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第82話 日々を過ごす


 コボルトとトードマンの協力態勢が構築されて一週間。

 アモル、グラティア、そしてトードマンの集落の整備は順調に進んでいた。


 当初の予定どおり、安全を確保するための防壁を作ることから始めている。

 その甲斐あって、今では全ての居住地は木製の塀に囲まれ、侵入することは容易ではない強固な居住地に仕上がっていた。

 ただ、住居については手が回らず、住居予定地にテントが立ち並ぶという少し原始的な風景ではあるが……。


 しかし、それも時間が経てば解決するだろう。


 コボルトの労働意欲は非常に高い。

 トードマンも根が真面目なのだろう、文句も言わず黙々とコボルトの指示に従い、作業に従事してくれている。


 そして日が経つにつれて、湖の全貌も明らかになっていった。


 最初こそフロゲル主導の下で湖周辺の調査を行っていたが、湖に危険な魔獣がいないことが確認できたところで、俺とキバが一気に周囲を探索して回ったのだ。


 やはり、俺の予想どおり湖が海と繋がっているということは無かった。

 湖を一周して確認したので間違いは無いと思う。

 気になるのは湖に満ち引きがあるということともう一つ、フロゲルが気にしていたことだが、エレクトロードパイソンが何処からやってきたのかということだ。


 自然発生した可能性もあるのだろうが、奴は特殊個体(ユニーク)なのだ。

 特殊個体(ユニーク)は、自然環境下では極稀にしか発生しないと聞いている。

 自然発生する確率は極めて低いのかもしれない。

 それに湖周辺のに生息する魔獣を見ても、エレクトロードパイソンと同種族の魔獣など影も形も存在しなかった。


 一番近い魔獣でハイドスネーク……擬態が上手い蛇と、湖の中で泳いでいたバイトイールという鰻に似た魔獣ぐらいなものだ。

 ちなみにバイトイールは焼いて食べたら美味かった。ちょっと小骨が多いのが難点だったけど。


 それはともかく、どちらもエレクトロードパイソンとは似ても似つかない。

 大きさどころか持っているスキルに共通点が少な過ぎるのだ。


 フロゲルは突然現れたとも言ってるし、他所から流れてきた可能性が高いだろう。

 それが何処からどうやって、というのが分からないことには不安が残るが……。


 ともあれ、エレクトロードパイソンの出自が分からない以上、迂闊に湖に近付くことは避けた方が良い。

 そう判断した俺達は、湖に行くためにはフロゲルかコボルトの長老の許可が必要という取り決めを交わすことにした。

 勿論、俺は自由に行き来できるけどな。


 コボルトの長老……と言えば、マックスが正式に長老に就任した。


 マックスは往生際が悪く最後まで拒否していたが、前任者のソフィ、フロゲル、そして俺が無理矢理、長老に任命したのだ。

 

 新長老の就任は瞬く間にコボルト達の知るところになったが、反対する者などいない。

 むしろ、マックスこそ次代の長老に相応しいと誰もが賛成してくれていた。


 俺もマックスが良いとは思うけど、マックスって思ったより有名人なんだな……。


「マックスは元々、次期長老候補の一人だったのですよ?」


 長老……じゃなかった。ソフィが俺の心を読んだように教えてくれた。


 話を聞くと、コボルトは長老であってもいつ命を失うかは分からないことから、各地に点在する集落の代表の中から次期長老を選ぶこともあるらしい。

 というよりも、長老の候補者が各集落の(おさ)を務めていると言った方が分かりやすいかな。


 そんな候補者の中でも、マックスは際立って有名だそうだ。

 有名な逸話として、他の種族との交渉に成功した話やゴブリンの群れを撃退したという話は、コボルトの誰もが耳にしたことがあると聞いた。


 それは俺と出会う前の話だったので俺も初耳だった。

 よく考えたら、マックスってあんまり自分の話をしないんだよな。

 いつもハウザーさんの何が凄いとか、娘のナナが如何に素晴らしいかの話になっている。

 

 今度、マックス自身の話を根掘り葉掘り聞いてみることにしようかな?


