第5話 名前を考えてみる
自分で書くって、難しいですね。
でも、めっちゃ楽しいです。
さて、気持ちを切り換えて次の行動に移るとするか。
とは言っても、DPを貯めるにしても今は夜だ。行動に移すのは朝になってからとしよう。
「マスター、次は何をするのですか?」
忘れてた。ノアを放置してた。
さっきから、ずっと支援者と話してたから、ノアのことをすっかり忘れていた。
(あー、今日はもう遅いから寝る。明日から忙しくなるから、お前も今日は休め)
「マスター、ボクには睡眠は必要ありません」
えっ? そうなの? 確かにスライムって寝るイメージは無いな。
(そうか? じゃあ、隣の部屋で見張りを頼む。何か入って来たら教えてくれ。無理しないでいいからな)
「はい! 任せてください!」
そう言うと、スライムはポヨンポヨンと弾みながら核ルームを出ていった。寝ないでいいって便利な体だな……。
俺は犬らしく、その場で体を丸めながら横になった。
……
〈貴方にも睡眠は必要ありません〉
(マジで? なんでだ?)
〈貴方の本体は核に接続され、同化しつつある状態です。『化身』には貴方の自我情報のみが憑依しており、『化身』はDPによって存在を維持しているため、生命維持活動は必要ありません〉
(……要するに、呼吸も食事も睡眠もいらん、ってことだな?)
〈肯定。補足として、呼吸を行なうことでDPを微増させることが可能です〉
(ああ、空気を吸うからか)
〈肯定〉
まあ、寝なくて良いならそれで良いか。朝まで外に出るのは怖いし、ノアと一緒にいるとしよう。
俺は核ルームを出て隣の部屋へ行くと、ノアは部屋の中央にいた。
部屋の中央でうっすらと青白く光るノアは、お洒落なインテリアみたいだ。
どうやら俺に気付いたらしく、プルンと震えて話しかけてきた。
「どうしました、マスター?」
(いや、俺も寝る必要ないみたいだし、朝まで暇だから話でもするか?)
「はい!」
それから俺は、外が明るくなるまでノアと話をすることにした。
ノアは生まれて間もないのに一般常識が身に付いている。
本人にも理由はわからないそうだが、支援者の説明によると、俺の『創造』した生物には俺の影響を受けて、ある程度の知識を持って生まれるらしい。
ただ、常識に限るらしく、文化的な知識や専門知識、雑学なんかについては無知だった。
「マスターのお話は、とても面白いです!」
どんなことにも興味を持って聞いてくれるので、話す方も楽しい。
俺はノアには今までの経緯を話すことにした。前世のこと、転生したこと、支援者のこと、これからのことを……。
(――というわけで、今に至るんだ。俺も分からないことだらけだから、助けてくれよ!)
「勿論です! マスターはボクの創造主ですから! マスターのためなら、どんなことでもします!」
(いや、無理はするなよ? 俺も無理して死んだみたいだし、お前が死んだら俺が困る)
「マスター……。分かりました! 死なない程度に頑張ります!」
本当に分かったのか?
(そういえば、さっきの名付けでスキルが増えたよな? どういうものか分かるか?)
「はい! 『分裂』と『再生』ですね! 大丈夫です! 効果も把握しています!」
(そうなのか? じゃあ、教えてくれ)
「はい! 『分裂』は体を分けて増えることができるスキルです。『分裂』すると小さくなって能力が下がりますが、『再生』することで元に戻ります!」
(どっちも名前どおりか。お互いが補完するなら、ノアを無限増殖できるんじゃないか?)
いきなり、裏技発見か?
……残念、デメリットもあるようだ。
「分裂体は、おそらく最低限の能力しかないと思います。意識的に能力の分割ができるとは思いますが、能力を分けすぎると、ボクがボクでなくなるかもしれません。
『再生』も一瞬ではなくて、時間がかかります。一度の『分裂』を『再生』で元に戻すには一日はかかると思います。」
なるほど、優秀ではあるが万能ではないか。
ノアも使ったことが無いからか、断定はしないみたいだ。
(じゃあ『分裂』してくれ。ノアが大丈夫と思うなら、な。さっきも言ったけど、無理はしなくていいから)
「わかりました! やってみます!」
そう言うと、ノアはプルプルと震えだした。
よく見るとノアの一部が膨らみ始め、コブのようなものができていた。
徐々にコブが大きくなるのに対して、ノアは縮んでいく。
コブがサッカーボールほどの大きさになったところで――
プチュン
コブが取れた。というより、千切れた。
なんというか……想像していたのと違うな。痛そうだ。
プルプル震えていたのも、力んでいたのかもしれない。
(大丈夫か?)
