がぁッ!!」
ヴァルナが俺に飛びかかる。
まずはナイフを投げて避けた隙に剣を叩き込む!!
ナイフを投げる。
避けろ!!
ヴァルナは身を翻し、そのナイフを綺麗に避ける……ことはしなかった。
ナイフはヴァルナの右胸に浅く刺さる。
嘘だろ!!
コイツ完全に理性が!!
吸血鬼……、鬼と呼ばれる理由。
ヴァルナは今までミトラ様の信仰心を少し分けてもらっていたから何とかなっていた。
「くっそ!!」
ヴァルナは鬼だから普通の人間より打たれ強い。
並の致命傷を食らっても死なない!!
カウラは飛びかかってきたヴァルナをギリギリまで引き付けて避ける。
「ゔぅ!!」
ヴァルナが唸る。
今のヴァルナは獣に近い。
何とかして正気に戻さなくては。
ヴァルナによって機動隊のほとんどが全滅したのは不幸中の幸いだが、ここでヴァルナを止められなきゃ意味が無い!!
「目ェ覚ませよ……ヴァルナぁッ!!」
カウラは剣を構え、吠えた。
「機動隊が全滅……?」
「ええ、ヴァルナ・ドラースが鬼化しまして。」
「ああ、そうだった。あいつは鬼だったな。」
王の間で、少年は事切れた王の上に座る。
「父さんも大人しく僕に王座を渡してくれれば殺さなかったのに。」
少年は隣のスキンヘッドの男、ラリーに同意するような目を向けた。
「全くその通りですね王子。」
「だよね。僕だって殺したくないんだよ、父親だし。親不孝者な訳じゃない?完璧な王になるにはそういうのはしたく無かったけど……。」
フン……、と鼻で笑い少年は続けた。
「ま、しょうがないか。ヴァルナ・ドラースは即刻殺してね、アレ使ってもいいから。」
ラリーは首を傾げ尋ねる。
「アレ、とは?」
「バァダバァナがいつ出ても良いように作った巨大兵器。」
「たかが堕神の鬼相手にそんな兵器を……。」
「計画は完膚なきまでに。ちゃんと使うんだよ、大型弩砲。」
「クソ……、目は覚めたかよ……。」
俺はカウラの左腕を噛んでいた。
「カウラッ?!」
「急げ、騎士団本部に……!!」
口にべったりとついた血がカウラの出血量を物語る。
「でも……お前……!」
「俺はいい、機動隊に治してくれるからな。だから早く騎士団本部に!!」
「くっ……。」
俺は何を護れる……!!
「早く行けェ!!」
カウラは出血部位を押さえて叫ぶ。
「すまねぇ……!!」
俺はカウラを置いて走った。
走って走って、街中を血塗れで抜ける。
クソッ……クソッ……クソッ……!!
俺は何のために……!!生きながらえているんだ!!
「リンド……様?」
「まだ神霊騎士じゃないのですから、様はいらないです。それにまだ皆からの信仰心も得れていないですから。」
「ですがミトラ様が亡くなった今、ミトラ様の次はリンド様だと思っております。」
「やめてください、貴方は私の姉だと思っているのですから。敬語も本当は慣れないのは知っています。いつも通りにしてください、テレシア。」
「リンドには隠し事は出来ないわね。」
テレシアは右眼に付けた眼帯を触り微笑む。
「リンド、そろそろよ。」
「ええ、ヴァルナを護りましょう!!」
「よう、ヴァルナ……。」
「ハラリ……。」
ハラリは髭を掻く。
周りには10人以上の機動隊。
「ヴァルナ、俺の言ったことを覚えてるか?」
「なんだよ……。」
「思い出せ。それじゃ行くぞ。」
ハラリは背中を横に提げた剣を抜く。
ハラリの図体に似合わない細い刀身。
しかし、長いな……。
その剣は長さにして1.5レーデル。
リンドよりも長い。
「思い出したらやれ。」
ハラリはそう言ってこちらに突っ込む。
速いな!!
「驚いた顔してるな?図体の割に速いってか?」
ハラリは笑って剣を振る。
「ちっ……!!」
寸で避けたが次はどうだか……。
「くそあほ!!」
「リンド!待って!!」
騎士団の服を着た2人が走って向かってくる。
「逃亡劇再開です!!くそあほ!!」
お金なくてひもじい……。