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第57話 大盤振る舞い

 

 コボルトの名産品を思案しながら歩いている俺に、支援者(システム)が声を掛けてきた。


〈マスター、忘れていることがあります〉


 ん? 忘れていること? 確かに俺は物忘れが激しい。

 心当たりがあるようで、全然、見当が付かん。

 支援者(システム)が切り出すってことは、何か重要な案件なんだろう。

 俺は考えるよりも、さっさと聞く派だ。


(全っ然、分からん! 教えて、支援者(システム)先生!)

〈マスターは、進化を『付与』できることを忘れています〉


 進化!? マジで忘れてた!

 前回、ノアを進化させてからそれっきりだった。


(ちなみに、誰が進化できるんだ?)

〈ビーク以外の眷属です〉


 ざっくり言ったな。しかし、ビーク以外って……結構多いぞ。

 進化させるにしてもDPの消費もでかいし、ここは厳選しないといけないよな……。


〈進化に必要なDP消費量を一覧としました。閲覧しますか?〉

(仕事できるね、支援者(システム)さん! 勿論、拝見しますよ!)


 支援者(システム)の能力向上は伊達じゃないようだ。

 早速、作ってくれた一覧に目を通す。


 ……


 やっぱり、ノアとキバは大量のDPが必要なんだな……。


 ノアが5000、キバが8000だ。

 ちなみに、コノアが2000でコウガが4000、ホーンラビットは1000ときたものだ。

 進化は『創造』以上にDPを消費するようだ。

 実際、能力値も跳ね上がるし、妥当ではあるんだろう。

 しかし、どうしたものか……。


 ビークの『創造』でDPの消費は12000。

 魔導具なんかも『創造』したりして、残りのDPは約50000だ。

 余裕があると言えばあるのだが、それでも全員に進化を『付与』するなんて無理な話なのだ。


 そこで俺は考えた。

 DPを水増ししてみよう。


 大集落から魔窟にかけて『収納』した魔獣を、まだ『分解』していなかったのだ。

 こいつらを『分解』すれば、結構なDPになるんじゃないのか?

 見たこと無い魔獣もいたし、スキルも入手できるかもしれない。やってみよう。

 

 俺はダンジョン、(コア)ルーム前の部屋に移動した。

 外で立ち止まっていると皆から声を掛けられるので集中できんのだ。

 こういうことは、一人で落ち着いて考えないとな。


 早速、『収納』の中身を確認していく……。


 うわぁ……すげえ量。数なんて分からん。

 取りあえず、素材にも使えそうもないゴブリンや魔虫なんかは纏めて『分解』しよう。


 ……


 よっしゃあ! スキル、ゲットだぜ!

 ポイズンモスから『毒鱗粉』、ゴブリンから『斧術』、『投擲』、『嗅覚強化』だ。


 次は、まだ情報を持っていない魔獣にしよう。

 スキル入手用にサンプルとして『分解』する。同じ種族なら一体で十分だろ。

 あとの残りは解体してもらって、素材の情報を入手することにした。


 ジャイアントバットから『高周波』と『聴覚強化』、ファングボアから『目標補足』、『脚力強化』を入手できた。

 しかし、コウモリって超音波かと思ってたら『高周波』なんだな。

 確かに超音波は『高周波』の音みたいだし、そういうことなんだろうか。


 ファングボアはでかいイノシシ。湾曲した二本の牙が危険な奴だ。

 と言っても、俺のダンジョンに突っ込んできてゴブリンと同じ運命を辿ってたし、どれほど危険なのかは分からずじまいだったけど。


 続いて、素材として使える魔獣。

 これはもう、素材になる部分を残して『分解』だ。

 目新しい情報も無いんだし、DPにしてしまって問題無いだろう。


 最後にクーシーだ。

 外見がコボルトに似てるから、ちょっと気が引ける。

 とはいえ、いつまでも『収納』したままにもできないし、思い切って『分解』する。


 クーシーと言えば、脅威の『見切り』。キバでも攻めあぐねるほどの厄介なスキル。見事にゲットだ。

 他にも『方向感覚』、『魔力感知』、『魔力耐性』、『状態異常耐性』まで手に入った。

 俺の『解析』って、強い奴を『分解』すればするほど効果が発揮される。


 結果として、スキルは大量だった。

 肝心のDPはと言うと……。


 うーん……12300と言ったところか……。

 多いと言えば多いけど、数のわりに少ないとも言える結果だ。

 魔窟の『創造』した魔獣って、何故かDPが少ない。


 それでも、DPは60000を超えた。

 全員進化……は無理でも、何かしら『付与』できるだろうし、十分かな。


 俺は眷属が全員集まる夜に『付与』することにした。


 ……


 食事を終えると、眷属は全員ダンジョンの大広間に集まってくれた。

 気付けば大所帯になったものだ。

 眷属だけで良かったんだが、俺が何をするのか興味があるらしく、長老達やマックス、コテツもこの場にいる。

 入口からもコボルト達の熱い視線を感じる。

 どうやら、邪魔にならないように遠慮して、外から中の様子を窺っているらしい。

 これなら、いっそ式典みたいにした方が良かったか?


