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第6話 こんなこともあろうかと

 

 俺の名前が自称:マスターに決まった頃には、ダンジョンの入口が明るくなり始めていた。


(そろそろ行くか。)

「はい! マスター!」

「ター!」


 俺はノアとコノアを連れてダンジョンの外に出た。

 転生して初めての朝、夜とは違って太陽は一つ、空も青い。

 地球に似ている世界で少しだけ、ほっとした。


 夜は気付かなかったが、平原の向こうに森が見える。

 まるで絶壁と向かい合うかのように広がっている。


(危なそうだし、取りあえず入口周辺で色々『収納』してみよう。ダンジョンから離れても(コア)が心配だしな)


 俺は『収納』できそうなものを探して平原を歩いてみるが、目ぼしいものは見当たらない。


(うーん……何か効率のいい方法が無いものかな?)

「お任せください!」


 ガサササササ……


 ノアが勢いよく転がりだした。どうやら、草ごと『収納』していくつもりらしい。

 ノアの通った場所には草が抜かれ、地面が剥き出しになっている。

 草を巻き込んで疾走する姿は粘着クリーナー、通称コロコロを思い出させる。


 ガサササササ……


 気付いたら、コノアも一緒になって転がっていた。


(おーい、あんまり遠くに行くなよ。危ないからな!)


 危ないのは俺なんだけどね。


 ノア達が巻き込んだ草は、次々と俺の『収納』スペースに送られてくる。

 『収納』スペースが共有なのは意外だったが、俺が『分解』するのには好都合だ。


 俺は早速、『収納』されたものを確認する。


 草、石、砂、虫、木の枝等々、色々なものが自動的に増えていく。

 その中で俺の目を引くものがあった。


 夜光草:夜になると淡い光を放つ。

 魔含草:魔素を内包する草、薬の材料として使用される。


 いいね! 夜光草があれば、ダンジョンが少しは明るくなりそうだ。昨日見た光は、これだったのか。

 魔含草は名前が怪しいけど、どんな薬になるんだろうか。


 取りあえず、片っ端から『分解』していく……。


 あっという間に『解析』されていき、『創造』できるものが増えていく。

 DPも増えていくし、最高の気分だ。

 特に魔含草がおいしい。一握りの量で、DPが50増える。昨日のグラススネークと同じ量だ。

 やはり魔素がいいのだろうか。

 ただ、あまり生えてないようで、他の草に比べて極端に量が少ない。


 俺が『解析』の結果を確認している間もノア達が掃除を頑張ってくれるおかげで、徐々に視界が開けてきた。

 『分解』は一瞬で終わるし、後で纏めてやるとして俺は俺で『収納』できる物でも探してみるか。


 何かないか探していると……。


 グサッ


「ギャワン!」(いってぇ!)


 尻に、何か刺さった!


 振り向くと一匹の兎がいた。っていうか兎か?

 こいつ、角がある。さっき尻に刺さったのは、こいつの角か!



種族:魔獣・角兎、ホーンラビット

生命力:13 筋力:9 体力:11 魔力:18 知性:15 敏捷:27 器用:11

スキル:危険察知、火事場



 魔獣? 角の生えた兎にしか見えん。

 近い種類はロップイヤーか。垂れた耳が特徴で額に5センチほどの角が生えている。角といっても、丸みを帯びていて危険じゃ無さそうだ。

 結構痛かったけど……。


「マスター! ご無事ですか!?」


 ガサササササ……グチ!


「ピギュ!」


 あ、轢いた。

 凄い勢いで突っ込んできたノアに兎が轢かれた。

 可哀想に……。多分、こいつはノア達が爆走しているのに驚いて出てきたんだろうな。

 俺と目が合った瞬間、固まってたし。


 ホーンラビットは完全に潰れていた。内臓が飛び出して、グロいことになってしまっている。

 ノアに片付けてもらおう。


(ノア、こいつも『収納』してくれ。)

「はい! わかりました!」


 ノアは煎餅状になったホーンラビットを『収納』した。


 ……しかし、躊躇が無かったな。

 ノアは主である俺を守ってくれたんだろうけど、簡単に轢き殺すとは……。

 昨日のグラススネークもそうだけど、ノアは命を奪うことに躊躇が無いようだ。

 俺のために殺してくれるんだろうけど、俺の方が戸惑ってしまっている。

 今はノアが代わりに手を汚してくれているけど、俺が生きるためなんだ。俺がやらないと。

 いつまでも怖いとか気持ち悪いとか、言っていられないよな……。


(ノア、今度から自分でやるよ)

「マスター? ……わかりました!」


 察してくれた? ノアは賢いから、俺が危険だと思ったら助けてくれるだろう。

 それよりもコノアは大丈夫か? 俺の悲鳴に無反応だったぞ。

 今も草原を掃除している。まあ、良いけど……。


 ……


 それから日が落ちるまで、ノアとコノアによるローラー作戦が実施された。

 暗くなると流石に危険だろうし、作業を止めさせてダンジョンに戻るように指示しておいた。

 作業を監督するのも俺の仕事だ。

 決して夜が怖いからという理由ではない。


 しかし、物欲センサーでも働いているのか?

