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第66話 会議 開発計画

 

 地図に続いて、シンボルである旗も決まった。

 会議はまだまだ、これからだ。


「ここからが会議の本番だ。長老から聞いたとおり、コボルトが続々と集まっている。このままだと住居が足りなくなるな」


 現状では、今の人口でギリギリ収容できてるぐらいなものだ。

 そこに千人となると、明らかにキャパをオーバーするだろう。

 さて、どうしたものか……。


「家を建てていく以外に方法があるのでしょうか?」

「家が無くとも、安全であれば外でも良いのでは……」


 最悪の場合は、落ち着くまで野宿してもらうことになるだろう。

 しかし、わざわざ集まってもらっておいて、家がありませんでは申し訳無い。

 ここでも頼りになるのは支援者(システム)だ。


(先生、お願いします!

〈それでは、テントを用意します〉

(テント?)


 俺の疑問に答えるより早く、支援者(システム)は机の上にミニチュアのテントを『創造』した。


 このテントは、所謂『ティピー』……インディアンテントとも呼ばれる形のテントだ。

 構造は至ってシンプル。複数の木の棒を円錐形になるように地面に刺し、天井になる部分で纏める。それを布で包むだけの簡易なテントだ。

 目の前にあるミニチュアも、小枝と布切れでそれを再現している。


 知ってはいたけど、俺も初めて見た。

 コボルトも初めて見る物体に興味津々のようだ。

 身を乗り出して、机の上のミニチュアを眺めている。

 実際に目の前にあるおかげで、俺にもイメージできそうだ。

 早速、『創造』してみよう。


「そんなに慌てるなよ、他にも用意するから」


 そう言って、俺は各机にテントのミニチュアを『創造』する。

 支援者(システム)より少し精度が落ちるが、上手くできたと思う。

 テントの構造を知るなら、これで十分だろう。


「触って良いぞ。壊してくれても構わん。自分達で組み立ててもらうんだからな、気の済むまで弄り倒してくれ」


 このテントであれば、土地と材料さえあれば組み立てる。

 家と呼ぶには心許ないが、仮住まいとして採用することにしよう。


 コボルト達は器用なだけあって、分解と組み立てを繰り返している。

 いとも簡単に理解しているようだし、大丈夫そうだな。


「それじゃあ、このテントを組み立てるために、土地の開拓を優先することにしよう。塀を建てた後にテントを組んでいく。落ち着いたら順次、家の建築に移ろうか」


 反対は……いないみたいだな。

 大半のコボルトが夢中になってミニチュアを触っている。

 コボルトにプラモデルを渡したら、ブレイクするんじゃないか?


 それはさて置き、次の議題。


「住居を優先するのは当然として、さらに大きな目標を設定するぞ」


 って言ってるのに、こいつらいつまでテントを弄ってるんだ。

 ココが特に夢中になってる。いい加減、止めんか!


「あっ……」


 集中を乱す元凶を『収納』してやった。

 会議が終わったら、さっきのミニチュアあげるから、今は俺の話を聞いてくれ。


「……で、大きい目標なんだけど、道を作ろうと思う」

「道……と言うと、何処に向かう道ですかな?」


 テントに夢中にならなかった少数派のマックスは、道のことに興味があるようで良かった。


「地図を見てもらうと黄色い点、俺達の町? 村? ……便宜上、村にする。で、村を結ぶ道があったら、誰でも歩いて行けるわけだ」

「なるほど……マスター様は万が一の時のことを考えておられるわけですか」

「ああ、そうだ。いざと言う時のために備えないとな」


 マックス以外はピンときてないみたいだな。


「俺が死んだ場合、ダンジョンは消える可能性が高い。いつまでもダンジョンを通って移動できる保証は無いってことだ」


 会議室が一気に静まり返った。

 テントで遊んでいた直後のシリアスな話で、余計に緊張感が高まったようだ。

 あくまでも、俺が死んだらの話だ。

 無論、死ぬつもりなんて全く無い。


「その時になって考える、じゃあ駄目なんだ。だから今、俺は目標として掲げた。道だけじゃない、他にも案はある」


 この際だ。今の真剣な雰囲気のうちに、考えてることを挙げていこう。


「食料についても、今のままじゃ安定してるとは言えない。人口が増えたら、なおさらだ。川の下流に湖があるんだろ? そこで食料を確保する目処が立つかもしれないし、そこの調査もしないとな」

