残酷な種子
スマホゲーのイベントに追われております。
ヴァルナ、憩いの広場にて
「もうだいぶ野次馬がいるな─。」
普段は子連れの家族がキャッチボールをしたりするはずの憩いの広場だが─。
「税を下げろー!」
「人さらいの帝国ー!!」
「人殺しがー!」
怒号のドッヂボール。
確かに税金は高い、バァナ討伐の予算が年々増えているからだ。
人さらいは原因不明だ、多分バァナに殺されたんだろう。
デモ隊はよく出来た看板を頭上で上下させながら言葉を投げ続ける。
「あの看板はどんな顔して作ってんだか……。」
「はいはい、早く終わらせて娘とミトラ様に家族サービスしてやれ。」
「うるせぇ、他の奴らは?」
周りを見渡したが機動隊の中で真っ先に到着したのは俺たち2人だけのようだった。
「とりあえず俺達でやるぞ。通報の内容はデモ隊の暴徒化、レジスタンスじゃないから安心していい。デモ隊も今まで大人しかったのにこれで一斉に逮捕だな。」
通報内容のメモを眺め、ため息をつくカウラ。
広場には帝国の政治に反感を持つ者がとにかく多くいた。
「とりあえずは沈静化させれば良いんだな?」
「まぁそんな感じ」
じゃあ剣は要らないか─。
両手剣に掛けていた手を下ろす。両手につけた革製の指貫グローブをぐっと下にはめ直す。
せいぜい暴徒化しているのは20人と少し。木製の看板を振り回している。
看板の角材をそのために使うな。
「やりすぎるなよ、ヴァルナ。出来れば怪我人は出したくない。」
「この人数を俺とお前の2人だけはちとハードじゃないか?」
「増援まで5分とかからん、それまでの辛抱な」
じゃあ行くぞ、カウラはそう言ってデモ隊に大声を張り上げる。
「帝国機動隊だ!今すぐ暴れるのをやめなさい!これ以上暴れるようならば一斉に逮捕する!!」
「黙れ!!帝国の犬どもが!!」
暴徒が一斉にこちらに走り寄る。
まぁ分かっていた展開だ。そりゃ怒るわな。
「あ」
カウラが間抜けな声を上げる。
「どうした」
「ヴァルナ、前言撤回だ。怪我人も出して構わん、無効化しろ。奴ら銃火器と刃物を持ってる。」
走り寄ってくる暴徒に対処できる姿勢をさせながら観察する、
あぁ、確かに懐にギラつくものがある。
「了解、行くぞカウラ。」
「OK!」
まずは俺が先頭の相手の懐に飛び込む。
そして鳩尾と首の側面を同時に叩く。
ドサッ……、っと鈍い音を立てて相手が倒れる。
「まずは1人。」
その様子を見ていた後続の奴らが一瞬怯みながらもピストルを構えた。
その時、俺の後ろから短剣が飛んできた。
カウラだ。
自然と短剣に目を奪われていくデモ隊。
「余所見っていう隙が1番ナンセンスなんだよ。」
カウラが俺の上を飛び越え、瞬間で敵陣を縫うように走り抜ける。
相手は次々に膝が砕けるように地面に倒れる。
「ヴァルナ!」
「おうよ。」
息を軽く吸い込む。あとはただ解くだけ。
鬼性解放。
久しぶりに使うなこれ。
「飲み込め、"地底の鎖"」
拘束しろ─。
腰を落としたデモ隊の真下の地面がせり上がる。
せり上がった地面はデモ隊の体の一部を埋め込み、地面に足がつかない程度に吊り上げる。
「あんまり暴れるなよ、発動時間が遅い割に脆いんだよ、それ。」
しかもこの手の術は苦手だし。
「これで15人くらいは一気に無効化出来たかな?」
カウラがヘラヘラと笑い、続けて。
「さて!まだやるかい?」
喧騒にまみれた、広場は少しざわついて静かになった。
さすがにここまで30秒かからずやられてるわけだから懲りたか。
「ヴァルナ、終了。増援が来るまで待機な。」
「了解。」
この後は拘束したデモ隊の聴取を始めようか、と思っていたその時だった。
「うわぁぁぁぁ!!!」
「ヴァルナ!!」
俺の─後ろ─?!
野次馬に紛れていやがった!!
1人の男が短剣を握りしめて飛びかかる。突然ではあるがこれでどうということは無いだろう。
そんなことより頭に浮かんでいたのは。
肋骨5本、前腕、骨盤、大腿骨の粉砕骨折。
殴る前からこいつの怪我の状態がわかった。
こいつは重傷だ、報告書とか面倒だなとか思っていた。
「そぉーれっ!!」
視界の端で白く輝く何かが飛んでくる。
ガンッ!!
