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第74話 託された物


 一息ついたところで、俺は本来の目的を思い起こす。

 

 エレクトロードパイソンを仕留めたのは想定外だったけど、フロゲルが例の箱を回収するまでの時間稼ぎが当初の目的だったのだ。

 湖の安全は確保できたことだし、迎えにいかないと。


「マスター、まさか本当にお一人で彼奴目を……?」


 事態の収束を察したらしく、キバが俺の下へ駆け寄って来た。

 その表情は……あまり明るいものではないな。


「申し訳ありませぬ……此度も我は――」

「ストップだ。キバの言いたいことは分かってる。けどな、今回は仕方無い。むしろ、キバは良くやってくれた。だから、あんまりしょげるなよ……キバは分かってると思うけど、全部支援者(システム)がやってくれたんだ。俺なんか、何も出来なかったんだぞ?」

支援者(システム)が? やはり、あの声は支援者(システム)でしたか……」


 キバの気持ちはよく分かる。

 逃げるしかできなかった上に、戦闘になったら出ていけと言われたんだ。項垂れるのも無理はない。

 俺に至っては、ただ見るだけだった。

 自分の体を自分以上に上手く扱われるのは、正直ヘコむ。


「キバ、お互い頑張ろうな」

「御意……」


 今は反省よりも行動しよう。


 俺はキバの背に乗り、再び湖を目指す。

 ダンジョンの入口は作戦を開始した時の地点に繋げたので、湖からは遠くない。

 キバなら数分も掛からずに到着できるだろう。


 エレクトロードパイソンに警戒する必要も無くなった俺たちは、一直線に湖を目指す。

 湖を視界に捉えたところで、俺の頭の中に言葉が送られて来た。


(おい、お前ら! 何しとんのや!?)


 フロゲルが慌てた様子で問い掛けてきた。

 森の茂みに隠れながら、思念を送ってきているようだ。

 ちょうど進路上にいたので、キバに側まで寄ってもらった。


「フロゲル、目的の物はどうだった?」

(おう、ちゃんと回収したで。それよりも、あいつは?)

「仕留めた」

(は?)


 フロゲルが蛙らしい大きな口を開けて唖然とするのも頷ける。

 俺だって作戦開始の時は、あんな化物を倒せるなんて思ってなかった。

 しかし、事実なのだ。


 俺は事の経緯をフロゲルに説明した。

 始めこそ訝し気な様子だったが、すぐに肯定するように頷いてくれていた。


「信じてくれるのか?」

(そりゃあ、信じもするわ。無事にここまで戻ってきたんやしな。しかも、あの蛇の気配が全くせん。撒いただけやったら、お前らに緊張感が残っとるはずや)


 これも『万能感知』が成せる業なのか?


(どうやろな、年の功かもしれへんで?)


 うーん……まあ、良いか。

 それよりも、折角苦労して手に入れたお宝だ、

 その御尊顔を拝見させていただきましょうか!


 俺はフロゲルをせっつき、件の箱を見せてもらう。


 ……


 箱? いや確かに箱なんだろうけど、想像していたものとは大分違う。


 それは、金属質の光沢を持つ青い立方体。

 箱というよりも、キューブと言った方がしっくりくる。

 継ぎ目のようなものは見当たらず、金属で鋳造した物体にも見えるが、人の手で作られた物にしてはあまりにも形に均整が取れている。


 手に持たせてもらったが、金属にしては軽い上に触り心地も不思議と柔らかい。

 ゴム? ゼリー? こんな金属が存在するのか……?

 振ってみても中に何かが入っている様子は無く、これ自体が何かの塊のようだ。


「これって、何処に隠してたんだ?」

(湖の底や。五十年間変わらず同じ場所に沈んでたから、すぐに見つけられたわ)


 その割には、この物体に藻のようなものが付いていない。

 年月が経っているのだから、少しは腐食があってもおかしくなさそうなんだけど……。


(改めて見てみると、これって何なんやろな?)

