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第84話 まずはラビットマンの住む場所へ

 

「コテツ、準備に随分と時間が掛かったな」

「何言ってるニャ。商人なんだから旅の準備に時間が掛かるのは当たり前ニャ。旦那みたいに手ぶらで旅する方が変わってるニャ」


 俺はコテツとともに旅に出る。行き先は南東にある国ヤパン、情報収集が主な目的だ。


 俺の方は準備などは特に必要も無いので、着の身着のままで出発できる。

 いつでもダンジョンへ帰ることができる俺ならではの旅の仕方なのだ。


 コテツはと言うと、準備に余念が無い。

 肩に掛けられた鞄は、準備した荷物でパンパンに膨らんでいる。


「その鞄って、前の焼け焦げたやつじゃないよな?」

「流石にあれはもう使えないニャ。こっちは新しい鞄、ベルさんが用意してくれて助かったニャ。前よりも丈夫で軽いし、たくさん荷物も入れられそうニャ」


 コテツは新しい鞄を自慢げ気に見せてくる。

 なるほど、オウルベアの毛皮を使ってるのか、そりゃ丈夫だ。


 中身は……魔石が多い。あとはごちゃごちゃして分からん。


「こんなもん、どうするんだ? 必要なら後で準備できたんだけど」

「まあ、これは手土産みたいなものニャ。ここを出たら、まずはラビットマンのところに向かわないといけないしニャ」

「ラビットマンのところ? 寄ってから行くのか?」

「真っ直ぐヤパンに向かったりはしないニャ。ちゃんと立ち寄るところは立ち寄って、やることやりながら旅しないとニャ」


 そんなもんなのかね。

 まあ、確かにヤパンまでの旅はコテツが詳しいのだ。旅程はコテツに任せた方が良いだろう。

 俺が気を掛けるべきは……。


「じゃあ、留守の間は――」

(留守の間は任せとけや。支援者(システム)さんもおるんやし、何とかなるやろ)

「そうですね。支援者(システム)様がおられれば、心配事などありません」

「フフ……まるで、マスター様がいなくても問題無いようではありますが……」


 俺が気にするまでも無かった。

 皆が言うとおり、支援者(システム)がいれば、何も問題は無いだろう。

 それは分かっている。分かってはいるけど……。


「……俺っていらない子?」

(どうやろな?)

「どうでしょうね?」

「……」

「ひっでぇ! マックスも、そこでだんまりは無いだろ! 嘘でも良いから違うって言えよ!」

「嘘でよろしいのですか?」

「良くない!」


 くっそー……俺の立場って結局何なんだ? 傅かれたり、イジられたり、よく分からんぞ。

 何だかんだで楽しいから俺も構わないけど……。


 そんな風に談笑している俺達の下に、巨大な影が近付いてくる。


「マスター、我をお呼びと聞きましたが?」

「おっ、来たな。キバにはまた乗せてもらいたいんだ」

「それは光栄の極み……! それではどうぞ、我の背に」


 何の説明もしてないけど、キバは嬉し気に背を低くしてくれている。

 今回もキバに乗って森を移動するつもりなのだ。

 

 俺は早速キバに跨がり、コテツを呼ぶ。


「コテツ、早く乗れよ」

「じゃ、じゃあ遠慮無く……」


 コテツは、のそのそとキバの背に乗ってくる。

 俺の腰に手を回して準備オッケーだな。


「マスター! どうかご無事で!」


 ノアが俺の出発を見送りに来てくれた。

 キバを呼びに行ってもらったのだが、俺の出発に間に合うように急いで戻ってきてくれた。


 ノアに見送られるのは、これで何度目か……今度は一緒に旅したいな。


「ノア、ダンジョンのことは頼むな。ビークは……放っといても良いか。よし、キバ行ってくれ!」

「御意!」


 俺の指示に従い、キバは駆け出す。

 俺達を見送る視線を背中に受けて、目指すはラビットマンの住む土地だ。


 ……


(コテツ……そう言えば、ラビットマンのいる場所って何処にあるんだ?)

「むぐぅ……この状況じゃ案内しようが無いニャ」


 キバはいつものごとく、森を疾走してくれている。

 キバの背中にしがみついた状態では話し難そうだ。

 そんな時は俺の便利な能力、『思念波』の出番である。


(コテツ、今なら俺みたいに思念で会話できるぞ)

(ほんとかニャ?)