 結局、蛇も兎も出てこなかったので、覚悟を決めた俺は肩透かしを食らった気分だ。


 ともかく、今日一日でダンジョンの入口付近は、かなり見張らしが良くなった。

 見張らしが良くなったせいで逆に目立ってる気もするが、何か来るなら来い。おいしく頂いてやる。でも、できれば弱い奴でお願いします。


 ……


 ……来ちゃった。



種族:魔獣・魔蜥蜴、ソイルリザード

生命力:36 筋力:29 体力:43 魔力:51 知性:26 敏捷:24 器用:17

スキル:土魔術、土耐性



 しかも、強い奴!

 『土魔術』ってなんだ? やっぱりあるのか? 魔法が。


 ソイルリザードの見た目は、1メートルほどのイグアナだ。体の所々に土の塊のようなものが付着している。


 ソイルリザードはダンジョンに入ってくるなり、ノアを睨み付けている。

 一番の脅威はノアだと判断したのだろう。喉を鳴らして威嚇しているように見える。


「マスター、ボクが――」


 ノアが言い終えるのを待たずに、ソイルリザードが攻撃に移る。

 ソイルリザードの開いた口から石の礫が飛び出した。

 石の礫は人間の拳大ほどあり、高速でノアに向かっていく!


「――片付けましょうか?」


 上手い! ノアは形を変えて、飛んできた礫を反らすように去なした。

 どうやら、一瞬で見切ったらしい。

 軌道を変えられた礫は壁にめり込んでいる。かなりの威力がありそうだ。


 ノアさん、カッコいい!

 俺も負けてられない。


(いや、大丈夫。こんなこともあろうかと――)


 俺は『生成』した。

 ソイルリザードがその場から動かなかったのが、俺には都合が良かった。

 あらかじめ、罠を仕掛けておいたのだ。


 グシャ


 足場が急に消えたソイルリザードは5メートルほど落下し、木の枝や石で『創造』した槍の洗礼を受けた。

 串刺しになったソイルリザードは即死している。


 やった! 勝った! 仕留めた!


 罠はただの落とし穴だ。

 入口付近から真下に通路を伸ばすイメージで『生成』した穴、穴の底には1メートル程の槍を所狭しと生やした。

 槍の材料は日中、『分解』しまくった石や木の枝だ。

 『創造』を使えば形を変えて具現できるので、槍状の枝や石のオブジェを備え付けただけでも、落下の勢いがあれば十分威力がある。

 落とし穴の仕上げは、『生成』で蓋をする。

 床と全く同じに戻すので、視覚では判別不可能な仕上がりとなっている。

 欠点としては自動で発動しないこと。俺のスキルで発動させるので、俺がタイミングを合わせないといけないのだ。


 まあ、俺は影◯シリーズのゲームをよくプレイしてたし、初めてという感覚は無かった。

 ちょっと、ドキドキしたけどね。


 罠で殺すのは、自分の手を汚すのとは違う気もするが、綺麗事など言っていられない。

 俺はダンジョンだ。ダンジョンが罠で殺して何が悪い? これは俺がやったことだ。

 俺が責任を持って、頂きます。


 俺は穴だらけになったソイルリザードを『収納』した。


「流石です! マスター! いつの間に、こんな罠を?」


 穴に蓋をしていると、ノアが興奮気味に尋ねてきた。


 ……やっぱり、気になる? 俺だって、こんなものを用意するつもりは無かったんだけどね? だって、暇だったから。ノア達が、草原を爆走している間、できることが無かったから……。

 『分解』は一瞬だし、近くに『収納』できるものは無いし……。

 しょうがないから、ダンジョンで暇潰し――もとい、試行錯誤していたのだ。

 夜光草もその時に生やしておいた。そのおかげで、ソイルリザードの動きが分かったのだ。先見の明と言ってもらいたい。


 視点を切り換えれるっていうことも、その時に気が付いた。

 化身(アバター)の視点と、ダンジョン全体を俯瞰するような視点――転生した直後の視点――だ。一人称と三人称を切り換える感じだな。

 これを使えば外にいても中の様子が分かる。めちゃくちゃ便利だ。


(フハハハ、人知れず切り札を用意する。それがデキる男というものだよ!)

「なるほど! 勉強になります!」

「マス!」


 適当に誤魔化しておいた。感動してるみたいだし、これでいいだろう。


 俺にはそれよりも、大事なことがある。『土魔術』だ。

 ソイルリザードを分解して『土魔術』も『解析』できた。

 後は『付与』すれば、もしかして『土魔術』が使えるようになるかも……。


 俺は早速、化身(アバター)に『土魔術』を『付与』してみたが――


〈スキルを手にいれただけでは、魔術を使用できません〉


 なんですと!?



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