第51話 同期率30%
大集落の長老に報告を終えた直後のことだった。
〈同期率が30%に達しました。核の処理能力が向上しています〉
いつもどおり、唐突に支援者が告げてくる。
教えてくれるのはありがたいが、急に頭の中に声が響いて、ビクってなってしまった。
長老や側近も俺を見て心配そうな顔をしている。
(驚かしてすまない。ちょっと瞑想するから、そっとしといてくれ)
そう言っておけば、支援者と会話していても大丈夫だろう。
俺は物陰の移動し、目を閉じた。
しかし、支援者め、わざと俺が驚くタイミングを狙っているような気がするな。ともかく、今は同期率だ。
俺の記憶では、最後に確認した時の同期率は26%だったはず。それから『分解』したのはアクアリザードと魔窟の魔素ぐらいだった。
だとすると、魔窟の魔素が大量のDPに変換したということだろうな。
見えない壁や猛毒になるほどの濃度の魔素だし、納得はできる。
一度、ダンジョンのステータスを確認してみるか……。
名称:なし、自称:マスター
種族:不定形、ダンジョン
称号:狗頭人の守護者
核耐久力:30000 DP:64105 同期率:32% 階層:2/3 部屋:4/10
スキル:生成、収納、分解、解析、鑑定、創造、付与、思念波、夜目、咬合力強化、痛覚無効、吸着、再生、火事場、物理耐性
ユニークスキル:同期、化身
加護:女神の加護
おお! DPがとんでもない増え方してるぞ!
30000ぐらいは増えてるんじゃないのか?
DPが一気に増えたから、同期も一気に進んだんだな。
ダンジョンが拡張できるのは当然だとして、他にもあるよな?
〈スキル『思念波』が強化され、対象との思念通話が可能となりました〉
(通話? 相手の思念も受け取れるようになるのか?)
〈肯定〉
内緒話には便利かもしれんが、そこまで有用なのか?
まあ、できる分には得だと思うことにしよう。
そのうち、何か面白い使い方が閃くかもしれんしな。
〈さらに、支援者の能力も向上することができました。マスターの深層意識の情報を検索することが可能です〉
おおお! 支援者まで能力が向上するとは!
そう言えば、初めに言っていたな、機能が強化されるって。
で、肝心の内容だけど……俺の深層意識の情報?
(俺の記憶のことを言ってる……とか?)
〈肯定。マスターの記憶を検索し、支援者を通じて情報を提供することができます〉
(んん? 俺が記憶を思い出すわけじゃないんだな。支援者に俺の記憶を探ってもらって教えてもらうってことか、回りくどいな。何かメリットでもあるのか?)
〈埋もれてしまった記憶、思い出せない記憶を再現可能です〉
思い出せない記憶!?
昔に学校で習った科学だとか、テレビやネットの知識もか!
だとすると、地球の技術だったり文化だったりをこの世界に持ち込めるかもしれん。
俺が思い出せなくても、支援者が教えてくれるなら、十分メリットがある。これは凄いぞ!
(取りあえず、試しに……前世の俺の名前を教えてくれ)
今の俺には全く思い出せない。
思い出せなくても別に良いんだけど、一応は気になるし聞いてみよう。
〈情報が存在しません〉
(えっ? いやいや、俺の名前だぞ。存在しないわけないだろ)
〈情報が存在しません〉
はあ? 大丈夫なのか?
名前が思い出せないのに、他のことは思い出せるのか?
(えー……何か油の作り方とかあるか?)
かなり適当に聞いてみた。
答えがあればラッキー程度の期待だったのだが……。
〈マスターの記憶と、現在入手している情報を照会すると、グリの実と呼ばれる木の実から油の作成が可能です〉
えっ? えっ? 予想の斜め上の回答なんだけど……。
(ちょっと待て。応用してくれるのは良いけど、作り方は説明してくれるのか?)
〈肯定。マスターの意識に直接情報を送ります〉
ん? お? おおっ! 頭の中にイメージが!
なるほど……思い出した。テレビで見たやつだ。ピーナッツオイルの作り方だったな、これ。
同じようにして作れるってことか。
こんなこと教えてくれるなんて、マジで凄いな……。
支援者さん、侮ってごめんなさい。
早速、作ってみたいところだけど、犬のままだと無理だな。
他にも教えてくれそうだし、コボルトに戻ってからにしておくか。
それまでに、他にも聞いておきたいことも考えておかないとな。
あー、楽しみだ。マックスやココ達の度肝抜いてやる。
(支援者、これで終わりか?)
