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第69話 『呪い』

 

(立ち話もなんやし、座って話そうや)


 フロゲルが指し示す方に目を向けると、石を荒く削ったような椅子が三脚、用意されていた。

 トードマンなりのおもてなしなのだろうか、椅子には毛皮が敷いてある。

 フロゲルがその椅子の一つに腰掛けたので、俺と長老もそれに倣い、椅子に腰を下ろした。


(まずは、改めて自己紹介させてもうで。ワシはフロゲル。トードマンの族長をしとるピッチピチの百九十歳や。よろしくな!)

「はあ!?」


 冗談はここまでって言ったくせに、いきなり面白くない冗談を言いやがる。

 長老がキャラに似合わず「はあ!?」って言ってしまったぞ。


(百九十歳っていうのはホンマや。ワシは『長命』っていうスキルを持ってるからな)

(嘘付け! さっき『鑑定』した時には、そんなスキル無かったぞ!)

(ああ、そうやな。ワシはじゃない。この指輪や)


 そう言って、フロゲルは右手を差し出した。

 フロゲルの人差し指には、銀色に光る指輪が嵌められている。


魔法銀(ミスリル)製の指輪:魔法銀(ミスリル)でできた指輪、強力なスキルを付加できる。


 魔法銀(ミスリル)!? あのファンタジー定番の金属か!

 ご丁寧に強力なスキルが付加できるという『鑑定』結果も出た。

 相当貴重な代物に違いない。


(何や、やらんで。これはワシがもらった大事な指輪なんや。絶対やらん!)


 見せびらかしたと思ったら、今度は勿体ぶって隠しやがった。

 でも、魔法銀(ミスリル)の指輪に強力なスキルが付いているならば、『長命』というのも本当のことかもしれない。

 そう言えば、『思念波』のようなスキルもフロゲルは持っていなかった。

 フロゲルの言う『長命』、そして『思念波』に相当するスキルは、さっきの指輪によるものなのかもしれないな。


(で、そっちの自己紹介もしてもらってええか?)

(ああ、そうだな。俺はマスター、今はコボルトと一緒に暮らしてる)

(そんだけじゃないやろ? ……まあ、ええわ。言いにくいこともあるやろうし、今はそれで納得しといたるわ)


 俺だって、どう自己紹介して良いのか分からん。

 ダンジョンって言ったら、ややこしくなるし。今はクーシーの姿をしているが、コボルトとあんまり変わらん。

 化身(アバター)を変えることもあるから、自分は〇〇だ……と言えんのだ。

 フロゲルは『万能感知』でそれを察してくれたのかもしれないが、今後のことを考えると、自己紹介の内容ぐらい考えておかないといけないな。


(じゃあ、ホンマに本題に行くで? 単刀直入に言うと……ワシはあんたを待っとった。伝えることがあるんや)

(伝えること? 俺に?)

(そうや。別にあんたを名指ししてるわけでもないけど、言い付けどおり思念を送れる者を待っとったら……百八十年経って、初めて現れたのがあんたってことや。ワシは百八十年前に、この指輪と一緒に使命を与えられた。その使命があんたへの伝言。『呪いを解け』ってな。分かったか?)


 何? 『呪い』?


(まあ、意味は分からんやろな。多分、意味分かるの、ワシだけやろし。そこのコボルトさんも知らんかったやろ? 『呪い』のこと)

「……私には、ソフィという名前があります」


 そうだったのか……知らなかった。いや、長老の名前のことだよ?

 今まで俺は長老に『鑑定』を使ってなかったのだ。

 ドタバタしてたし、俺にとって長老は長老だったからな。

 ちょっと……いや、かなり不機嫌な様子の長老を見る限り、そのことを白状するのは止めておこう。


(おお、それは悪かったな。ソフィさんも知らんかったやろ?)

「確かに……『呪い』など聞いたことがありません」

(まあ、ワシもこの伝言預かった時は、全然、意味分からんかったしな。なんせ、その『呪い』がはっきりしたのは前回の魔の攻勢の後やから! それまで、『呪い』のことなんて忘れとったぐらいや!)


 フロゲルは自分の膝を叩きながら、ゲコゲコ言っている。……笑ってるんだよな?


(でな、ワシが分かる範囲の『呪い』を教えとくわ。まず、トードマンには言語を認識できない『呪い』が掛かってるみたいや)

(言語を認識できない『呪い』? 何で、それが分かったんだ?)

(そりゃあ、ワシは百九十年生きてるんやで? 魔の攻勢を跨いで生きとる。それまで喋れてたのに、ある日いきなり喋れんようになった。文字も読めん。あの時はホンマに焦ったわ……。まあ、同族同士は鳴き声でも何となく意思疎通できるのは救いやったけどな)


 こいつのキャラの勢いでスルーしてたけど、魔の攻勢と呼ばれる戦いを経験してるんだよな。

 確か前回は百七十年前、こいつは当時二十歳ってところか。


(その時に思い出したんや、『呪い』のことをな。そこで、ワシは急いで森に住む獣人に伝えようと走り回った。けど、遅かったみたいでな……。どの獣人も、それまでとは別人のようになってしまってたんや……)

(経験者は語るってことか。具体的にどう変わったんだ?)

