バースデイ
新たに物語が展開します。
はいそこの君、前座が長いとか言わない。
「ミトラ!!」
そばに駆け寄り抱き上げる。
「しっかりしろ!!」
まだ、少しだけ息がある。
短い蝋燭に火がポツリとだけの命。
「やぁ……ダーリン……。」
僅かに目を開き、俺を見るが、その目には闇が混じる。
「待ってろ、直ぐに医者へ─」
「待って。」
弱々しく俺の胸ぐらを掴む。
「サティを……。」
「サティ……?」
「あの子の名前、私たちの娘ちゃん……。」
サティ─。
近くには見当たらなかった。
するとミトラは顔の横に一筋の涙をつたわらせた。
「護れなかった……、あの子を……!サティを……!!」
弱々しく胸ぐらを掴む手が強くなる。
サティは死んだ……。
何故だ……どうして……。
「分かったよ、でも今はお前を助ける。」
俺もサティを護れなかった。
なら、それなら……。
今はミトラだけでも助けなければ……。
「それは……無理かなぁ……。」
そう言って左胸を自分ではだけさせた。
「そんな……。」
「取られちゃったんだ……心臓……。」
左胸には大きく風穴が空いていて、そこには何もなかった。
「擬似的に……私も神様だから……直ぐには死にきれなくて……。」
そんな……俺は……誰も……。
「そんなに悲しい顔しないでよ……。」
ミトラは少しずつ目を閉じていく。
「待て!まだ……!!まだ逝くな!!」
「私は……、ダーリンの……、いい嫁さんで居れたかな……。」
またもう1つの涙を流して、ミトラは。
「お誕生日おめでとう……。ごめんね……。サティのことを……わすれないで……。」
ミトラの蝋燭が消えた。
俺は誰も……。誰も…………。
護れない…………。またひとりになってしまった……。
「ミトラ……。ミトラぁッ……!!」
こんなのは嘘だ。
全て嘘に、なってしまえば、良いのに……。
ミトラ様の葬儀は国を挙げて行われた。
礼服を着たヴァルナは何も言わず、何も顔に出さず。
「ミトラ様ぁ……うっ……。」
リンドは俺の隣で泣いている。
神霊騎士団全員が泣いて、棺桶のそばに近づこうと藻掻く。
俺はヴァルナの同期として、上司として、何が出来るだろうか。
ミトラ様の葬儀の後、神霊騎士団の内部であるひとつの噂が上がった。
機動隊がヴァルナを裏切り者として処刑を考えていると。
あの男が?くそあほのアイツが?
そんなはずは無い。私はミトラ様の傍にいたから分かる。
くそあほは、ミトラ様のことをちゃんと愛していた。
「ヴァルナ、国王殿がお前をお呼びだ……。」
いつもは厳しい口調で呼ぶハラリが、優しく俺にそう言った。
「お前のカミさんの事だそうだ……。」
「はい。」
「ヴァルナ、お前大丈夫か?」
「はい。」
「死ぬなよ……。」
「はい。」
ハラリは首を横に振り、ため息をついた。
国王の間に向かっていた。
ミトラ……サティ……。
名前を心の中で呼ぶと顔が思い浮かぶ。
ミトラのふざけた笑顔。
サティが健やかに眠る顔。
でも、何故か、名前と顔が一致しない。
俺はどうにかなってしまったようだ。
「ヴァルナ……!」
俺の名を呼ぶ奴がいる。
良く聞いた声だ。
振り向くとそこにはカウラが居た。
「なにやってる。」
「いいから、こっちに来い!」
カウラに引きづられるように王の間から遠ざかる。
「俺は王の間に─」
「行くな。」
カウラは切羽詰まった顔をして言った。
手を払い、俺はカウラに怒鳴る。
「俺は!!王の間に!!行かなきゃ行けないんだ!!」
「行っちゃダメだ!!」
肩で呼吸をするカウラ。
「とにかく急ぐぞ、ヴァルナ……!」
「なんでだよ?!」
カウラは足を止め、囁く。
「お前は、帝国に殺されるんだよ……!!」
今回は内容薄くてすまんかった。
でも次はこの箱庭が広がって行く話になると思います。(たぶんな)




