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第54話 人助けしてる場合か?

 

(コテツのこと、すっかり忘れていたな)


 忘れていたとは言っても、昨日出会ったばかりだ。

 終始ドタバタして大集落を離れてからそれっきり、確かに濃厚な出会いではあったが、魔窟のことや大集落のことで頭が一杯になってたしな。

 それよりも、コテツが俺を旦那と呼ぶということは……。


(コテツは俺が誰か分かるのか?)

「嘗めんでもらいたいニャ、これでも『目利き』があるニャ。姿が変わったぐらいじゃ騙されんニャ!」


 『目利き』で人の判別ができるものなのか? 俺は犬になってるぐらいなのに。


「とは言っても、『目利き』は物じゃないと真価は発揮できないニャ。分かるのは精々、名前と真贋ぐらいだけどニャ」

(名前ぐらいで俺って分かるか?)

「真贋の方でニャ。前の旦那と今の旦那は見た目しか違わないから、すぐ分かったニャ」


 なるほど、面白いな。

 真価を発揮してなくても、そこまで分かるなら十分有用かもしれない。


(そう言えば、ちゃんと自己紹介してなかったな。俺はマスター、犬になったりコボルトになったりする変わり者だ)

「オイラはコテツ、行商のケットシーニャ」


 行商ということは商人か。

 スキルも『目利き』の他に、『取引』と『計算』なんてあったしな。

 商人には必須なんだろう。


(商人ってことは商品があるんだよな? ちょっと見せてくれよ)

「むむ……実は、商品は落としたり使ったりしてて、手元に大した物が無いんだニャ……」


 そんな状況で人助けしてる場合か?

 落とした物だけでも、早く探しに行った方が良いと思うけどな。


「待つニャ! 旦那にあげれる物あったニャ!」


 そう言って、コテツは羽織っているコートの内ポケットを探っている。


「これニャ! これを旦那にあげるニャ!」

(何だこれ、指輪?)


 コテツの出した物は、飾りっ気の無いリング状の物体だ。

 大きさからすると、指輪に見えるんだが――


魔鋼製の指輪:魔鋼でできた指輪、スキルを付加できる


 ハウザーさんの剣と同じ魔鋼製なのか。

 しかも、スキルを付加できるところも同じ。

 魔鋼でできた物にはスキルを付加できる性質があるのかもしれない。

 そして、コテツはこれを俺にくれる、と……。


(気持ちはありがたいけど受け取れないよ)

「な、なんでニャ……?」

(だってお前、商品無くした商人なんて可哀想過ぎるだろ。俺にくれるより、売って金にした方が……って、あれ?)


 そう言えば、この世界に金ってあるのか?

 いや、あるだろうな。商人もいる、『計算』なんてスキルもあるんだ。

 むしろ、金が無い方が不自然だろう。


「ど、どうしたニャ?」

(コテツ、金持ってないか?)


 うん、変なこと言ってるのは自分でも分かってる。

 コテツも首を傾げているが、すぐに気を取り直してコートのポケットを漁っている。

 目当ての物が見つかったのか、コテツは手を差し出した。


(これが、金か……)


 コテツが出した金は硬貨だ。

 銅でも銀でも金でもない。黒っぽい金属の硬貨だった。


魔鋼製の硬貨:魔鋼でできたコイン


 これも魔鋼製? スキルは付加できないみたいだけど、金まで魔鋼で作る意味が分からん。

 そして、気になる点がもう一つ。硬貨に描かれた文字だ。


(100……)


 そう、『100』なのだ。

 硬貨の片面に大きく描かれた『100』という文字。

 その裏には何かの花が描かれている。

 花のデザインはともかく、『100』という文字は数字の『100』で間違いないのか……?


「なんだ。旦那が金に興味があるとは意外だニャ。これで良いならあげるニャ」

(コテツ、これに描かれているのは『100』なのか?)

「質問の意味が分からないけど、これは100円ニャ」

(100円? 本当に100円なのか?)

「ほ、本物の100円だニャ! オイラの『目利き』でも、ちゃんと本物だと判別してるニャ!」

(いや、偽物と疑ってるわけじゃないんだ)

「んニャ?」


 この世界に100円の硬貨が存在する意味が分からない。

 大きさ、材質、デザインなんかは日本の100円硬貨とは似ても似つかないが、問題なのは『100』と読めることだ。

 

(コテツ、これ何て書いてあるか読めるか?)


 俺は前足で地面を掘るように文字を書いた。

 俺の書いた文字をコテツが眺めている。

 もし、読めたなら……。


「旦那、オイラの名前を書いて何がしたいニャ?」


 そう、書いたのは『コテツ』だ。

 片仮名で『コテツ』、その三文字をコテツは読んだ。


 俺の様子がおかしいことに気付いたのか、長老やマックスが心配そうな顔をしている。

 コボルトも文字を読めるのだろうか……?