(ほんとだって)

(あれ? ほんとにできてるニャ……)


 俺の『思念波』は意識した相手と思念で会話ができる。

 これがあれば、声を発せられない状況でも意思の疎通ができるというわけだ。

 欠点としては、俺と一対一でしか話せないところか。つまり、この会話は俺とコテツだけの会話であって、キバには聞こえていないのだ。


 考え様によっては、誰にもバレずに内緒話もできるので長所ともとれるかな?


(えっと……旦那? 出発したのはグラティアで間違いなかったニャ?)

(ああ、そうだ。今、キバにはグラティアから東に真っ直ぐ向かってもらっている。一応、川沿いに進みながら走ってもらってるぞ?)

(今のところはそれで良いニャ。このまま川沿いに行けば、そのうち南側に山が見えてくると思うニャ。そこからは進路を変更しないといけないニャ)


 暫くは川沿い……だな。


 俺はそのことをキバに『思念波』で伝える。

 キバはそれに従い、川沿いを走り続けていた。


 ついでに速度は控えめにするようにも指示している。

 思い立ってすぐ旅立ったとはいえ、別にそこまで急いではいない。

 少しぐらい景色を楽しんでも問題無いだろう。


 速度を落としたことで、コテツにも余裕ができたようだ。

 ラビットマンについて話をしてくれている。


(前にも言ったけど、ラビットマンは臆病なんだニャ。旦那は初めて会うんだから冗談でも怖がらせたら駄目ニャ)

(分かってるって、初対面で変なことするやつなんてそうそういないだろ)


 今、頭にフロゲルの顔が浮かんだが、あれは特殊な例だ。

 あいつは普通じゃない。


(大きな声も駄目ニャ。できれば、あんまり近付いてやらない方が良いかもしれないニャ)

(そこまでか? ……まあ、俺はラビットマンのことを知らないし、コテツの言うとおりにするのが正しいんだろうけど)

(あっ! キバさんは来たら絶対駄目ニャ。姿を見られたら隠れて出てこなくなるニャ。これは間違いないニャ!)


 キバはラビットマンじゃなくても怖がられるしな。

 キバには悪いが、住処が近付いてきたら帰ってもらった方が良いかも知れない。

 山が見えたら、俺とコテツだけで歩いていくべきか……。


(そうだニャ、それが良いと思うニャ)


 おっと、俺の考えがコテツに筒抜けだったか。

 この『思念波』も上手く使わないと、逆に秘密を暴露しそうだ。気を付けることにしよう。


 ……


 キバの背中に揺られること三時間程。

 何度か休憩を挟みながら森を進んでいくと、件の山らしき影を木々の隙間から遠目に確認することができた。

 

「マスター、先程言われていた山というのはあれのことですか?」

「多分、そうだろな。見た感じ、山っぽいのはあれしかないし」


 俺には『遠視』があるので見えている。そしてキバにも。


 エレクトロードパイソンから逃げる時にキバに『付与』していた『逃走強化』、それを後で違うスキルに変える約束をしていた。

 その代わりのスキルが『遠視』なのだ。


 俺としては他にも有用なスキルがあるんじゃないかと思いはしたが、キバが是非にもと希望したので、その要望を叶えることにした。

 それ以来、キバのお気に入りのスキルになっているらしい。

 遠出をしては景色を楽しむキバの姿は、俺も『付与』して良かったと思えるほどだ。

 探索の時も重宝したので、意外と良い選択だったのかもな。


「コテツ……にはまだ見えてないか。コテツが確認できる距離まで来たら、徒歩に切り換えよう」

「御意」


 ……


 俺とキバが山影を捉えてから程なくして、コテツの目でも見える距離まで来たようだ。

 予定どおり、ここからは俺とコテツの二人で進む。

 近場にダンジョンを繋げて、キバとはここでお別れだ。


「ありがとうな。あとは帰ってゆっくりしてくれ」

「御意。マスターもご武運を!」


 そう言って、キバは颯爽とダンジョンに入っていった。


「ご武運をって言われても、別に戦いに行くわけじゃないんだけどな……」

「ニャハハ、キバさんなりのエールニャ。見た目は怖いけど良い人……いや、良い狼だニャ」


 分かってるって。

 ちょっと……いや、かなり不器用なだけなんだよ。


「さて、と……んじゃ行くか」


 キバの堅苦しい言葉を受け取った俺は、目印としていた山を見る。

 コテツの話では、目的のラビットマンの住処は山への道中にあるということだ。

 ここからは久々の歩き旅、見慣れぬ森の景色を楽しみながら進むとしようかな。



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