「大丈夫です! 力が抜けた気がしますが、問題ありません!」
返事をしたのは、元々ノアだった方だ。ノア本体はこっちのままのようだ。
名付け前と同じぐらいの大きさになり、能力は知性以外がほぼ半減している。それ以外に変化はない。
ノアから別れた方は返事が無い。
どうやら、ただのスライムのようだ。
「ダイジョーブ!」
返事があった! どうやら、一応喋れるようだ。
分裂体の大きさはノアより一回り小さいし、光ってない。
能力のほうは――
種族:不定形・粘性、スライム
称号:分裂体、ダンジョンの眷属
生命力:36 筋力:30 体力:33 魔力:30 知性:32 敏捷:27 器用:41
スキル:収納、擬態、物理耐性、痛覚無効
ノアの名付け前よりも弱いけど、グラススネークよりは強いか。
スキルに『収納』って、マジか? これだけで『分裂』の実用性が変わるぞ。
(すごいぞ! ノアがいれば、これから先も何とかなりそうだ)
「喜んでもらえて、ボクも嬉しいです!」
「デス!」
(最初のノアよりも喋るのが上手いかもな)
「! 分裂体にボクの経験を反映させたからです!」
おっと、ノア、もしかして拗ねたか? 思ったより子供っぽいかも。
(じゃあ、やっぱりノアが優秀なんだな!)
「えへへ、ありがとうございます!」
「ザイマス!」
ノアはスライムなのに感情がはっきり表れる。俺はそれが嬉しい。
生前に子供はいなかったけど、子供がいたらこんな感情になるんだろうか?
(それじゃあ、ノアの分裂体はなんて呼ぼうか?)
「分裂体に名前を『付与』するんですか?」
(いや、『付与』じゃなくて、ただの呼び名だ。『付与』しようにもDPが残り少ないしな。分裂体って呼び方は俺が嫌なだけだ)
「マスターが考えた名前が一番素晴らしいと思います!」
「マス!」
(まだ、何も考えて無いけど……。ノアの子供みたいなもんだし、子ノア……コノアでいいか?)
「コノアですね! ありがとうございます!」
「コノア! コノア!」
ノアもコノアも嬉しそうに跳び跳ねている。
紛らわしいかと思ったけど、俺はネーミングセンスに自信が無い。
『付与』できる余裕ができたら、改めて名前を『付与』しても良いしな。
「……ところで、マスターのお名前は何と言うのですか?」
そうだった! 俺には名前が無かった!
前世の名前も思い出せない。
(気付かなかった……。俺も、今日生まれたようなもんだし、誰かから名前を付けられるわけが無かったよな。)
「マスター……」
(いや、落ち込んでるわけじゃなくて、どうしようかな? って思っただけだ。自分に『付与』できるなら、それでいいし)
〈『付与』は『創造』したものが対象、例外として『化身』にも一部適用が可能です〉
おっと、支援者が現れた!
(『化身』に『付与』できるなら、問題無いんじゃないか?)
〈『化身』に『付与』できる能力はスキルのみです。核に記録されているスキルを『付与』の権能の一部を使い、化身に反映します〉
(一言でお願いします!)
〈核の所有するスキルは、貴方のスキルです〉
なるほど、自分のものだから使えて当然だ。
化身に反映させるために『付与』を使うんだな。
「どうしました? マスター」
ノアが心配している。
まあ、支援者との会話はノアには聞こえないし、俺が急に固まったように見えるだろうな。
(すまん。支援者と話をしてた。自分に名前の『付与』はできないみたいだ。それじゃあ、ノア、お前が付けるか? 俺の名前)
「えっ!? そんな! 畏れ多いです!」
(うーん……。じゃあ、自分で決めるか)
〈同期率が不足しているため、名前を登録できません〉
名前にも同期率が関係するのか?
名前がずっと『なし』のままってどうなんだ? 俺は面白いけど。
ノアは俺をマスターって呼んでくれるし、問題は今のところ無いんだよな。
(ノア、俺に名前はまだ早いらしい。取りあえず、今までどおりマスターって呼んでくれ。今の俺の名前は『マスター』ってことだ)
「わかりました! マスター!」
「ター!」
〈了解〉
え? 支援者も返事した?
あっ! 俺の名前が、自称:マスターになってる!
名称:なし、自称:マスター
種族:不定形、ダンジョン
おーい! これじゃあ、俺が恥ずかしい人みたいじゃねーか!