「使い方とか聞いてないのか?」

(渡された時に言われたんやけど、これって『希望』らしいで? けど、使い方なんかは教わってないな。渡せとしか言われてへん)


 『希望』……? 大層な物みたいだけど、これを俺に渡してどうしろと?

 渡されただけで理解できたら苦労しないだろ。


 俺は手掛かりを求めて『鑑定』してみるが……。


不明:『鑑定』不可


 と出る始末だ。

 あとは『目利き』に頼ってみるか……。


 ……


 俺はフロゲルを連れ、ダンジョンの会議室に来ていた。

 そこには地底湖で別れた長老達の姿もある。

 ここでコテツに『目利き』をしてもらうのだ。


「駄目ニャ……何も分からないニャ……」


 コテツでも駄目か……。

 見せて五秒でギブアップされてしまった。

 完全にお手上げだ。


(どうすんねん? 思い切って壊してみるか?)

「いや、何も入ってなさそうだ。もしかしたら、これ自体に意味があるのかもな?」


 ん? これ自体に意味?

 ひょっとすると……。


〈マスターの試みは実践する価値があります〉


 でも、失敗したら終わりだ。

 フロゲル達が百八十年間守ってきたものが、失われるかもしれない。

 思い付きで試すのは危険過ぎる。


〈その時は『創造』してください〉


 あっ、そっか。なら大丈夫だ。


 支援者(システム)に丸め込まれ、あっさりと考えを覆す。我ながらチョロいな。

 確かに、『創造』できるなら心配いらない。

 今から情報を手にいれるのだから……!


(おおっ!? 何したんや!?)


 青いキューブが消えたことに慌て出すフロゲル、初めて見る奴は大体同じ反応だ。

 驚くフロゲルを尻目に、俺は『収納』した『希望』を『分解』すると……。


 ――!?


 俺の頭の中に、電撃のような鋭い衝撃が駆け抜ける!

 それと同時に視界が光に包まれた……。


 ……


 俺の視界には白い空間が広がっている。


 また、この感覚か……。

 魔窟の(コア)を破壊した時にも同じような状況になったな。


 体の感覚はあっても、体が存在していない世界。

 以前とは違うのは、頭の中に何かが次々と流れ込んできていることぐらいか?


 今の俺には、その何かを黙って受け入れることしかできることは無かった。 


 いや……他にもできることはあるな。


 俺は自分でも不思議なほどに落ち着いている。

 こんな奇妙な現象の中であっても、自分に起きている事象を客観的に見ることができそうだ。


 この何か……以前にも俺の中に入ってきたことがある気がする……。


〈マスターが既視感を感じているのは、(コア)と接続した時のことを思い出しているからでしょう〉

支援者(システム)? ……言われてみれば、確かに似ているかも)


 転生直後、支援者(システム)の指示に従って(コア)に触れた時の感覚……。

 あの時は、俺の中に大量の情報が流れてきたんだったな。


(じゃあ、これも――)

〈申し訳ありませんが、『解析』を遮断します〉

(えっ?)


 俺の言葉を支援者(システム)が遮った。

 その直後、俺の視界に色が戻りだす……。


 ……


「ん? 何、この状況……?」

(いやいや、「何?」ちゃうやろ! いきなり倒れるからビックリしたわ!)


 俺の顔をでかい蛙が覗き込んでいる。

 今の俺は……仰向けに寝かされているようだ。

 視界内には、長老やコテツも心配気に俺を見つめているのが見える。


 俺は体を起こして、長老に尋ねてみた。


「俺は倒れていたのか……。それってどのくらい?」

「マスター様が倒れられてから、幾許も時間は経っておりません。それこそ、数秒間といったところでしょうか……」


 長老の言葉にコテツが同意している。


 あれは夢……なわけないか。

 短時間とはいえ、はっきり記憶に残ってるしな。


 『希望』を『分解』した直後に起きたんだし、それが原因なのは間違いない。

 支援者(システム)が『解析』を中断すると言った後に意識が戻ったことから推測すると、『希望』を『解析』したことが直接の原因なのかもしれない。


 まあ、ここは詳しい奴に聞いた方が早いかな?


支援者(システム)、さっき起きたことを説明してくれ)



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