「マスター、ボク達を集めたということは、何か大きな行動を起こすのですか?」


 考え込んでる場合じゃなかった。


(わざわざ集まってもらったのは、日頃の労いを兼ねて皆に色々と『付与』したいと思ったんだ)


 俺の言葉に、この場にいる全員の表情が一変した。

 ノアやコノアは表情が分からないが、コウガは一目瞭然、一様に喜色を浮かべている。

 しかし、キバは困惑しているようだ。


(どうした? キバは嬉しくないのか?)

「マスター、我は辞退させていただきたい」


 キバの一言で、コウガ達が項垂れてしまった。


(理由は?)

「我は魔窟でマスターの足手まといとなってしまった。罰こそあれ、『付与』していただく資格などない」

「それは、ボクも同じことです」


 ノアまで、何を言いだすんだ?


「いや、ノアは受けるべきだ。あの時、我がいなければノアはマスターの援護に回れたはず、意識を失った我を庇っていたノアには資格があるだろう。むしろ、ノアは我を見捨てるべきだったのだ」

「見捨てるなんてできるわけがないよ! それに、あの時はボクも動ける状態じゃなかったんだ。決してキバのせいじゃないよ!」

(こら! 二人共、そんな理由じゃ俺は納得せんぞ!)

「マスター……」

(あの時は緊急事態だったんだ。魔窟の(コア)は、どっちみち俺じゃないと破壊できないみたいだったし、誰が悪いとか無い。それよりも、他の皆を待たせてるんだから、お前らが率先して並べ!)

「は、はい……!」


 本当は和やかなムードで労いたかったのに……。

 二人共、あの時のこと、思ってたよりも引きずっていたんだな。


(じゃあ、ノアからな)


 俺がノアの前に立つと、ノアは姿勢を正したのか、饅頭型の体がキュッと引き締まった。


(ノアにはいつも、ダンジョンを守ってもらって感謝してる。コボルト達からもノアのことは聞いてるぞ。その調子で皆を助けてやってくれ)

「はい!」


 ノアには勿論、進化を『付与』だ。


「――!」


 光に包まれたノアは驚きを隠せないようだ。

 言葉にならない驚きの声を上げている。


 次はキバだ。


(キバ、お前が自分で言うよりも、俺はお前を頼りにしてるんだ。大集落を助けに行った時も、俺の見てないところで頑張ってることも知ってる。自分のできないところばかり見るな。胸を張れ!)

「御意……!」


 ノアに続いてキバにも進化を『付与』する。

 俺の言葉を噛みしめるように俯いたキバは、そのまま光に包まれている。


 さて、次はコウガに『付与』していこうか。

 流石に進化させるとDPはがヤバい。

 そういうわけで、名前を『付与』することにした。


 順番に名前を付けていく。

 バッカス、シナバー、ヴォルカン、アガット、フェズ、マゼンタ、モナミ、パプリカ、コーラル……。

 全員、『赤』に因んだ名前にした。

 支援者(システム)が俺の記憶から引っ張ってくれたおかげでできた芸当だ。

 先に名前を『付与』していたルズにはスキルを『付与』しよう。

 大集落の件では、かなり活躍してもらったことだしな。


(じゃあ、ルズには『脚力強化』を『付与』するよ。これからも頑張ってくれな)

「有り難く頂戴します……!」


 ついでに、ルズに頼んでみよう。

 俺はルズだけに聞こえるように――


(それと、キバがあんなんだから色々フォローしてやってくれ)

「フフ……分かりました」


 ルズが補佐してくれれば安心だ。


 さて、コノアが一番大変かもしれない。

 なんせ、二十体もいるのだ。

 一体に『付与』するなら、全員に『付与』しないといけないよな……と思っていたら。


「コノア! ミツ、ホシイ!」


 ミツ? 蟻の蜜のことか?


(コノアは蟻の蜜が欲しいのか?)