「マスター様、お言葉ですが湖は賛成しかねます」


 長老が今までに無く、強い口調で反論した。


「湖には決して近付いてはならない。湖には悪魔が住んでいる、と言われております。いくらマスター様でも、不用意に近付くのは危険過ぎます」


 湖に悪魔? ……信じ難いけど、長老の目は反論を許してくれそうもない。

 仕方無いか、湖は保留だ。けど、諦めた訳じゃないからな。


「それじゃあ、やっぱり農業しないと駄目か」


 しかし、農業についてのノウハウが無い。

 菜園程度の畑は大集落でも見かけたけど、必要なのは大規模な農業。

 それこそ、森の恵みに頼らなくて良いぐらいの規模が欲しい。

 闇雲に畑を作っても、上手くいくとは思えない。


兎耳人(ラビットマン)に協力してもらえればニャ……」

兎耳人(ラビットマン)? コテツは打開策があるのか?」


 コテツは「しまった」と言った表情で口を押さえているが、もう遅い。

 俺は確かに今の呟きを聞いたぞ。


「コテツ君? 詳しい話を聞かせてもらえるかな?」

「はあ……やってしまったニャ」


 観念した様子で、コテツは渋々ながらもラビットマンについて話し始めた。


「オイラ、大集落に来る前に、必ずラビットマンの村に立ち寄るんだニャ。その時に、ラビットマンから野菜の種や幾らかの苗を分けてもらってるんだニャ」

「ラビットマンは農業しているのか?」

「そうニャ。ラビットマンは『農業』のスキルを持ってるから、大抵の作物は上手く育てることができるみたいだニャ」

「じゃあ、ここにラビットマンを呼んで指導してもらうのはどうだ? コテツから頼んでもらえれば助かるけど」


 コテツは、より一層渋い顔をしている。

 その様子から、何か問題があるのは明らかだ。


「あいつら、とんでもなく臆病なんだニャ。オイラが商売できるようになったのも、八年ぐらい前からなんだニャ。見知らぬ土地に来いって言っても、来るとは思えないニャ」

「臆病……? 俺達は危害を加える気が無くてもか?」

「常に怯えてるぐらいニャ。信用してもらえるようになるまで、どのぐらいの時間が掛かるか分からないニャ」


 思い出してみると、マックス達も最初は俺のことを疑っていたな。

 こんな魔獣の闊歩する森に住んでるんだ。警戒されるのも当然だ。

 それもコテツが臆病と言うくらいなんだ。ちょっとやそっとのことでは打ち解けてもらうのは難しいか。

 簡単に交流が持てるなら、とうの昔にしてるだろうしな。


 『我々は同じ獣人からも、手を差し伸べられることもないというのに……』


 マックスの言葉が脳裏に過る。

 あの言葉は迫害や差別によるものじゃないんだな。

 お互いに信用できない状況が、そうさせているのかもしれない。

 しかし、マックスはラビットマンやパーンなら交渉が可能とも言っていた。


「マックス、交渉できるラビットマンに心当たりがあるんじゃないのか?」

「……交渉は可能でしょうが、お勧めはできません」


 ラビットマンとの交渉をお勧めしない? 

 俺の疑問に対し、コテツがマックスの答えを補足した。


「マックスが言ってるのは、パーンを経由した取引のことなのかニャ?」

「パーンを経由? ラビットマンと交渉するのに、何でパーンが出てくるんだ?」

「パーンとラビットマンには、オイラも知らない繋がりがあるんだニャ」

「コテツ殿の言うとおり、私が交渉可能と判断するのパーンとの経由を経てのことです。しかし、彼らが一筋縄ではいきません……」

「まあ、そうだろうニャ……」


 マックスとコテツは通じ合ってるように、お互いの顔を見合わせている。

 ほとんどのコボルトは首を傾げているが、中にはマックス達のように苦笑している者もいる。

 俺も勿論、首を傾げている訳だが……。


「事情を知らない者も多いんだ。説明してくれ」

「ならば私が説明しましょう。パーンは陽気な性格の反面、支離滅裂な言動もあり、交渉の際に何を求められるかは、その時にならないと分からないのです」


 どういうこと?

 陽気で支離滅裂? 違う意味で危ない奴らなのか?


「恐らく、マスター様が想像しているよりも酷いと思われます」

「でも、交渉できるんだろ?」

「ええ、まあ……私の記憶では、ハウザーさんが交渉に成功したことがあるそうです。それ以外にも、極稀に交渉できた話は聞きます」

「その時は何を要求されたんだ?」」

「ハウザーさんは魔獣との戦いです。勝ったなら交渉してやるとの約束だったそうで」

「それならオイラも知ってるニャ。何て言っても、オイラとラビットマンの渡りを付けてくれた時の話だからニャ。ハウザーは笑って魔獣との戦いを承諾したけど、オイラは肝を冷やしたもんだニャ」

「そうでしたか。しかし、それ以外の交渉の際は所持している食料であったり、尻尾を触らせろだのと一貫性がまるでないようです」


 魔獣との戦いか……。

 もしかして、娯楽に餓えてるとか?


「どちらにせよ、ここに来てもらうというのは難しいでしょう。ラビットマンが首を縦に振るとは思えません」

「まあ、交渉はともかく、顔つなぎぐらいならオイラもできるし、機会があったらオイラと一緒にラビットマンの村に行ってみるかニャ?」

「そうだな。少しでも良いから話を前進させたいところだし、コテツに頼もうか」

「任せろニャ。ヤパンに戻る時には立ち寄ることになるんだし、その時に紹介してやるニャ」


 時間が掛かるとしても、農業を本格的に進められるなら是非とも交渉したい。

 そのためにも、信用してもらうところから始めないといけないか。 

 先は長いかもしれないけど、焦っても仕方無い。 


 結局、今日の会議で決まった開発計画といえば、居住地の設定と道の整備についてぐらいなものだ。

 開拓から始めるとなると、かなりの時間が掛かりそうだけど、コボルトは勤勉だし俺の眷属もいるんだ。何とかなるだろ。


「それじゃあ、以上で開発計画については終わりにする」



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