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第81話 夜間はスキルの訓練です

 

 はああ……マジかよ……。

 スパルタなのはフロゲルだけじゃなかった。

 支援者(システム)も十分、スパルタのようだ。


 場所はダンジョン区画。

 区画とは言っても部屋は一つしかないが、唯一森と直接繋がっている場所なので、時折魔獣が迷い込んでくる。

 支援者(システム)は、そんな侵入してきた魔獣に着目したようだ。

 俺の訓練に魔獣を充てがう算段を立てていた。


〈マスターはスキルの使用方法が雑です。夜間はスキルの使用法について訓練していきましょう〉


 夜通しですか……まあ、そうなるわな……。


 気分はガックシ。

 夜の間ぐらいは、のんびりとノアやコノアと戯れていたかった……。


「マスター、ボクも手伝います!」

「それは嬉しいんだけど、ノアはいざという時以外は見ていてくれ。そうじゃないと、訓練にならないからな」


 大広間に繋がる通路には、ノアが陣取ってくれている。

 日中は主にビークが魔獣を迎え撃っているが、夜間は眠いとのことで、ノアが交代することが多いのだ。

 そんなビークは交代して何処にいるかと言うと……。


「ここが落ち着くので、ここで横になってるッス。眠くなったら勝手に寝るんで、気にしなくても良いッスよ」


 いい身分だな、おい!


 なんて、ちょっとイラッとしている俺に、お客さんの来店を告げる声が聞こえてきた。


〈マスター、侵入者です。『生成』のみで戦ってください〉


 クエストは『生成』で戦え、か……。


 ターゲットはファングボア、口から伸びる二本の牙が見るからに危険な猪だ。

 ダンジョンに入ってきたのは迷い込んだからか食い物を探してきたのか知らないが、(やっこ)さんは殺る気満々のようだ。

 荒く鼻息を鳴らし、後ろ足で地面を掘るようにして猛っている。


 今回も落とし穴……といきたいのだが、それじゃあ支援者(システム)は納得しないだろう。

 支援者(システム)がエレクトロードパイソンを仕留めた時のように、あくまで『生成』だけで仕留めろというのが訓練の課題なのだ。


 『生成』で拳をイメージ……できる。が、当てれるか!


 戦闘は既に始まっている。

 目標は動く、俺も動く。

 自分が動きながら動く相手に合わせて『生成』するのは難しい!

 幸いなことに、ファングボアは単調な突進しかしないので攻撃は回避できている。しかし、このままではジリ貧だ。


「マスター、頑張るッスー」


 うるせえ! 欠伸しながら応援するな! こっちは必死なんだよ!


 と、俺はビークに八つ当たりしたい気持ちを抑えながら、ファングボアの突進を避けている。

 しかし、こいつは直進しか頭に無いのか?

 だったら、やりようはあるかもな。


「こっちだ!」


 俺は壁を背にして、ファングボアを呼び寄せた。

 安い挑発でファングボアは俺に狙いを定めている。


 さあ、来るぞ!


「――おらあ!」


 気合を込めてその場で跳躍する。

 十分引き付けたことで、ファングボアは壁に向かって直進していた。


 壁にキバを突き刺させることが目的……ではない。

 そんなことをしたら、支援者(システム)に何て言われるのか分かったものじゃないからな。


「カウンターなら当たるだろ!」


 跳躍すると同時に、俺がいた場所の真後ろの壁を突き出させる。

 斜め下から打ち上げるようにして、『生成』してやった。


「ブゴォ!」


 タイミングはピッタリだな。

 アッパーを受けたファングボアは後方に吹っ飛び、もんどり打っている。

 この隙に追い打ちを掛ける!


「もう一発!」


 今度は天井だ。

 咄嗟だったので範囲は絞れていない。

 目測で大まかな範囲の天井を一気に打ち下ろした。


「ブヒィィィィ!!」


 自分でやったことながら、ちょっとしたホラーだ。

 骨が砕ける音と肉が潰れる音が生々しい。

 見ていて気持ちが良いものでもないし、すぐに『収納』しよう。


 うげぇ……『収納』の中身は見ない方が良いな。


〈もっと頑張りましょう〉

(頑張りはするけど、あんまり来ないで欲しいな……)


 言ってるしりから、ブラッドウルフが来てしまった。しかも二体。

 こいつらはファングボアのようにはいかんよな……。


 俺がどうしたものかと思案しているうちに、ブラッドウルフは二手に分かれて俺を遠巻きに挟み込む。

 狙いは俺に絞ってるか。まあ、訓練のために『囮』を付けてるしな。


 そう言えば、ビークは……寝てるか。


 ダンジョン区画を任せるに当たって、ビークにも『囮』を付与している。

 それでも俺しか狙ってこないのは、ビークよりも俺が弱いと判断されてるからだろう。

 イビキを掻いて寝ているビークの方が脅威と思われているのも、ちょっと腹が立つが……。


「グァァッ!」


 おっと、ビークに気を取られている場合じゃない。

 ブラッドウルフは時間差で俺に飛び掛かってきた。


 ……あれ? こいつら、以前に比べて全然怖く感じない。

 動きも遅く見えるし、ファングボアの突進の方がいくらか避け難いぞ?


