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第68話 長老の頼み

 

 アモル――大集落だった土地は、作業をするコボルト達でごった返している。

 昨日の会議で決めたとおり、土地の整備を急ピッチで実施しているのだ。

 そんな中、俺は長老の屋敷の前に立っていた。


「お待ちしておりました。マスター様」


 出迎えてくれたのは長老だ。側近であるゾーイとアビィもいる。

 昨日の会議の後、長老から屋敷を訪ねるように頼まれていたのだ。


「それでは早速ですが、案内させていただきます」


 そう言うと、長老は身を翻し、歩みを進めた。

 長老が案内してくれる場所……それは緊急事態に備えられた抜け道だ。

 以前、抜け道の存在を聞いた時、案内してくれる約束はしていたが……。


「別に急いでなかったんだぞ? 復興した後でも構わなかったし」

「そうですね……それについては、道すがらお話させていただきます」


 俺は長老の後に付いて屋敷の中に入る。どうやら、抜け道は長老の部屋から行けるようだ。

 部屋に入ると、ゾーイが部屋の隅に置かれた木彫りの像に手を掛けた。


「少々お待ちください。すぐに道を開きますので……!」


 ズ……ズズ……。


 等身大のコボルト像が置いてあった場所には、小さな扉が存在した。

 扉の大きさは人一人が潜れる程度の大きさで、緊急時の脱出経路だと見て分かる。


 彫像を動かしたゾーイが、続いて扉を開く。


 地下へと続く道が露わとなり、湿った空気が流れてきた。

 ここから見る限りでは、地面を掘っただけの通路に見える。


 何と言うか……俺のダンジョンよりもダンジョンっぽい。


「参りましょう」

「お、おお……」


 長老に促されて、俺は地下への道に足を踏み入れた。


 入ってみると、扉こそ小さいものの、通路は思ったより広い。人が二人並んで歩くことはできそうだ。

 奥を見てみると、淡い光が点在している。

 夜光草の光にも似ているが、そうではないようだ。

 これは恐らく苔だろう。光る苔が天井や壁に生えているのだ。


 夜光草よりも弱い光だが、全周に渡って分布しているので、足下を確認する分にはこれで十分だろう。

 俺達は淡い光が照らす道を奥へと進んだ。


「先程のことですが――」


 俺と並んで歩く長老が、静かに口を開いた。


「実は、会っていただきたい人物がいるのです」

「人物?」

「ええ、蝦蟇人(トードマン)です」


 蝦蟇人(トードマン)? 名前からすると蛙なんだろうけど、そんな種族もいるんだな。


「トードマンは蛙の獣人であり、その姿は魔獣に近いのです」

「何で俺がそのトードマンっていう獣人に会う必要があるんだ?」

「それがトードマンの族長……フロゲルとの約束ですから」


 一呼吸置いた後、長老は続けた。


「『思念で言葉を伝えることができる者が来たならば、トードマンに会わせて欲しい』……それがフロゲルとの約束。これは私だけでなく、歴代の長老が脈々と受け継がれた約束なのです」

「思念……」


 どう考えても、俺のことだろう。

 別に『思念波』が使えるなら誰でも良いかもしれないが、このスキルを持つ者は限られるようだ。

 俺も自分以外に会ったことないし、マックスもそんなことを言っていた。

 しかし……。


「それなら、何でもっと早く言ってくれなかったんだ? 大事な約束なら、俺はいつでも会いに行くぞ?」

「いえ、その前に私がトードマンを見極める必要がありました。約束こそしているものの、その真意は不明でしたから」

「うーん……俺が行って済むなら俺が行くから、長老はあんまり無茶しないでくれよ」

「まあ! 私を年寄り扱いするというのですね?」

「えっ? いや、そうじゃなくて……」


 長老は悪戯っぽく笑っている。

 この人、よく考えたら今幾つなんだ? コボルトは寿命が短いのに、年寄りに見えないんだよな。

 多分年自体は下なんだろうけど、年下とも思えない。達観しているし、精神年齢も高く見える。

 コボルト感覚で見ても年齢不詳だ。全くもって謎な人なのだ。


「でも、長老が案内してくれるってことは、会って大丈夫なんだな?」

「ええ、問題ありません。フロゲルも是非とも会いたいと申しておりました」


 コボルトに続いてトードマンか。

 しかし、トードマンと交流があるなら、何故、今までそんな素振りは見せなかったんだろうか?