〈否定。マスターが求めていた入口の増加もあります。現在の最大数は四つとなりました。以上で終わりです〉
おお……最後は、流した感があるけど、入口が四つはありがたいな。
『思念波』の件は微妙だけど、支援者の能力向上は、でかい収穫だ。
俺の記憶だけだと、大した知識じゃないからな。
よもや、暇潰しのネットの知識が日の目を見ることになる時が来るとは夢にも思わなかった。
まだ実践したわけじゃないけど、支援者がいるのだ。どうとでもなる。
俺は興奮が収まらず、瞑想を止めて立ち上がった。
長老達が見ているが、ニヤケ面が止まらない。
「マスター様、何か嬉しいことがあったのですか?」
(ああ! コボルトの生活が良くなるはずだ。楽しみにしててくれ!)
今は意味が分からないだろうけど、そのうち分かる。
キョトンとした顔の長老達の視線を背に、俺はダンジョンに入っていった。
ダンジョンの拡張も少ししてみたいしな。
今の俺のダンジョン、はっきり言って居住区になっている。
せっかく、階層が増えたんだし、いっそのこと用途を分けてしまおう。
一階層目を居住区に。
二階層目を核ルームに。
三階層目をダンジョンにするのだ。
これで、ようやくダンジョンとしての機能が果たせるんじゃないのか?
まあ、相手が魔獣か人間かは知らんが、DPを稼ぐようにできる。
罠にするか眷属を配置するかは後にして、部屋を増設しよう。
まず一階層目、各居住地への入口がある大広間、奥に核ルームへ続く部屋、この二つはこのままだ。
次、二階層目、と言っても核ルームしかない。
そして三階層目、大集落を襲った魔獣を始末した部屋、あれを三階層にしておこう。
やるのは簡単、ただイメージするだけ。……はい、終わり!
大集落と繋げてた入口も大広間に移したことで、全ての集落には大広間から行けるようになった。
三階層目の入口については後々、森の何処かに繋げてみようかな。魔獣が入って来る場所を探してみるとしよう。
残り一つの入口の用途も決まったな。
さて、ダンジョンらしいと言えばモンスターだ。
ノアやキバを常駐させるわけにもいかんし、新しい眷属を『創造』するのが良いだろうな。
とはいえDPを節約したいし、多くは『創造』できん。
取りあえずは侵入者を通さないボスっぽい魔獣だ。
うーん……俺の『創造』できるやつだと、アレが思い浮かぶんだよな……。
でも、マックスやココに悪い気もする。
「あれ? マスターさん、犬に戻ったんですか?」
うおっ! いつの間にかココがいた!
確かに今は、大集落に人手を送るために人がひっきりなしに移動してるけど、タイミング良すぎだ。
(色々あって、三日ほど犬に戻ることになったんだ)
「そうですか。やっぱり私にとってのマスターさんは、この姿ですね」
まあ、良いんだけどな。
でも、首元を撫でるのは止めて欲しい。
確かに気持ち良いけど、俺を完全に犬扱いしてるように見える。
「それで、今度は何を考えてたんですか?」
(……別に? 何でもないよ?)
「嘘ですね。また、誰かに気を遣って悩んでたんじゃないですか?」
本当にココには隠し事できなくなってるよな。ええい、仕方ない。
(実は、新しい仲間を生み出そうかと思ってな……)
「それで、何で悩むんですか?」
(実は……候補がオウルベアなんだ)
オウルベアはココにとっては父の仇だ。
勿論、俺の『創造』する眷属とは別なのだが、トラウマになってるかもしれない。それが怖かったのだ。
「あの強い魔獣ですか? 凄いじゃないですか!」
あ、あれ? そういう反応するの?
(嫌じゃないのか?)
「マスターさんが何を言いたいのか分かりますよ。でも、心配いりません。そんなこと言ったら、キバさんだってそうじゃないですか」
(そうか……分かった。踏ん切りが付いたよ。俺はオウルベアを『創造』する! ありがとうな、ココ!)
「ふふ……。マスターさんは、気を遣いすぎなんですよ」
そうと決まれば、早速『創造』してみるか!