俺と飛びかかった男の間、本当に一髪分のスレスレに巨大な十字架が突き刺さる。
「……。」
襲いかかった男は腰を抜かす。
この白銀に輝く十字架の持ち主は1人しかいない。
「ミトラ!危ないだろうが!!」
「ごみんに。」
なんだそのふざけたごめんねは。
しかも正確に間ギリギリを狙いやがって。
だが、報告書を書くより単純に済んでとても良かったので今回は許してやる。
「ミトラ様ぁー!!」
ミトラより頭二つ分小さい神霊兵が叫びながら走ってくる。
確か名前は……。
「インド」
「リンドだ!くそあほ!!」
今日もキレっキレのリンド。
この国と似た名前。
「どしたの?リンドちゃん」
「何故いつも軽率な行動をしてしまうのですか!!貴方様は神霊騎士ですよ!」
「ダーリンを助けただけよ?」
「このくそあほなんかそうそう死なないから良いのです!!」
いや良くない。
「リンちゃんはいつも元気だなー。」
そう言うカウラは腰を抜かした男の拘束を済ませ、到着した部下に引渡していた。
スケベだが仕事はできる。
続々と機動隊の連中も集まり、暴徒化したデモ隊を連行して行った。
「想定より簡単だったな。」
「まぁ大事にならなくて良かったよ。」
それじゃ投げた短剣取りに行ってくるわ、とカウラは小走りで行った。
「くそあほ!」
「いきなり何だ。」
「よくもミトラ様を母にしたな!!」
意味は分かるけどよく分からん。
「私が!!ミトラ様の!!娘になるつもりだったのに!!」
もっと分からん。
「夫婦なんだ、やる事やって何が悪い。」
「やだ♡ダーリンってば、いやらしい♡」
「てめえ殺すぞ」
「殺したらこのリンドが本当にクソにしてやります!!」
言葉が本当に汚い。
「ここに仕事をしていないのが1人……。」
渋く低い声。
背筋が自然と伸びる。
この声は、機動隊のトップ。
ハラリ・ユヴァル。
「ヴァルナ、今は何の時間だ……?」
「職務の途中です……。」
「そうだよなぁ……?何でしてないんだ?」
ハラリは髭を掻いて、首を傾げる。
「申し訳ありません……。」
フンッ、とハラリは鼻で笑う。
「ミトラ様─、いくら旦那とはいえ、職務妨害はお辞めいただきたい。」
「はいはい、ソーリーソーリー。」
うるせぇんだよ髭野郎、とミトラは聞こえないように呟く。
まぁハラリには聞こえているんだろうけど。
ミトラはハラリのことが嫌いだ。
まぁ神霊騎士団と帝国機動隊はそもそも仲が悪い。
神霊騎士団には女性のみ、機動隊には男性のみ所属できる、というバランスの悪さも相まってか、国の会議ではよく言い争いになることもあるからだろう。
「臨時ミーティングだ、行くぞ。」
「はい!」
俺はハラリの後について、本部にへ向かった。
「今日はカレーな!」
そんなミトラの声が後ろから聞こえる。
「ただいま!部下達!!」
「お帰りなさいませ!ミトラ様!!」
神霊騎士団本部。たくさんの妹達が出迎えてくれる。
リンドの部下が娘ちゃんを抱き抱え、私の元へやってきた。
「おー、うちの娘ちゃんは元気にしてた?」
「はい!とっても!」
ですが……、先程とは変わってトーンを落とした。
「どうした?」
「実は……ちょうど昼食時のお祈りの際に、この子の周りで風が吹き始めたんです。」
「窓が開けっ放しだったとかではなくて?」
「違います。確かに吹き始めたんです、まるで風が囲んで護るみたいに……。」
……。
いや、まさかね……。
「ちょっとごめんね?」
私は娘ちゃんを妹の腕から抱き抱える。
息をゆっくりと吸う。
娘ちゃんはすーすーと寝息を立てて眠っている。
「今からもし何か起きても、誰にも言わないでね。」
「はい……。」
いつもの軽い言葉ではなかったからか、応答はとても重たいものだった。
「擬似神性─解放─。」
確かに風が吹く。
そしてそれは勢いをどんどん増していき、抱いた腕を弾き飛ばそうとしてくる。
「──。」
神性を納める。
風は弱まり、やがて無くなった。
変わらず寝息を立てて眠っている。
そうか、この子は─。
「ミトラ様……?」
「誰にも言わないこと、絶対に守ってね。」
「──はい。」
さすがに妹達も悟ったようだ。
この子は─。
純粋な人間では無い。
信仰の力を増やしてしまう。
増幅機だ。
僕ですか?
チョコレートが大好きですね。




