プロローグ
アン・コロモテ
荒ぶってるだけです。
帝国機動隊、正午過ぎ、本部にて。
「─ふぅ。」
紅茶をすする。
帝国機動隊にしては珍しく暇な日であった。
ここは神霊都市ベリィ。シンド帝国の中枢機関全てが集まっている帝国最大都市。
最大なだけ毎日何かしらの犯罪と帝国に何かしら茶々を入れてくるレジスタンスに頭を悩ます日々だ。
「こういう暇なのが毎日続けばいいんだけどな、ヴァルナ」
隣で新聞を読むカウラが苦笑いしながら言った。
「でもお前はは戦う方が好きだよな。」
カウラは何度読んだか分からない新聞を畳直しまた読み直す。悟られないようにしているようだが、そのページは─。
「スケベなページばかり繰り返して読むな」
「男はスケベなもんだろ」
キリッとして言うな結構なイケメンが。
タメ口で話しているが、カウラは一応俺の上司。元々同期で、人に好かれやすい質だからなのかどんどん出世していった。
「あと俺は戦うのが好きなんじゃない、得意なだけだ。昔からそうやって周りから存在するように望まれたんだから」
ふーん、とカウラは眉を上げて頷く。
「人間上がりの武神、そして堕神の鬼─。本当はこんな機動隊に居るべきやつじゃ無いよな。」
人間はとうに辞めてしまい、神からも堕ちた。ただの半端な鬼として、少しの迫害と平和を噛み締めながら生きる。
「鬼として人間様に殺されそうになりながら生きるのが本当は良いんだろうけどな、あいつのおかげで平和に過ごせてるからな─。」
「ミトラ様か……、本当にいつも思うけどよ、お前ミトラ様の旦那だからってあいつって呼ぶのはやめてあげろよ。」
ミトラ・ドラース、帝国の神霊兵、帝国軍とはまた別の神霊騎士団に所属し、邪教やバァナを倒すために日々忙しくしている。
「近頃はバァナも大人しいし、家事もほとんど俺がしてるから無職みたいなもんだよ。」
紅茶をすする。
無くなった紅茶のおかわりを注ぎに行こうとしたとき、ジリリリと警報が鳴った。
「ヴァルナ!仕事だ!」
「やっぱり1日丸々暇って訳じゃないよな─。」
カウラは片手剣と短剣を、俺は両手剣を携えて出立した。
****************
神霊騎士団、ベリィ郊外。
「ご機嫌だねぇー!私としても本気の出し甲斐があるってもんだよ!」
ベリィ郊外の教会からバァナ討伐の救援要請。
バァナ数体が砂漠を飛び跳ね、ギラつく爪で私を執拗に狙う。
「ミトラ様!お下がりください!!貴方様が前線に出てもらっては困ります!!」
「そーんなお堅いこと言わないのー!」
もうっ!、と部下のリンドのストレス溜まる音がする。
「忘れないでください!あなたは神霊騎士団のたった一人の神霊騎士ってことを─!」
「尚更その私が必要でしょう!!」
バァナ、灰色の皮膚を持つ不定形の何か。
なぜか人間を襲い、殺す。食べるわけでもなく、ただ殺す。
この地上で確認されてから20年経つものの、未だに生態は謎に包まれている。
今回の討伐はこのバァナが大量発生していた。
普通、バァナ一体に対し2人の神霊兵で倒すのが定石。1人でも倒せなくはないがリスクが高い。
そのバァナが今は15体。
神霊兵がたった10人程しか常駐していない派出所では戦力不足だ。
バァナが震えながら高速で動き回る。
「お前らのおかげでうちの旦那は天涯孤独になったんだよッ!!」
背中に背負った私と同じくらいの純白の十字架を上に放り投げる。
「擬似神性解放!!土に還んな!!」
放り投げた十字架が地面にガスンッと突き刺さる。地面に刺さり立つ十字架に触れるとほのかに光り始めた。
「何か仕掛ける時は言ってからにしてください!!」
部下の1人がそう言いながら他の神霊兵に防御姿勢の指示を出す。
ヒヒッ、と神霊騎士に似合わぬほほ笑みを浮かべる。
「構築せよ、"排他的な箱"!!」
これは私が使う1番殲滅力の高い術なんでね─。
十字架を中心に赤みがかった透明な立方体が現れ、急速に膨張する。立方体はバァナも神霊兵達も飲み込んで……。
「いざ死にやがれ、展開!!」
閃光を放って破裂する。
きゃっ、と神霊兵達が弾き出される。
この術の良い所は選択と振り分けが出来るとこだろう。
バァナは煙を上げて灰になっていた。
「─すごい……。」
弾き出され、地面に座り込んだ派出所の神霊兵の一人がつぶやく。
彼女の目に映るのは、腰に手を当てて凛と立つ赤髪を後ろで三つ編みにした女性。
神霊騎士団たった一人の神霊騎士……、鬼の旦那を持つ女、ミトラ・ドラース─。
「ふぅ……、さてと帰りますか!」
ぱっぱっと手を払い、十字架を担ぎ上げる。
手をメガホンの形にして
「はいはい、撤収ー!!」
「おみごと……ですが!乱暴すぎます!」
「リンドちゃん、そんなこと気にしてたらやってらんないって」
「ですが─」
「予定の1時間早く済んだんだから良いじゃない、貴方も長期任務帰りそのままで合流して疲れてるし、私は早く帰って娘ちゃんの寝顔が見たいのー!」
リンドがぽかんと口を開けた。
「え、なに」
「ミトラ様って子どもいたんですか……」
「うん、2日前に産まれたけど……」
「2日ァ?!」
「リンドちゃんは知らなかったの?!」
「知りませんよそんな大事なこと!!」
「君の部下に子守り任せてるんだけど……。」
「はぁっ?!」
何も無い砂漠でリンドの声が響き渡った。
サンショク・ダンテ
引き続き荒ぶりました。




