表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/238

第64話 慰霊祭から三日後

 

 ガキッ!

 ビシッ!


 木剣がぶつかる音が辺りに響く。


 俺は『剣術』の鍛練のために、木剣を振るっていた。

 相手はアビィ。長老の側近の一人だ。


「ハァ……ハァ……」


 流石に長老の警護をするだけあって、アビィの『剣術』の腕前は見事なものだ。

 まともなダメージを一度も与えられていない。

 アビィもスキルに『剣術』を持っているが、個人差は日々の鍛練に依るところが大きいようだ。


「これぐらいにしとこうか」

「ハァ……ハァ……マスター様は、疲れないのですか……?」


 息を切らしているのはアビィ。

 俺の攻撃は通らなくても、長時間俺の鍛練に付き合ってくれているので、スタミナが切れているようだ。

 俺はと言うと、けろっとしたものだ。体力面では疲れないからな。


「それに……大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫」


 何が大丈夫かと言うと、俺は所謂、ボッコボコなのだ。

『剣術』の腕前の差があり過ぎて、ほとんど一方的に攻撃を受けている。

 アビィも最初は手加減してくれていたのだが、ゾンビのように向かってくる俺に対して、段々と容赦が無くなってきた。

 最後の方は、顔が引き攣っているようにも見えた。

 コボルト感覚では、クールな清楚系のアビィが段々と焦った顔になっていく……。

 俺の新たな扉が開かれてしまいそうだ。


 まあ、こんな無茶できるのも『再生』、『物理耐性』、それに『痛覚無効』があってできる芸当だろう。

 普通なら激痛でのたうち回っているな。


 しかし、アビィだから、まだこんなもので済んでいるのだ。

 これがマックスだと洒落にならない。


 アビィは王道の『剣術』らしく剣のみの攻撃に徹するのに対し、マックスは全身で攻撃してくる。

 蹴りや拳、体当たりなど、実戦向きの『剣術』のようだ。

『剣術』初心者の俺には、マックスの相手は無謀過ぎる。

 能力値で勝っていても、全く勝てる気がしない。

「ふんげ!」とか「うぼあ!」とか雑魚敵みたいな悲鳴を上げる羽目になっていた。


 そんな中、俺の鍛練にちょうど良い相手を探していたら、アビィが立候補してくれた。

 当初は女性相手に攻撃が当たったらどうしようと思っていたが、いざ始めてみると、この様だ。俺の心配なんて全くの杞憂だったらしい。


「マスター様、何故、鍛練を?」

「うーん……俺が弱いから?」


 魔窟のクーシーと対峙して改めて分かったことだが、戦闘においてステータスは絶対ではない。

 どちらかと言えば、スキルの有無の方が重要かもしれない。

 クーシーは『見切り』一つで、三対一をやってのけた。

 それを打破したのも、俺の『創造』だ。

 俺が柴犬の状態でオウルベアを倒せたのも、(ひとえ)に『創造』のおかげだったしな。


 じゃあ、何故鍛練か? と言うと、それもスキルのためだ。

 体で『剣術』を感じて確信したが、やはり努力あって発揮できるスキルもあるようなのだ。

 そもそも魔術系のスキルも、術式やら何やら習得する必要があるみたいだしな。

 そういった訳で、俺は『剣術』の鍛練を日課に取り入れることにした。

 日中は不定期、夜は自主練、相手は手の空いてる者、そんな条件で。


 そして、慰霊祭の翌日から始めて既に三日が経っている。

 効果のほどは……分からん。


 まあ、鍛錬の成果なんてすぐに出るものじゃないだろうし、継続していけばいつか実感できる時が来るかもしれないな。


 と、俺が今までの鍛錬を振り返っていると、後片付けをしながらアビィが声を掛けてきた。


「この後、会議を行なう予定でしたね」


 そう。鍛錬の後、夕食までの時間で会議をする予定があった。

 いい加減、今後のことを真剣に検討しなければならない。

 今日の会議では、じっくり腰を据えて話をするつもりだ。


「アビィも来るんだろ?」

「いえ、私のような者が参加するなど、烏滸がましいことです」

「何言ってんだ。時間があるなら参加しろよ。できるだけ、多くの人に参加してもらいたいんだから」

「わ、分かりました……そのように仰るならば、是非に参加させていただきます」


 何を遠慮する必要があるんだろうか。自分達の未来を決める会議でもあるのに……。

 参加者も特に制限するつもりは無い。自由参加なのだ。

 まあ、長老とマックス、あとコテツには参加するように頼んではいるが。


「あ、そうそう。アビィは風呂に入らないのか?」


 このセリフ、前世ならアウトだな。


「よろしいのですか?」


 何が?

