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第77話 トードマンとのこれから

 

 フロゲルとマックスの仕合いが即席の余興となってしまったが、宴は既に始まっている。


 以前は、バーベキューみたいな食事の風景だったが、今では屋台のようなものが出されて、テーブルを囲んだ食事が主流となっていた。


 しかも、単純に焼いた肉が出されるだけじゃなく、慰霊祭の時に出されたナッツ揚げがテーブルに並べられている。コボルトはこれが相当気に入っているらしく、こぞってナッツ揚げが出来上がるのを待っていた。


 そんな状態であっても、俺には最優先で用意してくれている。

 今も出来立てが俺の目の前に用意されているのだ。

 何か……申し訳無いな。


 でも、この香りの前では遠慮するのも気が引ける。

 早速いただくとしよう!


 ……うんまー!!


(ほお……今のコボルトは変わった物、食べてんねんな)

「いいえ、これは支援者(システム)様が与えてくださった料理法なのですよ。元はマスター様の知識なのです」

(そう言えば、その支援者(システム)さんって何処におんの? 声は聞いてるけど、姿はまだ見てないもんな)

「ああ、支援者(システム)の姿は見えないよ。いつも俺と一緒にいるけどな。話がしたいなら、ダンジョンに行けば話ができるぞ」

(そうなんか? ちょっと聞きたいこともあるし、話したかったんや。そんじゃあ、またの機会にしようかな)

「聞きたいことって?」

(まあ……色々やな。ワシの好奇心ってやつや。大したことちゃうって)


 何かはぐらかされた気もするけど……まあ、良いか。


 それよりも、フロゲルは用意された肉を食べないのか? って言うか、トードマンって肉を食うのか? 虫を食うイメージがあるけど……。


(ワシらも肉食うで。塊は食い難いから、すり潰したものとか細切れにしたものやけどな)

「そうか……じゃあ、料理を変えてもらった方が良かったかな?」

(うんにゃ、そうでもないみたいや。コボルトさんらが気を利かして切り分けてくれとるみたいやし)


 確かに……周囲のテーブルではトードマン達が小さく切られた肉片を味わっている。

 言葉が通じなくても、コボルトはトードマンの様子を察して行動してくれているようだ。

 フロゲルは目を細めてその光景を見ていた。


 そんなフロゲルに、一人のトードマンが近づいて来る。

 手には何か持っているようだが……?


(おおっ、ご苦労さん! これを待っとったんや!)

「ゲコゲコ……」


 トードマンはフロゲルに何かを手渡して去っていったが、何を渡したんだろうか?


(フッフッフ……トードマン秘蔵の逸品、ここにありや! さあ、食ってもらおうか!)


 フロゲルが自信満々で、テーブルに置いた物体は……何だ!?


 さっきまでナッツ揚げが存在していた皿にお代わりのように乗せられたモノは、緑と黒と白の部分が存在する異形の物体だ!

 それは、とてもじゃないが料理と呼べる代物ではない!

 匂いも生臭く、全体的にヌメリを帯びていることが分か――


 げっ! 今、動いたぞ! 生きてんのか!?


「こいつはリブスネイルの中身でな、生きたまま取り出すのは至難の業なんやで? 活きがええうちに食うのが美味いんや!)


 そう言いながら、フロゲルは蠢く異形を口に放り込んでいる。

 蛙なんだから、これを食べるのも頷けるが……。


〈トードマンの気持ちを受け取るべきです。食べてください〉


 支援者(システム)が、この状況に食い付いてしまった。

 こいつ……俺にゲテモノを食わせるのも機能の一つなのか?

 

(さあ、食ってくれ!)

〈さあ、食べてください〉


 何だ、この展開は……!


 俺は助けを求めて長老の方へ目を向けるが――


 駄目だ! 長老は明らかにドン引きしている!

 口元を手で抑えて、俺に目を合わしてくれない……!


 しかし、そんなことでは俺の助けを求める心は折れやしない。


「せっかくなんだし、長老もどうだ?」

「いえ……私は年のせいか、生ものは体に応えますので遠慮させていただきます」


 くっそー……こんな時は年を出すのか、長老よ……。


 覚悟を決めるために、俺はもう一度異形の者へ目を落としてみが……。

 

 ひいい……! まだ蠢いてる……!

 しかし、食わないと状況が許してくれそうもない。


「南無三……!」


 俺は思い切って、異形をの欠片を口に投入した。

 口に入った瞬間、『収納』してやる!


〈生きた個体は『収納』できません〉


 支援者(システム)の無情なる一言が俺を絶望に叩き落とす。

 結局、俺は謎の物体Xをよく噛んで食べるハメとなり、その弾力と生臭さを記憶に刻み込むこととなった。


 どうやら、フロゲルはトードマン以外がリブスネイルを生で食べることが無いことを知っていながら、俺に無理矢理食わしたらしい。楽しんでいただけて何よりだ。


 俺はもう二度とリブスネイルを食うことは無いだろうがな……! 