 それはともかく、マックスは無事コボルトの長老に就任できた。

 これには俺だけじゃなく、ノア達、俺の眷属も大喜びしていた。


 そして、例によって宴が開かれることとなる。


 その時に感じたのが、食事風景もさらに変化を見せていたことだ。

 トードマン達が川や湖近辺での資源を採取してくれるおかげで、魚や貝、甲殻類まで食卓にあがるようになっていた。

 さらに、森の探索も進んでいることもあって、果実や野菜類も食卓を彩るようになっていたのだ。

 それを支援者(システム)監修で、地球の調理法が施されていく。

 これは本当にありがたい……!


 段々と文明的な食事にありつけている。

 感動のあまり、泣きそうだ。


 実際、コボルト達は泣いていた。

 泣くほど美味いということだろう。

 訓練上がりのジュースでも泣いていたしな。案外、味覚が驚いて泣いているのかも。


 訓練といえば、俺も随分と動きが良くなってきたんじゃないのか?


 今ではビークの攻撃も何とか躱せるようになってきた。

 コボルト達との一対多の戦闘訓練であっても、そうそうやられはしない。

 アビィには木剣での勝負でも勝ったしな。


 それでもやっぱりマックスには一撃も当てることはできていない。

 経験の差は簡単には覆らないということだ。


 フロゲルとの模擬戦では、俺は完全に玩具にされている。

 見学者のための技の見本とされることもしばしばだった。


 最悪なのは、格闘しながら俺の服を剥ぎ取るという暴挙におよぶこと。

 しかも、決まってココやアビィの前でやってくれる。


 これはマジで止めて欲しい……。


 いくら見た目は子供でも中身は大人だ。それでいて感性は思春期の少年という、わけの分からない生態を持つ俺には、この辱めはキツすぎる。


 ココは興味津々で俺の醜態を観察してくるし、アビィは両手で顔を隠して恥ずかしがっていた。

 その反応によって、俺にさらなる辱めを与えている。


 と言うか、ココさん? あんまり堂々と興味を持つのは如何なものかと思いますよ?


 ……とまあ、そんなこんなで訓練の日々は過ぎている。

 分かるのは、徐々にではあるが成果が出ているということだ。


 そして、夜間の訓練も同様に成果は上がっている。


 『生成』での攻撃、支援者(システム)のように怒涛のラッシュとはいかないが、動き回るファングボアをぶん殴れるぐらいにはなっている。

 それだけじゃない、『収納』の方も上達していた。


 ノアに訓練してもらうことで、ノアの『魔力放出』で放たれる魔力の弾を『収納』することもできるようになっていた。

 他にも、支援者(システム)が風呂でしてくれるように、全身を滴る水だけを『収納』するということもできるようになっていた。

 スキルの上達……やってみると、凄い達成感だ。


 調子に乗った俺は、他のスキルも次々と練習していった。


 エレクトロードパイソンから手に入れた『発電』や『噴射』、中でも『滑走』が俺のお気に入りだ。

 『滑走』は練習すればするほど、その効果が発揮される。

 土の上でもスピードスケートのように、軽やかな加速が実現できるのだ。


 まあ、森の中で試した時に木の根に足をひっかけて盛大に転んでからは、自重するようになったけどな。


 あと……変わったことと言えば、コボルトやトードマンがブラッドウルフに襲われることが無くなったことか。

 その原因は多分、というか間違い無く俺だ。


 夜間の訓練の時に、度々ブラッドウルフが俺のダンジョンを訪れるようになったのだ。

 そのブラッドウルフに俺が餌付けしたことが原因だろう。


 気が付けば、百体近いブラッドウルフが俺に懐いていた。

 与える餌は俺が訓練の最中に仕留めた魔獣、主にファングボアだ。


 支援者(システム)からは、口酸っぱく自分で面倒を見ろと言われていたからな。

 俺が仕留めた獲物を与えるぐらいは良いだろう、と俺は気前良く餌付けしていたら予想に反して、増えすぎた。

 まあ、俺の仲間を襲わないように再三注意しているので、今のところは大事に至っていない。

 だけど、このまま俺が世話するのも限界があるんだよな……。


〈だから言ったのです。責任を取れるのですか? と〉


 耳が……いや、頭が痛い。

 いっそ、こいつらも俺の眷属にできれば苦労しないんだけどな……。


 そんな叶わない望みを胸に抱いて、今日も一日が終わっていく。


 

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