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第52話 変な奴だな

 

 ココと別れて、俺はオウルベアを『創造』する。


 場所は三階層目の部屋、大広間に繋がるダンジョン区画最奥予定の部屋だ。

 ここを突破されれば、俺のダンジョンだけでなくコボルトにも危険が及ぶ。

 絶対に強い眷属にしなければならない。


 純粋に強さを求めてイメージする……。


 イメージとともに光が集まり、形を作っていく。

 今回はかなり大きい。キバの時よりも大きいだろう。

 望む形に整ったところで、光が落ち着きを見せる。


 ――黒いオウルベア。勿論、特殊個体(ユニーク)だ。

 毛皮は黒というよりも青黒く、鈍い光沢を放っている。

 表情は穏やかで、以前見たオウルベアのような凶暴さは感じられない。


「あ、あれ……? マスター……ッスよね?」

「ん? そうだ、俺はマスターだ」


 何だ、こいつ……今までの眷属とは反応が違うぞ?

 『創造』して、一発目で尋ねられるパターンは初めてだ。しかも、挙動不審。

 体がでかいわりに、気が小さい印象を受けるな。

 語尾に『ッス』って付いてるし。


「あの……よろしくお願いしますッス!」

(ああ、よろしくな!)


 ちょっと変な奴だけど、こいつにも名前を『付与』してやらないとな。

 凄い鋭い嘴してるから……ビークにしよう。


(じゃあ、お前の名前は『ビーク』だ)

「はいッス! 自分の名前は『ビーク』ッスね!」


 毎度毎度、自分のネーミングセンスに自信が無いが、そこまで変な名前じゃないだろう。

 ビークも喜んでくれてるしな。


 『付与』による強化も済んだところで、『鑑定』――



名前:ビーク

種族:魔獣・異種、オウルベア

称号:特殊個体(ユニーク)名付き(ネームド)、ダンジョンの眷属

生命力:505 筋力:492 体力:501 魔力:253 知性:129 敏捷:277 器用:250

スキル:気配察知、夜目、遠視、威圧、腕力強化

ユニークスキル:筋肥大



 めちゃくちゃ強いな。

 以前戦った特殊個体(ユニーク)よりも強いとは予想していたけど、差が大きい。

 考えてみたら、名前(ネームド)の違いもあるしな。

 そして、気になる『筋肥大』。前に見た時は、上半身が肉の塊みたいになってたけど、ビークも同じようになるのかな?


(ビーク、ちょっと『筋肥大』使ってみてくれよ)

「はいッス!」


 ビークは全身に力を込めているようだ。

 どういうわけか、ダブルバイセップスのポーズをしているが、意味があるのだろうか?


「――ふん!」


 うおっ! ビークの体がマッチョになった!


 筋肉ムキムキの体にポージングが妙に似合っている。

 スキル使用前がぽっちゃり体型としたら、今はマッチョマン。

 使用前、使用後が違いすぎて、テレビで見たCMの曲が聞こえてきそうだ。


「ふう……」


 空気が抜けたような声とともに、ビークの体は萎んだ。いや、丸くなった……かな?


(今のが『筋肥大』なのか?)

「みたいッス。疲れるんで、ちょっと間しかできないッスけどね」


 同じスキルでここまで違いがあるものなのか。

 個人差によるものなのか、使い方の差によるものなのか、まるで違うスキルに見える。

 でも、ビークが使えるなら問題無い。どう使うかは、ビークに任せれば良いことだしな。


 それから、俺はビークに今までのことを掻い摘んで説明することにした。

 俺の眷属として、現状を理解してもらわないといけないからな。

 迷いはしたが、マックスの集落を同種のオウルベアが襲ったことも話しておいた。

 隠し事をすると、後々後悔することになるかもしれない。

 そもそも、あれはビークがやったことではないし、ビークに何の責任も無い。

 ビークを咎める者がいるなら、俺が代わりに咎められないといけないだろう。

 そのことを知ってもらうために、俺はビークに話したのだ。


「マスター……自分、悪いことをした気がするんスけど……」

(お前がやったんじゃないんだから普通にしとけ。別に気を遣う必要も無いし)


 もしかして、ビークは思ったよりの繊細なのかもしれない。

 表情が明らかに暗い。


(よし、今日の飯の時にお前を皆に紹介するからな。何か一言考えとけよ)

「えっ? マジっすか!?」

(マジだ。覚悟しとけ)


 どちらにせよ俺の眷属である以上、皆に紹介する必要がある。

 ビークは小心者っぽいし、宣告してあげたのだ。俺なりのやさしさなのだが……。


「あわわわ……何喋って良いのか、分かんねッス……」


 逆効果かね?