(『呪い』のせいと思うけど全く話が通じん。ラビットマンは多分『恐怖』、オークは『飢餓』かな……パーンはよく分からんな。酔っ払ってるみたいな感じになっとった。とにかく、そんな状態の奴らはワシの話を聞いてくれへんかったんや。唯一、意思の疎通が取れたのがコボルトぐらいやったな)

(じゃあ、コボルトの『呪い』って何だったんだ?)

(コボルトに掛かった『呪い』は多分、弱体化する『呪い』ちゃうかな? 当事者じゃないから本当のこと分からんけど、当時のコボルトは自分達が弱くなったことに大分焦ってたみたいやからな)

「弱体化……?」

(ソフィさんは詳しく知っとった方が良いな。前の魔の攻勢の時のコボルトはヤバいぐらい強かったんやで? 統制は執れとるは、個人個人が努力家で真面目やし、中には進化してるコボルトもいたぐらいや)


 フロゲルの言葉に、長老は言葉を失っている。

 長老の知るコボルトとフロゲルの言うコボルトとのギャップに、理解が追い付いていないみたいだ。

 しかし、俺はフロゲルの言葉に信憑性が増す単語に意識が向いた。


 進化してるコボルト……。


(進化してるコボルトってクーシーのことなのか?)

(よう知っとるな! もしかして伝わってたんかな? 数はホンマに少なくて、ワシが知ってるのも一人しかおらんかったけどな)

(そうなのか? 俺も今はクーシーなんだけどな)


 フロゲルはゲコッっと一鳴きして、俺の顔を見つめている。

 その表情は分かりにくいが、今までの飄々としたものではなく、真剣そのものだ。


(ワシは『鑑定』できんから、何とも言えんけど……あんたはクーシーにしては弱過ぎるんちゃうか?)


 うぐっ……俺だって、自分が弱いことぐらい分かってるよ。


(ワシの知るクーシーはバカでかい剣をぶん回して、襲い来る魔獣をバッタバッタぶちのめしてたんや。正直、ワシは痺れたわ……。でも、『呪い』のせいか、コボルトに戻ったらしいんや。あの時はワシもショックやったなぁ……)


 オーバーな身振り手振りを交えて話しているが、フロゲルは本当にそのクーシーに憧れていたんだろう。

 当時を振り返り一喜一憂する様から、そのことが伝わってくる。


(そんで、その人はコボルトを引き連れて呪いを解く旅に出てしまった。けど、『呪い』は解けんかったみたいやな……。いまだにコボルトの『呪い』は残っとるみたいやし……)

(じゃあ、何で『呪い』のことはコボルトに伝わってなかったんだ?)

(それな、当時のコボルトの長老と相談したんや。『呪い』のことを伝えたら、あの人みたいに『呪い』を解く旅に出るコボルトが出てくるかもしれん。だからワシに託された伝言を信じて、その時が来るまで黙っとこうってな)

「なるほど……それが、代々伝わるトードマンとの約束の起こりというわけですね」

(そう……万が一、絶滅したりしたら洒落にならん。共倒れもあかん。だから、不用意な接触は避けて、相互不干渉の姿勢でいこうってことになったんや)

(でも、言葉を伝えるだけなら、コボルトや他の種族でも良かったんじゃないのか? わざわざフロゲルに会いに来る必要なんて――)

(ちゃうで! 言葉だけちゃうんや! 渡す物もあった……んやけどな?)


 フロゲルは、ばつが悪そうに頭を掻いている。


(置いてきてしまったんや……)

(置いてきた? 何処に?)

(……湖)


 湖に置いてきた? なら取りに行けば……って、あれ?


(そうや。今、あそこには悪魔がおる。悪魔って言っても、蛇なんやけどな)

(じゃあ、そいつを倒せば良いんだな?)

(アホか! ただの蛇ちゃうで! あいつはヤバい。とにかくでかいし、何と言うか……近付けんのや!)


 まあ、蛙の天敵なんだし、近付けないのは無理もない。


(そうちゃうって! ワシかて、どうにかせなあかんと思って、戦士と一緒に戦ってみた。けど、まるで歯がたたん。近付いた戦士が一瞬で黒焦げになるんやで!? それ見た瞬間、「これはあかん! ワシの手には負えん」って確信したわ……!)


 フロゲルは興奮した様子で続けている。

 その勢いは留まるところを知らない。


(そもそも、あいつが現れたのは五十年ぐらい前、いきなりのことやった。ワシらは湖でのんびり生活しとったら、そいつが湖の中から出てきたんや。そんで、次々と仲間が喰われてしまった……。あの光景は地獄そのものや。からくも逃げ延びたワシは、一族のもんを引き連れて森の洞窟に隠れ住むことになったわけやな)

(わ、分かった! ちょっと、落ち着いてくれ!)

(ん? ……おお、すまん。興奮すると話が長なるのはワシの悪い癖やな。で、何処まで話したっけ?)

(取りあえず、湖に置いてきた物を取りに行けば良いんだろ?)

(まあ……そうなるわな。でも、あいつをどうにかせんと難しいと思うで。一応、この五十年間見張り続けてるけど、一向に動く気配が無いし……困ったなぁ)


 長老とフロゲルの言う湖の悪魔……どうにかしないといけないなら、やるしかないだろ。


(取りあえず、見てみないことには話にならん。湖まで案内してくれよ)



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