第7話 スキルと魔術
読んでくれる方が増えてきました。
中にはブックマークしてくれる方まで……。
感謝です!
〈魔術を使用する要件は、魔力を操作する技術、術式の構築、発動の鍵の三つです。スキル『土魔術』では、土属性に関する魔力を操作する技術を体得できます。しかし、術式および発動の鍵を体得していない現状では、魔術の発動は不可能です〉
(一言でお願いします!)
〈材料はあっても、工法、作成結果が不明の状態です〉
取りあえず、『土魔術』だけじゃ駄目ってことだな?
しかし、俺には支援者の話を聞いて、ピンときた。
さっきのアレ、使えるかな?
俺は壁にめり込んだままになっている石を『収納』した。
そして、そのまま『分解』『解析』してみると――
ストーンバレット:石の弾丸を放つ初級土魔術
(これって、発動の鍵じゃないの?)
〈肯定〉
ビンゴ! 発動の鍵は分かった。しかし、術式はどうにもならないか……。
〈『土魔術』を『創造』と接続することでストーンバレットが発動可能。接続しますか?〉
(おっ? マジか? やってくれ)
〈了解。『土魔術』と『創造』を接続。以降、イメージすることでストーンバレットが発動可能です〉
(よっしゃあ! 早速、試そう!)
俺は壁に向かって、ストーンバレットをイメージする。ちょうど、ソイルリザードがしたように口から発射するイメージだ。
(ストーンバレット!)
念じた瞬間、俺の口から勢い良く石の礫が飛び出す。
ガスッ!
高速で放たれた弾丸は壁にめり込んだ。
自分で放っておいて驚いた。飛び出した勢いに反して無反動なのである。
それに、威力もソイルリザードのそれよりも高いように見える。
弾丸は完全に埋まりそうなほどに、深く突き刺さっていた。
(うおおお! 出た! ストーンバレットが出た!)
来たぞ! 俺の時代が! これで俺も、まともに戦える!
訳の分からない生物が出てきても、バッチ来いだ!
フハハハ……!
「マスター、今のは何ですか? さっきの敵と同じ攻撃に見えますが……」
(ノア、やったぞ! 俺は魔術を手に入れた!)
「! おめでとうございます!」
「ザイマス!」
ノア達も驚いているな。俺もこんなに興奮したのは、いつ振りのことか。まあ、支援者の提案があってこそ、なんだけどな。
ともかく、魔術というぐらいだ。何らかの制限があるかもしれない。
どの程度の魔力が必要かも分かっていないのだ。
〈マスターは魔力の代わりにDPを消費し、魔術を発動させています〉
(DP? 減った感じはしなかったけど……。じゃあ、もう一回だ)
俺はもう一度、壁に向かってストーンバレットを放ってみた。
(……減ってるかどうか分からん)
〈『生成』や『創造』と比較して微少なために、認識できていないと推測されます〉
そうか。そりゃ、そうだ。
『創造』よりもやってることの規模が小さいし、DPの消費に関してはあまり気にしないでよさそうだ。
弾数の心配はいいとして、次は発射間隔だな。
(ストーンバレット!)
間隔を空けずに、もう一度――
(ストーンバレット!)
ん? 普通に出た。
……
俺はしばらく連発してみたが、問題なく発動する。
壁に石を打ち込み過ぎて、前衛アートみたいになってきた。
どうやら、発射間隔は俺の念じる速度次第らしい。
これって、すごくないか? 見た目は意味不明だけど。
止めどなく、口から石礫を吐き続ける柴犬、シュール過ぎる。
だけど、便利なのは間違いない。活用させてもらうとしよう。
ありがとう! ソイルリザード! 君のこと、忘れないよ!
……
……また来た。
ソイルリザードは住処でも探しているのか?
確かに、このダンジョンは洞窟っぽいけど、俺の許可なく立ち入ることは許さん!
食らえ! 先手必勝!
(ストーンバレット!)
ガスッ!
あっ! 外れた……。こっちを見てる。俺を警戒しだしたな。
しかし、運が悪かったな!
続けて発動! 落とし穴!
グシャ
こっちは成功! しかし、こいつら行動パターンが同じだな。入って来たら、一旦止まる。ちょうど、そこに落とし穴があるのに。
取りあえず『収納』しとこう。
「マスター! 今のは動きを止めるために、わざと外したんですね!」
いや、普通に外れただけなんだけど……。
(戦いの中でデータを集める。色々試さないとな!)