 まあ、他人の時は気にしない。


 なんやかんやしてたら時間も大分経ってたし、ぼちぼち夕食の時間だろう。

 取りあえず俺はビークを連れて外に出ることにした。

 ビークはずっとテンパったままだ。ちゃんと前見て歩かないと危ないぞ。


「マスター、そいつは新しい眷属ですか?」


 大広間でキバと遭遇した。

 キバはオウルベアとは因縁のある相手のようなものだ。

 キバはビークを睨んでいるようにも見える。

 それに対してビークの方は、キバにビビっているのが丸分かりだ。でかいくせして俺の後ろに隠れようとしている。

 縮こまっても、お前の方がでかいだろ。

 眷属なのに、それで良いのか?


「マ、マスター……あの狼は自分のこと、めっちゃ睨んでるッス……」

(んー……キバはオウルベアと戦って、結構危ない目に遭ったからかな?)


 多分、そんなとこだと思ってたのだが……。


「違う! 我は、貴様が強さのわりに、なよなよしていることが気に食わぬのだ! あろうことか、マスターを盾にするなど言語道断! その腐った性根、叩き直してくれるわ!」

「ヒィィ……!」


 キバが怒りを露わにしている。

 ビークの態度が気に入らないとは、体育会系の先輩後輩みたいだ。

 因縁じゃないなら別に良いな。

 キバの後輩指導は後にしてもらって、俺達は飯にしたいのだ。


(キバ、それは後々任せるけど今は飯にしようぜ。ほら、外じゃ飯の支度してくれてるだろ? キバも行こう)

「むう……マスターがそう仰るならば従いましょう」

「ほっ……」


 ビークめ、分かりやすい安心の仕方だが、延期なだけで中止じゃないからな。

 ともかく、飯だ飯!


 外からは、肉が焼けた匂いがダンジョンまで漂ってきている。

 焼いている場所はいつもの場所。俺達の集落の大通りだ。

 大集落のコボルトも集まって来ているのか、人数が爆発的に増えている。

 長老や側近の二人の姿も確認できた。ちょうど良いかもしれない。


(長老、こっちに来てたんだな)

「ええ、マックスから聞いて様子を見させてもらいました。離れた土地に移動できることにも驚きましたが、ここも素晴らしい集落で驚きましたよ」

(まだまだ発展途上だけどな。なんせ人手が足りないんだ。水の問題も解決できてないし、やることが山のようにある)

「ふふ……そう言うマスター様は、どこか嬉しそうですね」

(そうか?)


 長老達と談笑していて、すっかり忘れていた。

 ビークのことを紹介しないとな。

 近くにいるコボルト達にだけでも挨拶させておこう。


(話は変わるけど、新しい仲間を生み出した。ビークだ)

「ど、どうも……ビークッス。よろしくお願いしますッス……」


 元気ねーな!

 今の挨拶で、キバが唸ってるぞ。


「凄い大きい方ですね。先程から姿を見えてはおりましたが、マスター様がお連れになっているので、理由があると思っておりました。その方はマスター様が生み出されたのですね」


 長老は俺がダンジョンだと知ってるから、魔獣を生み出しても驚かないようだ。

 マックスもビークがオウルベアと分かっているはずなのに、警戒する素振りも見せない。


「実は、ココが教えてくれたのですよ。彼女なりに気を遣ってくれたのでしょう」


 なるほど、それで他のコボルト達もビークを見ても自然体なのか。ココ、グッジョブだ。

 ビークも少し安心したのか、表情から緊張が解けつつあるみたいだ。


「あの……自分、見てのとおり、オウルベアッス。オウルベアが悪さしたことはマスターから聞いたッスけど、自分は他人事じゃないような気がするッス。な、何と言うか……すみませんでした!」


 ビークが突然謝罪を始めたが、ビークには何の責任も無い。

 こいつが何を思って謝りだしたのかは知らんが、そんなことは必要ないだろう。

 コボルト達もそんなことは百も承知だ。


「それはビーク殿がしたことではないのだろう? では気に病む必要は無い。それよりも、心強い仲間ができたことを喜びたいと思う」


 マックスはビークに笑顔で答えた。周りのコボルト達も優しく頷いている。

 俺も初めは受け入れてもらえなかったら……と不安もあったが、心配する必要は無かったようだな。


「自分、何ができるか分かんないッスけど、皆のために役立てるよう頑張るッス! どうか、よろしくお願いしますッス!」


 ちゃんと、でかい声出せてるじゃないか。

 巨体が最敬礼している姿は反って迫力があるけど、誠意は十分伝わっている。

 コボルト達の顔に表れているからな。



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