 俺は、ふと湧いて出た疑問を投げ掛けてみた。


「そうですね。理由は幾つかありますが、その一つとして彼らは言葉が通じないことが大きいでしょう。文字であっても認識できないそうです」

「ん? それなら、長老はどうやってトードマンを見極めたんだ?」

「私も会ってみるまで知りませんでしたが、彼らの族長フロゲルにも思念で言葉を送る能力があるようです。困難ではありましたが、彼と意思の疎通を図ることができました」


 長老はふう、と一つ嘆息を漏らした。その様子では、相当苦労したのだろう。

 そのフロゲルというトードマンは相手に思念を送るだけで、受信はできないのかもしれない。

 俺も前まではそうだった。最近になって送受信……つまり、思念での会話ができるようになったのだ。と言っても、まだ試したことは無いけどな。


「もう一つは、彼らの住む場所が湖の近くに限られているからです」

「湖? 悪魔がいるんじゃなかったっけ?」

「ええ、彼らはその悪魔のせいで湖で生活できないようですが、離れるわけにもいかないみたいなのです。詳しいことは私にも分かりませんが、彼らの使命と言っておりました」


 使命か……。使命のせいで住む場所が限定されるのも気の毒な話だな。


「ところで、この抜け道を通るってことは、この先にトードマンがいるのか?」

「落ち合う時間も場所もフロゲルの指定したのです。トードマンもこの抜け道のことを知っているのは意外でしたが、フロゲル自身から聞けたということは、この道を作る時にトードマンの協力があったのかもしれませんね」


 なるほど、そういうことか。

 どれぐらいかは分からないが、昔の(おさ)同士で取り交わした約束なのかもしれない。

 その約束が、俺の出現によって果たされる……何とも感慨深いな。


 ……


 俺と長老の話に区切りが付く頃には、抜け道に入ってから一時間ほどが経過していた。

 思ったより長い……と思い始めたところで、先導していたゾーイが足を止めた。


 袋小路? いや、壁に取っ手のようなものが見える。


「マスター様、間もなく出口です」


 そう言うと、ゾーイは奥の壁にある取っ手を握りしめた。

 一見すると壁に見えるが、どうやら扉のようだ。

 かなりの重量らしく、ゾーイはかなりの力を込めて押し開こうとしている。


「ぬくく……!」


 ――ズズズ……。


 ゾーイの渾身の力で扉は動き出す。

 地面を削る音とともに、扉の先の景色が現れる。


 そこには、地底湖を有する洞窟が広がっていた。

 天井の所々に穴が開いているのだろうか、そこから太陽の光が差し込み、地底湖を照らしている。

 光の筋によって青く輝く地底湖は、目を奪われるほどに幻想的だった。


 そんな光景の中、地底湖の縁に異彩を放つ影が存在している。

 話に聞いていたとおり、見た目が蛙そっくりのトードマン達が俺達の到着を待っていた。


 体躯は人間……成人男性と同じぐらいだろうか。

 ぼろぼろのローブのような布きれで身を包み、トードマンの多くが石の槍を携えている。

 顔が蛙そっくりなので表情こそ分からないが、敵意のようなものは感じない。

 

 俺達とトードマン、見つめ合う形で立ち尽くしていると、先頭に立つトードマンが一歩前に出た。


(待ってたで、コボルトさん。どの人が思念で話せるんや? ちょっと話し掛けてくれへんか?)


 関西弁!? こいつら、何で関西弁なんだ!?

 いやいや、そんなことよりも、俺の方からも思念で答えてやらないと。


(俺だ。俺が『思念波』を使える)

(うおお……!! ほんまや! ほんまに思念で話し掛けられたで!)


 俺に関西弁をぶつけてきたと思われるトードマンは、目に見えて興奮している。

 両手足をばたつかせ、小踊りしているのだ。

 確か、思念で話をできるのは族長と言っていたけど……マジか?



名称:フロゲル

種族:蝦蟇人(トードマン)

称号:蝦蟇人の長、伝承者

生命力:125 筋力:109 体力:142 魔力:177 知性:221 敏捷:113 器用:183

スキル:水魔術、水耐性、毒液、麻痺液、状態異常耐性、精神耐性、格闘術、槍術

ユニークスキル:万能感知



 え? 何、こいつ? ……突っ込みどころが多すぎるぞ!

 見た目はふざけてるけど、めちゃくちゃ強い!

 コボルトとは比較にならない程の能力値だ。


 称号は伝承者。こんな小踊りしている蛙に、何が伝承できるというのだろうか……。


(おっ! あんた、今何か失礼なこと考えてたやろ?)


 ギクッ!


(ええなぁ、分かりやすいリアクション! ワシは好きやで!)


 もしかして、『万能感知』の効果なのか?

 見た目に反して、侮れない奴かもしれない。


(で、あんた、さっき『鑑定』してきたやろ? それでも、自己紹介いるか?)


 『鑑定』までバレるのか……?


(それだけちゃうで! ワシには考えてることも分かるんや!)


 ……マジで?


(マジや!)

「……それなら何故、先日私が訪れた時は分からないような素振りをしていたのですか?」


 フロゲルの言葉に長老が反応した。


(ああ、あれな。いやー……あんたがあんまり必死にジェスチャーするから、空気読まなって思ってな。ワシも心苦しいけど、感知せんようにしてたんや)

「なっ……!」


 うげげ……! 長老の顔が見たこと無い表情になってる……。

 これは完全に怒ってるぞ。まさに鬼……いや、犬だからケルベロスか? ともかく、鬼気迫る表情だ。


(まあ、冗談はここまでにして、本題に入ろうや)


 こいつ……長老とは違う意味で、読めない人物なのかもしれない。



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