痕跡
あけましておめでとうございます。やはり正月は良いものですね。
「ピュセル!!」
「分かってる!!」
ジャックマンを避けるように弾丸を打ち込む。
しかしそれは全て躱されてしまった。
なんだこいつ─!!
人間の動きじゃない!!
「何で!!何で!!!」
ヴァルナという男はそう言いながらジャックマンに剣撃をぶつけ続ける。
ジャックマンの拳を避けながら、弾丸を剣で弾いている。
いつも直感は当たらないが今回は当たっている。
きっと勝てない─。
「ピュセル!」
余裕のないジャックマンの声。
私に向ける目がメッセージを飛ばす。
「逃げろ!!」と。
そんなことが出来るはずが無い。腐っても私はレジスタンスの長だ。
勝てなくても、負けてしまっても、死なせる訳にはいかない!!
「ジャックマン!!」
2丁拳銃から2発ずつ、つまり4発を“ジャックマンに向けて”放つ。
ジャックマンの人間的な動き、銃の直線の軌道に対応出来るなら、私達も分からない不規則な動きにしてしまえばいい。
全ての銃弾がジャックマンの篭手に当たる。
跳弾は完全に不規則な動き。たとえどんな身体能力を持っていても対応出来ない!!
確かにその判断は驚異的な判断能力を持つヴァルナには有効だった。
当たれば、の話だが。
ジャックマンは銃弾の衝撃で一瞬怯んでいる。銃弾は4発全て当たらない。
ギャンブルの結果は完全な悪手。
「しまっ─!!」
怯んだジャックマンはヴァルナにとっては隙の塊に見えただろう。
「終いだ!」
ヴァルナから放たれる言葉と剣撃はジャックマンの首筋へ向かう──!
「グッ……!!」
ジャックマンは軽く呻き倒れた。首からは血が細く流れているが、胴体とは繋がっている。
「ピュセルとか言ったな。」
先程の激しい感情と剣撃を繰り出した者とは思えない落ち着いた口調だった。
「ミトラは誰に殺された……?」
「えっ……いや─」
「答えろ!!お前らじゃないのは分かる!ミトラを殺すには弱すぎるからな!!」
ヴァルナは突然のことで狼狽える私を怒鳴りつける。
「クソッ……お前……手加減しやがって……。」
ジャックマンが首を押さえながら声を捻り出した。
「剣で切らないように叩きやがったなッ!!」
「動くな三下、本気でやったら5秒で四肢が飛んでたぞ。」
切らないように剣で叩く、そんなことが出来るのか?!
しかも怯んでいたとはいえ、動き回る物体に対してそれを行う辺りは完全な化け物、人間技じゃない。
「誰がミトラを殺った……。」
「私たちじゃないわ、少なくとも私たちが殺すなんてのはありえない。」
「じゃあ誰だ!誰が俺の大切なものを奪ったんだ!!」
「知らないわよ!私達がミトラ様を殺ったなんてそんなこと……。」
何故あんな事件が起きたのだろうか。
1年前まではレジスタンスとはいえ平和だった。
誰かを襲うような過激派のレジスタンスでは無かったし、そもそもお父さんがそんなことを望む人ではなかった。
それに私の親父はミトラ様の……。
「私がミトラ様を殺せるわけ─。」
ボフッ……。
ヴァルナの背後で砂が煙立った。
「なっ!?」
ヴァルナは後ろに振り向きつつ剣を降る。
「キィィィィッ!!!!」
甲高い声とともにそれは後ろに跳ぶ。
灰色の不定形のそれは……。
バァナ……!!
「ピュセル!!」
ジャックマンが叫ぶ。
「分かってるっての!!」
レジスタンスでバァナを倒せるのは私だけ。
リボルバーに入っている弾を抜き、たった1発の弾丸をこめる。
弾丸には刻印が刻まれている。その刻印は……。
「本当は使いたくはないけどさ……。」
撃鉄をおこす。
弾丸の刻印は神霊騎士団のマーク。
「喰らいなさい、私が使う術の中で1番威力が高い術。」
引き金を引く。
「弾丸式“排他的な箱”!!」
「やっとだ……完全とはいえないが、抽出出来た。」
少年は拳を握りしめ笑みを顔から零す。
「王、これからどうなさいますか。」
「ラリー、全員集めろ。」
ラリーは目を見開き、固まる。しかし、すぐに応じた。
「かしこまりました。4人全員をお呼びして参ります。」
足音も立てず、ラリーはその場から立ち去った。
少年はラリーが見えなくなったあと、声を上げて笑った。
ひとしきり笑ったあとに呟く。
「さぁ、孵る準備をしようじゃないか。」
え?正月はとうの昔に終わったって?