始まりの故郷
今回でミトラの見た目が確定しました。
ヴァルナの見た目は決まってません。
はい、見切り発車です。
チャキ…チャキ…チャキ…。
建物の鉄骨は剥き出し、転がる多くの骸。
1人の青年は骸たちを見ながら、赤錆びた剣を投げては空中で一回転させていた。
チャキ…チャキ…チャキ…。
剣の装飾は揺れて、宙で鳴る。
「おい、お前!」
珍しく、声をかける者。
朱色の髪を三つ編みにした女、戦うにはおおよそ不向きなローブを纏う。
短刀を逆手で持ち、問いかけてくる。
「名を言いな。」
チャキ…。
暇つぶしにもならない手遊びを止めて、スッ…と息を吸う。
吐息のように名乗る。
「……ヴァルナ。」
短髪の女の眼光が線を描く。
「ヴァルナ……お前が地底の鬼……。」
また、復讐か。
その類の人間は何度も何度も殺した。
剣が赤錆びてもなお、鋭く光る程に。
「お前に俺が殺せるのか……?」
「……どうせ頼まれ事だ、出来なかったらお前に殺されて、出来たらただ感謝されるだけ。」
ただの趣味なんだよ、と笑っていた。
「可哀想にな。」
俺は哀れんだ。軽い頼まれ事に応じるお人好しの愚かさに。
「名はなんだ。」
「ミトラ、ミトラ・ドラース。」
フォン…。
赤錆びた剣を振り、剣の重みを確かめる。
ああ……、いつも通りのねっとりとした重み。
ミトラと正面で対峙し、剣を肩に乗せて。
「ミトラという名の戦士よ、せいぜい楽に……。」
死んでくれ。
「残念だけど、死なないよ。」
ミトラはローブを脱ぎ捨て、短刀をこちらに放つ。
不意打ちを狙って来た。
まずは短刀をかわす、不意打ちなら次は……。
「後ろだろ。」
後ろを振り向きつつ後ろに近づく気配を切り捌く。
「おっと!」
ミトラの着ていた服が切れ、胸元より下の部分の肌が見える。
「エッチだねぇ……?」
ヘラヘラとミトラは笑った。
「ふざけたやつだな。」
「まぁそれが取り柄だし。」
ミトラはそう言うとまた短刀を構える。
「もし次も不意打ちならお前は最大級の間抜けだな。」
「お、言ってくれるね?」
ミトラは短刀をまた放った。
こいつ、本当の馬鹿か?
難なく避ける、後ろから近づく気配は罠だろうか。
いや、明らかな人だ。
「本当に馬鹿なんだな。」
また同じように切り捌く。
後ろにいたのはミトラ。
また同じように服が切られる。
「馬鹿って言ったやつが馬鹿なんだぞ?」
それに、とミトラは続けた。
「不意打ちが1度と思ってる方が馬鹿だよ。」
上空から青白い光線。
半身で避ける。そこをミトラは短刀で切りつけようとする、またそれを避けようとした瞬間を光線が駆ける。
何段階の不意打ちなんだ──!!
ほとんど同時に行われる攻撃、しかしそこには確かにタイムラグがあり、絶妙にこちらのリズムを崩す攻撃間隔だった。
「そしてついに避けきれなくなる。」
ミトラが見透かして笑う。
「来な!!白銀!!」
高速回転をしながら真っ白な十字架が飛んできた。
この十字架……。
「デカい!!」
上に飛び上がり避ける。
それを読んでいたかのように、既に空中にミトラは居た。
「万事休すってな!」
短刀のリーチに俺の腹がある。このまま許せば臓を引きずり出されるだろう。
しょうがない……。
「鬼性解放……。」
加速する感覚が身体を、制空圏を、世界を徐々に蝕み、停止させていく。
その処理速度は自分の身体の動きをを置いていくほどであったが、身体に命令を飛ばすには充分すぎる時間だった。
短刀が弧を描く、手首を足で蹴りあげ、描いていた弧を乱す。
「……!!」
ミトラの驚いた表情。
「万事休すだな。」
「チッ……。」
舌打ちをしてミトラは地面に着地した。
「まぁ、滅びた地底民族の“元”神様を殺そうとしている訳だから、簡単に行くとは思ってないけどさ。」
白銀という名の十字架がミトラの元に戻る。
「私だって神性は使えるんだよね。擬似的だけど。」
白銀が光り始めた。この気配、感覚は。
「本気みたいだな。」
「やっぱり本気じゃなきゃね、戦いじゃない。そんなものは楽しくない。」
ミトラがニヤァっと笑う。
「この異常者が……。」
思わずそんな言葉が漏れた。
「お互い様だろう?」
ミトラは輝く白銀を頭上に放り上げる。
あの大きさの物を軽々と放る腕力は女性とは思えない。
「白銀、飛び回れ」
十字架が高速でミトラの周りを飛び回る。
まるで空間の鎧。下手に押し入れば身体を持っていかれるだろう。
ミトラはそのまま歩み寄る。
ここまで分かりやすく制空圏を示した者が居ただろうか。
彼女は殺気を纏いながらも、凛とした表情をする。飛び回る十字架が光を反射し輝く。
それはとても……。
─美しい。
この女は戦地に立つことで美しさを増す。艶を羽織り、色を香りたたせる。
「ミトラ、本気で行く。」
「失礼な奴だな?本気で来いよ。じゃなきゃ……。」
私を殺せないぜ?
ミトラがこちらへ突っ込んでくる。
鬼性を解放しても尚、白銀の間を通り抜けてミトラに攻撃を食らわせるのは至難の業だ。
ならば。
「ウぉらッ!!」
白銀を止めてしまえば良い。
わざと身体のど真ん中に白銀を食い込ませる。激しい鈍痛と、足の先から頭まで大量の蟻が這い寄るような感覚。
すぐは動けない。でも白銀は止められた。
「脳筋な戦略ですこと!!」
ミトラはナイフで飛びかかる。
白銀に対して俺はひとつの疑問があった。
この武器は果たしてそんなに器用なのかと。
相手を狙い撃つ、主人の周りを飛び回る、極めつけはさっきのミトラとの不意打ちの連携攻撃。
恐らく、白銀の弱点は……。
「鬼性でも動くのかな?」
「……!!」
白銀が紅く光る。
鬼性を込めてもこいつは動く。
つまり、白銀は俺の物だ。
「危ない所だった。身体的な強さは確実私の上だったし、その上頭も切れるとはね。」
ミトラは危機迫った顔のまま呟く。
「あと1ヶ月早くそれをやられていたら、私は死んでいた!!」
白銀が紅い光を放ち周りを覆い始める。
「ついこの間、安全装置を掛けさせてもらったッ!!」
危機迫った顔から勝利を確信した顔へ。
「“排他的な箱”!!」
まさかこの状況で神性術だと……!!
眼前がホワイトアウトする。
ミトラという女は強い。
いや、戦闘においては俺の方が上のはずだった。
何故負けたのだろうか。
「そりゃあんたが……。」
ミトラの声が聞こえた。
あの時の言葉。そうか俺は既に……。
目を覚ますと、辺りは赤暗い空に照らされていた。
建物はほとんどが崩れており、鉄骨が剥き出しになっている。
ひとつの骸と目が合う。
俺が横たわっていた場所は大量の骸が転がっていた。
まさか……ここは……。
「アングラなのか?」
俺の故郷、アングラ。
俺が神となり、鬼に堕ちた場所。
リンドの見た目はすぐ決まりました。
テンプレの幼女の見た目ですからね。
次にハラリ、テレシア……。
もしかして私、主人公のことあんまり好きじゃない……?