 風呂に入るのに、許可なんかいらんだろ。


「自由に入って良いんだぞ? むしろ、皆にはガンガン入ってもらいたい。清潔な生活への一歩だからな」

「貴重な水を惜しげもなく……マスター様の懐の深さに感謝致します」

「大袈裟だな。水のことは気にしなくても良い。遠慮してる奴がいたら、アビィからも風呂に入るように言ってくれよ」


 うーむ……いまだに風呂に遠慮無く入ることを躊躇しているようだ。

 水の節約も暫くは続くだろう。長年の習慣はすぐに抜ける訳が無い。

 俺は全く遠慮せずに風呂に入るけどね。

 何たって俺のダンジョンだしな。俺の家みたいなもんだ。

 ともかく、会議の前にひとっ風呂浴びるとしよう。


 ……


「ふう……」


 やはり、風呂はのんびり浸かるに限る。

 おっさん連中とすし詰めで入るもんじゃないな。

 この時間は誰もいない。まさに貸し切り状態だ。


 ――と思っていたら。


 ガララッ


 んあ? 誰か入ってきた。

 湯気に映るシルエットは二人。片方は小さいけど、子連れかな?


「おや、旦那かニャ」

「マスター様も会議の前に、身を清めておられるようですな」


 何だ、コテツとマックスか。


 二人共、ちゃんと掛け湯をしてから湯船に入ってきた。

 広い浴槽で三人、並んで湯に浸かっている。

 初めに口を開いたのはコテツだ。


「旦那、まさか浴場を作るなんて驚いたニャ。しかも、いつの間に作ってたんだニャ? 隠していたようにも見えなかったんだけどニャ」

「俺も知らない間に支援者(システム)が作ってたんだ。サプライズだってさ」

「浴場の発想は誰から教えてもらったのかニャ?」


 発想ね……。

 前世の記憶って言って良いものか。

 それよりも――


「コテツはここを浴場って言ってるけど、風呂に入ったことがあるのか?」

「そりゃあるニャ。ヤパンぐらいにしかちゃんとした浴場は無いけど、商売で訪れた折に必ず入るニャ」

「じゃあ、個室の風呂とかは? 家に風呂が付いてる割合はどうだ?」

「こ、個室? そんなもん、身分の高い人の家にしか無いニャ! ……多分」


 ふむふむ……。となると、大衆浴場がメインってことか。


「コテツ、覚悟しとけよ。今日の会議では、そのヤパンって国のことも聞かせてもらうからな」

「何の覚悟ニャ……」

「フフ……コテツ殿は、相当、マスター様に気に入られているようだ」


 改めて言われると恥ずかしいな。

 でも、俺がコテツを気に入ってるのは事実だ。


「頼みたいことも山のようにあるしな」

「今度は何ニャ?」

「それも、会議で言うよ」


 そう言って、俺は浴槽から出た。

 そろそろ時間だしな。

 マックスとコテツも、俺に続いて風呂から上がる。

 支援者(システム)のおかげで、体を拭かなくて良いのは本当に便利だ。

 着替えたら、そのまま会議室へ向かうとしよう。


 会議室は(コア)ルーム前の部屋。用途が無かったので、当面は会議室として使うことにした。

 玉座の存在感が際立って、物々しい雰囲気ではあるが……。


 ……


 俺達が会議室に入ると、部屋の中は長方形の机がきれいに並べられていた。

 長方形の部屋に机が整然としている光景は、まるで講堂のようだ。

 既に何人かのコボルトは席に着席して、会議の開始を待っている。

 見知らぬ者もいれば知った顔もいる。ジョンやルーク、ココもいた。


 机は一方の壁に向かって、面と向くように並べられている。

 俺は最前列の席に座って待つことにした。


「マスターさんの席はあっちですよ」


 ココは玉座を指差して言ってるが、あっちは向きが悪いだろ。

 あれに座ると、会議の間中ずっと横向きになる。

 そうじゃなくても座らんがな。


「この会議は格式張ったものじゃないんだ。俺も住人の一人として――」

「嫌なんですか? あの椅子に座るのが……」


 ああー……ココが、しょんぼりし始めた。

 仕方無い、首が痛くなりそうだけど、あっちに座るか。


「分かったよ。あの椅子に座るから、そんな顔するなよ」

「ほんとですね? じゃあ、お願いします!」


 こいつ、しょんぼりしてたのは演技だったのか!

 俺の隣でも、マックスが声を殺して笑ってやがる。

 俺ってもしかして……チョロい?


 観念した俺は、玉座に座ってみたが……。


 ――体が沈む。

 柔らかいなんてものじゃない、椅子と一体化してしまいそうだ。

 視点を変えて自分を見ると、変な拷問を受けてるみたいな姿になってる。

 これに座っていろと言うのか……?


 俺が自分の有様に辟易していると、長老が会議室に入って来た。

 俺とココが椅子についてのやり取りをしている間にも、会議に参加する者は集まっている。

 勿論、俺の眷属の代表としてノア、キバ、ビークの姿もある。


 どうやら、参加者はこれで揃ったようだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