 ……


「ところで、トードマンは湖の近くで暮らすそうですが……」


 食事も一頻り済んだところで、長老が話を切り出した。


(ああ、そのつもりや。最初は大変やろうけど、まあ何とかなるやろ)

「それではコボルトもトードマンの生活の手助けをしたいと思うのですが、マスター様は許可していただけますか?」

「俺は元々そのつもりだよ。アモルとグラティアの整備があるから人手はあまり出せないけど、物資の提供ならいくらでも出せる。長老達には技術面で支援してもらえるとありがたいな」

(十分やで! 人手はうちの若い衆でどうにでもなる。どうにもならんのは技術やったんや。コボルトさんらの技術があれば、トードマンの復興もそう遠くないやろな!)


 そう言えば……湖で暮らすつもりなら、やってもらいたいことがある。


「フロゲル、その代わりと言ってはなんだけど、湖の資源とか分けてもらえると助かる。トードマンに必要無い物で良いんだけど」

(資源か……よっしゃ、分かった! 湖の魔獣は仕留めたら届けたるわ!)

「魔獣じゃなくても良いんだぞ? 魚とかでも何でも……」

(ええんや、ええんや! みなまで言う必要無いわ! 湖にあるもん、片っ端から持ってきたる! ワシらに任せてくれ!)


 何か凄いやる気だな。

 まあ、湖の魔獣を『分解』すれば、DPもスキルもさらに充実しそうだ。期待させてもらおうかな。


 ……


 その後も宴は続いた。


 俺達のテーブルでは、今後の細部まで擦り合わせていたので宴というよりも会談となっていたのだが、和やかな雰囲気だったこともあって話し合いは終始スムーズなものだった。


 取りあえず決まったことと言えば、居住地の設定だ。

 コボルトは依然、三箇所に分かれて住み、トードマンは湖の近辺に集落を形成する予定だ。

 ちなみにダンジョンの入口は湖の南側、集落予定地から少し離れたところに繋げる。


 せっかくダンジョン区画を設けたんだし、ビークをいつまでも遊ばせとくわけにはいかない。

 トードマンの出入りを考えて、罠を設置するよりも眷属で魔獣を撃退することにした。

 まあ、罠を作動させるのは支援者(システム)なので、誤爆することは無いと思うけど念の為にだ。


 物資の運搬にはコウガとコノアを派遣する。とは言ってもコノアの『収納』があれば人手は少なくて済むのだ。一組だけの派遣で十分だろう。

 しかし、今回の件ではコウガが伝令役を兼任することになるので、担当者の責任は大きくなる。

 キバの推薦もあって、ここはルズに任せることにした。


 技術提供なんかも話は纏まりつつある。

 フロゲルが言っていた戦闘技術の指導については、ほぼ毎日、午前中に『格闘術』の稽古を付けてくれることになっている。

 湖との往復はダンジョン経由とコウガによる送り迎えがあるので、時間はさほど掛からない。

 フロゲルも二つ返事で返してくれた。


 その代わりに、トードマンには集団戦術を教えることになっている。

 これについてはマックスが指導する。

 なんでも、『統率』を持つトードマンがいないので、連携した戦闘が苦手なのだそうだ。これについてはコボルトに軍配が上がるらしく、フロゲルから頼まれることとなった。

 言葉はどうしよう……と思っていたら、ここでも支援者(システム)から妙案が授けられた。


〈ハンドシグナルおよび号笛を活用しましょう〉


 これにはフロゲルとマックスも、その手があったかと顔を見合わせていた。

 しかも、ダンジョン内では支援者(システム)が通訳もできるので、ハンドシグナルと号笛の説明も滞り無く行えるそうだ。


 支援者(システム)さん、ちょっと活躍しすぎじゃありませんか?


〈マスターの『思念波』があってこそです〉


 さいですか。フォローありがとう。


 俺も一度、強化された『思念波』で通訳をしてみようと試してみたら無理だった。

 トードマンはフロゲルと同じく関西弁のおかげで、同時通訳をする難易度が高過ぎるのだ。

 間に俺が介入することで時間のロスが大きく、意味も微妙に違ってしまう。

 とどのつまり、ごめんなさい無理でした。


 話を戻して……道具や服飾関係もコボルトから提供することとなっている。

 俺が『創造』した服はそのまま使ってもらうとして、防具なんかも用意することにした。

 トードマンの装備を用意して欲しいと、ベルさんに言ったら……。


「こいつは腕が鳴るね! コボルトの本気を見せてやるよ!」


 と、職人魂に火が点いてしまった。

 その迫力に、トードマン達も圧倒されていたほどだ。


 まあ、ベルさんに任せれば全く問題無い。

 試供品と言って用意してくれた鎧も、トードマンに好評だったしな。

 ボロを着込んでいたトードマンの戦士も、堅甲な革鎧に身を包み、鉄製の槍を携えて堂々とした立ち振る舞いだ。


 提供したのは装備だけじゃない。薬の類も大盤振る舞いだ。

 ポーションを始めとした回復役の他に、日常生活で使う常備薬も分けている。

 コボルトと同じ薬で効果があるのか疑問だったが、そんな心配は何処吹く風。トードマンも元を正せば人間だったのだ。薬の効果に変わりがないとのこと。


 いやあ、人体って不思議……で良いのか?


 ともかく、コボルトとトードマンの協力関係の構築は、思いの他、上手くいきそうだな。


 あとは、呪いについて何か手掛かりがあれば良いんだけどな。

 それについては『解析』の結果を待つしかないか。


 それまで、何をするべきか……。



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