「はい!」
「ハイ!」
うん、こいつら俺を過大評価してるな。恥をかかないように練習しとこう。
さて、邪魔者も片付いたし、今日一日の整理でもしようかな。
今日一日で結構な『分解』と『解析』をしたからな。
俺は核の情報をリストにして確認していく。我ながら手慣れたものだ。
DPの増減については――
草、石、等々:672
魔含草:50×7
ホーンラビット:120
ソイルリザード:190×2
罠の作成等:−146
合計:1376
『創造』できるようになったものの中で目を引くのは――
夜光草、魔含草、ホーンラビット、ソイルリザード、だな。
といっても、DPの残りが2500を切っているし、眷属の『創造』は置いておく。
今、一番役に立っているのは夜光草だ。ダンジョンの明かりとして使っている。夜光草で照らされたダンジョンの内部は、どことなく幻想的だ。
魔含草は、これからに期待だな。何の薬になるか今は分からないが、用途が分かれば活用していきたい。
やっぱり期待してしまうのが、スキルだ。
昨日のグラススネークも含めると――
温度感知:視界内の温度変化を色覚情報で表現する。
危険察知:自身に危険が迫ると直感に作用する。
火事場:身体的、精神的窮地において、能力が上昇する。
土魔術:土魔術に関する魔力操作が可能となる。
土耐性:土属性に対する抵抗力が上昇する。
意思統一:同じスキルを持つ個体と、意思を一つにする。
うーん……知らない間に『意思統一』を獲得してる。多分、虫だろうな。
確か、蟻みたいな虫がいた。
気にしてなかったけど、確認しようか。
種族:虫・蜜蟻、シロップアント
スキル:意思統一
やっぱりか。っていうか、シロップアント?
名前からすると甘そうだな。明日、探してみよう。
それよりも、折角スキルが増えたんだし『付与』してみようかな。
まず、俺の化身には……。
『危険察知』『火事場』『物理耐性』『再生』を『付与』することにした。
『痛覚無効』は逆に怖い。ダメージがあるのに痛くない……って気付いたら死んでました、ってことになり兼ねない。
〈マスターの本体は核に存在するので、化身の死亡は影響ありません。損失として『化身』の再設定に、DPが使用されます〉
何てこと言いやがる!
俺の存在がプログラムみたいじゃねーか!
生物として痛覚は大事だ。危険信号なんだから。
一種の危険察知能力と思えば、必要性が感じられるだろう。
……とにかく、今『付与』するのは四つだ。
これ以上は同期率が不足しているらしい。
次は、ノアだ。
ノアには……。
『危険察知』『火事場』を『付与』した。
眷属に『付与』するとDPを使うから、あまり多くを『付与』できない。
取りあえずは、自衛手段を備えさせることにする。
コノアについては……。
「コノアには『意思統一』をお願いします!」
――という、ノアの要望に応えることにした。
まあ、コノアのことはノアの方がよく分かっているだろうし、これから数が増えていくなら『意思統一』は実用性が高いだろう。統率の執れた集団は凄まじい能力を発揮する。コノアにとって、最適なスキルかもしれない。
他にも『付与』したかったが、DPを1500も使ってしまった。
今日の稼ぎが消えたが、必要な先行投資として割り切ろう。
一日の締め括りのようにノアが『分裂』した。
気付かなかったが、確かにノアは一日で元のサイズに戻っていたのだ。
今回も『分裂』するために、プルプル震えだす。コノアも側で一緒に震えている。
プチュン
新しいコノアが生まれた。慣れたのか、昨日よりスムーズだったな。
能力も全く同じだ。
……ん? 同じ?
さっき、一体目のコノアに『付与』した『意思統一』も持って生まれてる。
何で?
〈マスターは先程、『コノア』という存在に『付与』を行いました。結果、全ての『コノア』に『付与』が為されています〉
なんと……。また、裏技みたいなことをしてしまった。
じゃあ、コノアを強くしたらいいんじゃないの?
〈マスターは既に『コノア』を個別に認識しているため、次回以降は個々に『付与』しなければなりません〉
一回だけの裏技か、『意思統一』で良かったな。
もしかして、ノアはこうなることが分かってたのか?
ノアに視線を向けると、ノアは『分裂』して疲れたのか、気の抜けたボールのようになってしまっている。
(……大丈夫か?)
「はい! 大丈夫です!」
いつもの元気なノアに戻ったが、敢えて聞くのも野暮だろう。
(お疲れさん、あんまり無理するなよ)
「はい! ありがとうございます!」
コノアはコノアで、新しい兄弟ができて嬉しそうだ。
「コノア! コノア!」
ピョンピョン跳び跳ねながら、お互いを呼び会っている。
微笑ましい光景だ。
その光景を横目に、俺は自分も含めた全員を鑑定する。
視点を切り換えることで可能となったのだ。
名称:なし、自称:マスター
種族:不定形、ダンジョン
核耐久力:10000 DP:826 同期率:10% 階層:1/1 部屋:2/2
スキル:生成、収納、分解、解析、鑑定、創造、付与、思念波、土魔術、危険察知、火事場、物理耐性、再生
ユニークスキル:同期、化身
加護:女神の加護
化身:獣・犬、柴犬
生命力:32 筋力:29 体力:29 魔力:不明 知性:78 敏捷:47 器用:45
名称:ノア(分裂後)
種族:不定形・粘性、スライム
称号:特殊個体、名付き、ダンジョンの眷属
生命力:47 筋力:46 体力:54 魔力:67 知性:107 敏捷:34 器用:56
スキル:収納、擬態、物理耐性、痛覚無効、再生、分裂、危険察知、火事場
名称:なし
種族:不定形・粘性、スライム
称号:ノア分裂体、ダンジョンの眷属
生命力:36 筋力:30 体力:33 魔力:30 知性:32 敏捷:27 器用:41
スキル:収納、擬態、物理耐性、痛覚無効、意志統一
俺の魔力が不明ってのはよく分からんが……DPがあるからか?
しかし、分裂後でもノアが一番強いか。しかも俺より知性が高いとは。
足を引っ張る上司には、なりたくないんだけどな……。