「よいしょっと!」


 先に飛び掛かってきたブラッドウルフをサイドステップで避けた。

 回避したところを二体目のブラッドウルフが高く飛び掛かってきた。


 俺の頭に齧り付こうとしているのか?


 こいつの攻撃はクーシーがキバの攻撃を躱したように、スライディングで避けてみる。

 ノアは「お見事です!」と感嘆の声を上げてくれたのが、ちょっと嬉しい。


 しかし、避けてばかりでは先に進めない。

 攻撃手段を講じないと。


 こいつらの動きは、飛び掛かるのが攻撃の起点になるんだろ?

 って言うことは、そのタイミングに会わせて『生成』してみるか。


 考えてる間にも、ブラッドウルフは連携した動きで俺に迫っている。

 『生成』する場所は俺が立っていた場所の地面。俺は攻撃を避けながら、地面を盛り上げる!


「――ギャイン!」


 俺の『生成』した土のアッパーがブラッドウルフの腹に突き刺さった。

 いや、拳を『生成』したつもりが、土の槍ができてしまっていた。

 強度が足りないせいで、貫通せずにブラッドウルフの腹に穴を穿っている。それが何とも痛々しい。


「キャインキャイン……!」


 ブラッドウルフの重みで槍は折れたが、ブラッドウルフは激痛に身を捩っている。

 それをもう一体のブラッドウルフが心配そうに見つめているわけだが……。


 どうしよう……?


 自分でやったことだが、あんまりだ。

 ここから駄目押しは気が引ける。

 こいつらに既に戦意は無さそうだし、逃しても良いんだけどな……。


〈手負いの獣は危険です。ここで仕留めることを推奨します〉

(分かってるよ。でもな……)


 俺はミドルポーションを『収納』から取り出し、傷ついたブラッドウルフに振り掛けてやった。

 腹に開いた穴は瞬く間に塞がり、傷の痕跡は消えていく。


(お前ら、森の獣人に悪さするなよ。生きるためには仕方無いだろうけど、これ以上襲ってくるなら俺も容赦できないぞ)


 言葉では伝わらないだろう。

 そう思って『思念波』を試してみた。


「アウウ……」


 俺の思念に驚いているのか、狼ながら戸惑いの表情が色濃く出ているな。


「オオゥー」(……)


 おっ? 俺の『思念波』がブラッドウルフの思念をキャッチしてる!

 魔獣の思念も受信できるのか!


(イタイ、ナイ)

(コワイ)


 おお、理解できる! どこぞの翻訳機もビックリだな!

 じゃあ、これ食うかな?


 俺は『収納』から取り出したファングボアの肉をブラッドウルフの前に置いてみた。


(ニク……!?)


 肉に反応している。


(良いぞ! 食え!)


 俺の思念に従って、ブラッドウルフが肉に齧り付いた。


 あっ、しまった。一つじゃ取り合いになる。

 仕方無い……もう一つだ。


(ウマ……!)

(ニク……!)


 うおお……こうやって見たら、コウガよりも体は小さいし、犬とあんまり変わらんな。


 思い返してみると、今まで仕留めたブラッドウルフは襲ってきたところを已む無く殺した方が多い。

 もしかしたら、魔窟が生み出した個体が多かったのかもしれない。何が何でも襲ってやるという意思が表れていたのだ。


 それに比べると、この二体は痩せ細って凶暴さが感じられない。

 必死になって肉に齧り付く姿は可愛いものだ。


 ちょっと撫でてみた。毛並みはガサガサしてる。

 俺が触っても警戒してないな。


〈どうするつもりですか?〉

(どうするって……飼ったら駄目?)

〈駄目です〉

(どうしても?)

〈誰が世話をするのですか? 誰かに噛みつかないとも限りません。病気もしますし、最後まで面倒見れるのですか?〉


 お母さんか!


 しかし、支援者(システム)の言うことは至極もっともだ。

 コボルトやトードマンに危害を加えさせるわけにはいかない。

 大広間にいるホーンラビットのラビやビビが襲われる可能性もある。

 そんなことになったら後悔してもしきれない。残念だけど、ここはお引き取り願おう。


(お前ら、それを食ったら出ていけよ? それで二度と来るな。良いな?)

「クゥーン……」(ヤダ)

「アオゥ……」(ノコル)


 二体のブラッドウルフは、仲間になりたそうにこちらを見ている!


 でも駄目だ! ブラッドウルフは間に合っている。

 俺は心を鬼にして、ブラッドウルフを追い払った。


 これからブラッドウルフを仕留めるのは躊躇してしまうだろうな……。


〈マスターが悪いのです〉


 分かってるよ! 俺は甘ちゃんだよ!

 情が湧いたら、殺すなんてできねえよ!


〈分かりました。それよりも、今は訓練の続きを行いましょう〉


 支援者(システム)はドライだな。

 俺の葛藤よりも訓練の方が重要だと言いた気だ。


〈次はノアに訓練の相手をしてもらいます〉

「マスター、ボクの攻撃を防いでくださいね!」


 魔獣が侵入すれば魔獣の相手、来なければノアが相手をしてくれる。

 ありがたいね。涙がちょちょぎれる。


 まあ、一番ありがたいのは、それ以来ブラッドウルフがダンジョンに入ってこないことだったけど……。



申し訳ありませんが、風邪のために執筆作業が難航しております。

そのため、次回の更新は9月2日とさせていただきます。

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