「ミツ!」


 良いのかな……。

 まあ、コノア自身が欲しいって言うなら、あげるとしよう。


 俺は蟻の蜜を『創造』した。

 入れ物は以前作っていた石の桶、水場に使用していた容器だ。

 容器一杯に蟻の蜜を満たしてやると、コノアが嬉しそうに飛び込んでいる。

 俺は見ているだけで胃もたれしそうな光景だが、コノアが喜んでくれるならそれで良い。

 スライムは糖尿病とか無いよな……?


 これで全員かな?

 ビークが俺を物欲しそうに見ているけど、お前は『創造』したばっかりなのだ。

 お前に労いは早い……と思ってたんだけど。


(そう言えば、お前には部下がいないよな……)


 ノアにはコノアが、キバにはコウガがいる。

 別に指揮系統がはっきりしているわけじゃないが、感覚的に上司、部下みたいなものだ。

 ダンジョンを守るビークの部下。

 別にオウルベアじゃなくても良いだろ。


 というわけで、俺は急遽、新しい眷属を『創造』した。


 ソイルリザードとアクアリザードのコンビだ。

 ついでに名前を『付与』しておこう。

 ソイルリザードがランディ、アクアリザードがアーキィだ。

 その場で付けたので、ちょっと適当になってしまった。


「頑張る……!」

「お任せください!」


 ランディは口数が少ない感じで、アーキィは真面目な感じだな。

 ビークも部下が二人も増えて嬉しそうだ。

 まあ、部下っていうよりも同期社員みたいな感じがするけど。


 さて、終わりだな……と思っていた俺は、何者かの視線を感じた。


(忘れてないよ! お前達にも『付与』するから!)


 俺の前に二匹のホーンラビットが飛び跳ねてくる。

 危なく忘れるところだった。


 この二匹にも名前を『付与』することにした。

 オスがラビ、メスがビビ。こりゃまた、その場で付けたから、いかにも兎な名前を付けてしまった。


「ありがとー」

「嬉しいです」


 名前を『付与』するだけで、急に個性が出るから不思議なもんだ。

 コウガ達も一気に個性が出始めているようだしな。

 各々が違った喜びを体で表現している。


 取りあえず、進化したノアとキバは『鑑定』してみよう。



名称:ノア

種族:不定形・粘性、ウィザードリィスライム

称号:特殊個体(ユニーク)名付き(ネームド)、ダンジョンの眷属

生命力:348 筋力:301 体力:402 魔力:572 知性:281 敏捷:211 器用:303

スキル:擬態、物理耐性、痛覚無効、収納、再生、分裂、危険察知、火事場、気配察知、麻痺液、統率

ユニークスキル:魔力放出、魔力障壁



名称:キバ

種族:魔獣・魔狼、ルナティックウルフ

称号:特殊個体(ユニーク)名付き(ネームド)、ダンジョンの眷属

生命力:450 筋力:414 体力:437 魔力:305 知性:161 敏捷:657 器用:193

スキル:直感、咬合力強化、生者判別、夜目、気配察知、持久力強化、統率、再生

ユニークスキル:身体狂化



 ノアは進化しても、見た目が変わっていない。

 スキルに『魔力障壁』が増えてるけど、魔窟の(コア)が使っていた『見えない壁』みたいなものだろうな。

 攻防一体の魔力、ウィザードリィは魔力の操者って意味合いってことか。


 ノアには悪いけど、キバの変化が気になって仕方ない。


 キバは見た目に変化が起きていた。

 紅い毛並みはそのままに、それ以外の毛が青白く変わっていた。

 紅と青のコントラストが神々しさを感じさせる。


 それよりも、スキルの『身体狂化』?

 進化前は『身体強化』、進化後は『身体狂化』……。

 それに、種族名のルナティックと言うと、『狂気の』って意味だよな……。


 進化が済んだキバからは、特に変わった様子は見られない。

 しかし、表情は喜びよりも戸惑いが大きいようだ。


「マスター、我は……」

(キバ、新しくスキルが身に付いたと思うけど、できれば使わないでくれ)

「はい……この力は危険なものだと我にも分かります」


 やっぱり、あの時のキバの暴走は『身体強化』が関係していたみたいだ。

 詳しいことが分からない以上、『身体狂化』は使わない方が良いだろう。

 時間を掛けて、解明していかないといけなさそうだ。


 ともかく、これで今日のメインイベントは終了といったところだな。


〈マスター、提案があります〉


 おいおい……次は何があるって言うんだ?



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