(長老、マックス、これ何て書いてるか読めるか?)

「ふむ? コテツ……ですが、マスター様が書いたのですか?」


 読めるんだな。

 じゃあ、平仮名は? 漢字は?


 俺は地面に思い付いた文字を書いた。

 漢字は単に知らないだけか、読めないものもあったが、平仮名や数字は問題無く読めるようだ。

 ココやルークまで俺の側で様子を眺めていたので、試しに見てもらったが、二人共読むことができた。


 間違い無い。この世界の言語は日本語だ。

 思い返せば、平原でココの叫び声を聞いた時も言葉だと分かった。

 言葉も文字も日本語、偶然……なわけがない。

 この世界と地球に何か繋がりがあるのか?


「――ということで、この顔をしているマスターさんは思い詰めてますから気を付けてください」


 何だ? ココが何か言ってるな。


「マスター様、心配事がありましたら、どうか遠慮せずに我々に相談してください」


 そういうことか! 本当にココはお節介だな!

 俺が真剣な表情になったせいで、思い詰めてると勘違いさせたようだ。


(違う違う、ちょっと気になることがあっただけだ。大した問題じゃないよ)


 考えても仕方無いか。文字も同じでラッキーとでも思っておこう。

 新しく勉強する必要も無いんだからな。


(それよりも、さっきの指輪貸してくれよ)

「貸す? あげても良いんだけどニャ」


 もらうわけにはいかないが、借りれば事足りる。

 俺はコテツが出した指輪を飲み込んだ。


「あっ!」


 大丈夫、すぐ吐き出すから。


(ほい、返す)

「ええー……何がしたかったニャ……?」


 コテツは返した指輪を丁寧に拭いている。

 汚くないはずなんだけどな。

 まあ、今の数秒で目的は果たした。勿論、『分解』したのだ。

 コテツに返した指輪は、すぐに『創造』した指輪だ。

 『分解』した指輪には『魔力強化』なんてスキルが付いていたけど、同じスキルを『付与』してある。違いなんて分からないだろう。


「ん? さっきの指輪となんか違うニャ? こっちの方が新しいニャ」

(分かるのか?)

「さっきも言ったけど、オイラには『目利き』があるから、これぐらい分かるニャ。それよりも、何をしたんだニャ?」


 バレたら仕方ない。

 コテツに『分解』と『創造』のことを話してやるか。


「……旦那、とんでもないスキル持ってるんだニャ。ダンジョンとか言う洞窟も大概だけど、頭の中に言葉を送ったりできるし、何者ニャ?」

(アッハッハ……気にするな!)


 コテツは納得いってないみたいだけど、面白いものが『創造』できるようになったな。

 なんだかんだでコテツから良いものもらえたし、良かった良かった。

 ついでに、コテツにも色々聞いときたいな。


「何処で商売してるかって?」

(行商なんだろ? 人間の国に行くこともあるんじゃないのか?)

「あるにはあるけど、オイラはちょっと特殊だニャ」

(特殊とは?)

「オイラは南東の国ヤパンと、ヘルブストの森を往復するのを十年繰り返してるんだニャ。それ以外の土地に行ったこと無いんだニャ」


 なるほど、南東の国……マックスから以前聞いた人間の国のことだな。その国の名前がヤパン……か。

 ちょっとずつ、世界のことが分かってくるな。


(コテツの商売の話をもっと聞かせてくれよ)

「えらい食い付くニャ。まあ、それで良いなら教えるニャ」


 ……


 コテツは俺の質問に快く答えてくれた。


 コテツは行商と言っても、個人で行動することがほとんどらしい。

 その理由は、コテツの理念にある。

 コテツは、他の商人が訪れない森の獣人に対して商売をする。利益を度外視してまで。

 利益を優先する商人なら、まず森には来ないそうだ。

 交通手段も無い。魔獣も出る。有益な商品も少ない。商人にとっては危険を冒してまで商売を続ける土地ではないのだろう。

 そんな土地に住む獣人のために商売をするコテツ。

 称号『人情家』の由来は、そこにあるのかもしれない。


 そんなコテツが扱う商品は、鞄やコートに収まる程度の物が主とのことだ。

 森を移動する際に重量物を持ち運ぶのは、小柄なコテツには重労働らしい。


「まあ、荷車はラビットマンに預けて、森にはオイラの身一つで入ってるから一時的に軽装なだけニャ。相手によって商品も違うしニャ」


 そして、気になる商品は鞄ごと落とした、と……。


(取りあえず、明日になったら一緒に探そうぜ。今日はもう諦めろ)

「旦那も手伝ってくれるのかニャ? それは助かるニャ!」


 商品も気になるけど、それ以上にコテツがあまりにも可哀想だ。

 何年も人のために頑張ってる奴だし、一肌脱いでやろうかな。



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